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第二十三話 「トラブル支度」

 


 四人と二人は駅員用の裏口からマルカン駅を出て、駅舎をぐるっと回った。危うげなく線路側に位置するトタン製の車庫の中に入っていく。


 エンジンの陽動のおかげで簡単に移動できた。一体、どんな訓練を施せばあそこまで賢くなるのだろうか。何にせよ、RDDが生み出したひとつの戦力に間違いない。


 ――車庫の中は思ったよりも明るい。天窓がずらっと並んでおり、採光がよかった。

 テッドが見渡す限りではアジフライの姿はない。セネカが回り込んで影を見たみても、やっぱりいないようだった。


「テッドさん」

 レイラが呼んだ。

「あれです。あれならばニュードールズまでそうかからないはずです」

 彼女の指さす先には、先程横転した古い車両よりかは新しい車両が、眠るようにじっと佇んでいた。


 昨夜、第A部隊は列車を使ってニュードールズへ向かったため、多少は発車のための流れが分かるという。


 テッドは早速乗り込んだ。中もやはりと言うべきか真新しい。乗ったことがないため実際どうかは知らないが、これは現役の車両と見える。


 こちらが何を言うまでもなく自ずと運転席に向かったサリーは、どこか興奮気味だった。

「なるほどな。こりゃ高性能だ」

 彼は腕組みをして唸る。


「分かるのか?」


「なんとなく。これでニュードールズまであっという間ですよ」

 彼はポンポンと運転の器具に手を置いた。埃も積もっていないのが分かる。


「そうか。それなら安心だな、サリーの彼女も、リルのことも……」

 妹のことを考えると気が気でならなかったものだが、もうすぐで会える。今となっては、この手で守ってやれると感じることもできる。

 改めて胸を撫で下ろすのあった。


 同じように安堵の息を漏らすサリーだったが、一拍おいて口を開く。


「ただ……問題はレールの切り替えですね。俺はできることやりますけども」

 若干嫌味な言い方だった。


 ――そう、運転は彼の仕事だが、レールの分岐の操作は俺とアフロ隊員の仕事である。


 車庫から出すための切り替えは、駅の中の管理室でセネカがやってくれた。

 だが、列車を車庫から出した後に手動で線路の切り替えを行わなければならない。


 こちらとて失敗は許されないが、サリーの運転には一切の不安が無いことが、さらにテッドにプレッシャーをかけるというものだ。

 少し、身の引き締まる心地がする。


「……じゃあ、運転は任せたぞ」

「御意。任されました」

 彼は軽い敬礼を飛ばして向き直った。


 その後ろ姿に微笑みを飛ばして、運転席を出る。


 客室にはすでに例のカバンを含んだ荷物が運ばれ、シウムやセネカが待機していた。先頭の操縦席とこの客室の二両でニュードールズへ向かう。

 六人と一匹ではこれで十分だった。


 楽しげに談義するシウムとセネカを横目に車両を降りた。やっぱり、同期なだけあるし、お互い識者(オタク)なのも大きいだろう。


 シウムに関しては、ブラインドホークで一番大きな傷を負ったと言える。色々負担もかけてしまったし、セネカもそれを承知で付き合っているのかもしれない。

 ――なんてことを感じた。考えすぎかもしれない。


 車庫の前方、ゲートの方に向かう。


 ゲートの隙間から外を覗いているレイラに様子を尋ねた。

「どうだ? アジフライたちの様子は」


変わりました(・・・・・・)。明らかに動き方が違います。何かを探し回っているかのようですよ」

 すると彼女が場所を開けてくれたので、テッドも外を見てみた。


 ――確かに、彼女の言い方は的を射ているかもしれない。

 走り回るエンジンに全く見向きもせず、同じところをうろついている。それは確かに、誰かに何らかの知恵を授けられたように見えた。


「もしかして……俺たちのことを?」


「ええ……卑見(ひけん)ですが、先程、ブラインドホークを迎え撃ったときのアジフライたちと同じではないでしょうか」


 彼女の太刀筋と同じくらい鋭い。テッドにはどこが卑見なのか分からない。

 しかし――

「――となると、ジェスター・エルサゲートか」


 先程から時間はあまり経っていないが、追いついてきたとしても何ら不思議ではない。

 彼が命令を下しているのだろう。どうやっているのかは皆目見当もつかないが。


 どうだろうか、とレイラに尋ねようと彼女の方を見ると、彼女は俯いていた。


「ジェスター、エルサゲート……ですか?」

 何やらレイラはその名に覚えがあるようだ。


「その感じ、標的(ターゲット)……ではないか。そうだったらとっくの昔に鬼籍(きせき)入りだな。でも、あいつを知ってるのか?」


「…………いえ、関係ございません。()きましょう」

 彼女は背を向け、スタスタとその場を後にする。


「……何だ?」

 テッドはレイラの後ろ姿に、一切の余裕を見出せなかった。


 油断も隙もない警戒しっぱなしの歩き方。

 普段の彼女は“素人に舐められる歩き方”なのだ。隙があるように見えて実は隙のない歩き方、それが彼女の本来の歩き方。だからこそ暗殺のプロと言える。


 彼女とはそこそこ長いため、どことなくこれは只事でないということが分かった。

 

 ジェスターとワケありのようだが、踏み込むのも憚られる。


 気を紛らわすため、テッドはもう一度、外を見た。


「……うちもペット欲しいなぁ」

 エンジンは元気に線路の上を走り回っている。陽動の役目を果たせていないにも関わらず、健気に辺りを駆ける姿が愛らしい。

「でも、リルが許さないだろうなぁ。『お兄は仕事で面倒見れないでしょ!?』なんて言いそうなもんだ」


 しばらく我を忘れて見入っていると、アフロ隊員が声をかけてきた。


「準備完了しました。車両の切り離し、スモークの設置も済んでますし問題ないです」

 そうか、とテッドも車両に戻る。


 顔を叩いて気を取り直した。


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