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第二十話 「平常運転、機転、横転」

 

「ジェスター・エルサゲート、国際テロリストですよ!!」


「――アフロ野郎!」

 一声でアフロ隊員は銃を取り出し、それぞれに投げ渡した。彼自身はドラムマガジンのマシンガンを抱える。


 一気に空気が張り詰めた。ブラインドホークが請ける任務のときの空気だ。


 それにしても、彼のことを悪人面だとは思っていたが、まさか彼もテロリストだとは思いもしなかった。


 シウムが前に出て、ソードオフショットガンで運転席のドアを撃ち抜いた、何回も。

 破れた扉の向こう側に人の影はない。

「さっきの音……もしかして!」


 彼女から目配せを受け取ったアフロ隊員は、後部車両に続く扉を蹴破る。

 他の三人は素早く陰に隠れ、銃を構えた。


「……あっちゃー、キツイなあ。やっぱブラインドホークは伊達じゃねえようだ」

 白々しくボヤく声が聞こえた。


 しかし、扉からの狭い視野から見えたのは彼ではない。

 びっちりと並んだアジフライが成す壁だった。その向こうから彼の声がする。

「なに、心配するな、殺さないよ……三人はね(・・・・)


 ――そう、アジフライらは一切動きはしなかった。襲ってくるのが自然である。

 動かないと言えども、列車によって左右に揺られているのだが、それが一層不気味さを引き立てていた。恐ろしさにもまさる威圧感。


「……“三人”、か」

 テッドはジェスターの言わんとするところを察する。ブラインドホークを三対一に分けるとするならば、性別か“あれ”くらいしかない。前者はアフロ隊員のこともあり、面倒くさくなる。


「つまり“強化人間”は、か? そして、そうじゃない(・・・・・・)のはサリー。そういうことだな」

 当の本人は未だにタバコを咥えたまま。

 平然と、いつも通りの調子でアサルトライフルを構えている。

「そうそう。“強化人間”――“エヴォリューション”はとっておけって言いつけられたもんでね」


 『言いつけられた』、ということは彼には上がいるのか。スターゲイザーだろうか。


 やっとアジフライの上からジェスターが頭を出した。

「――じゃァ、隊長として、どう命令するのかな? 見せてもらうよ」


 部下三人の目が集まった。険しい目つきは業務中のそれ。今、俺たちは仕事中だというわけだ。

 やっといつものブラインドホークになった、そんな気がする。


「……すると、だ。女王様っていうのはスターゲイザーのことか、なるほど」

 先程のヤツの言動から察するに、この先にスターゲイザーがいるというのだろう。

 我ながら、食べたのは缶詰だけなのに、よくこうも頭が働いたものだ。


 きっと、これが慣れた空気だからだ。ブラインドホークの仲間がいて、そして俺は銃を握っている。そうするだけで落ち着ける。


 テッドはアフロ隊員に目を合わせ、彼の目線を導くようにして視線を車両の接続部に向けさせた。分かるだろ、と。

 その意を汲んだアフロ隊員はマシンガンの先を向ける。


「――おっと、そりゃねえぜ隊長さんよォ。“答え”を聞かせて貰わねえと」

 ジェスターに感づかれたが、それだけだ。


 アジフライの先頭一列がジリジリと前へ出る。車両を切り離すような真似をしても、こちらに乗り移れる所まで近付いてきた。


 一触即発。呼吸ひとつにも気が集中する。


 テッドは深く息を吸い、言葉と共に吐き出した。

「考えるまでもない。ウチら、死ぬ時は一緒って決めていたんでね」

 啖呵を切ると、ポケットの中のリボルバーに手を添える。


「やれッ!!」

 アジフライたちは一斉に飛びかかった。


「――遅え!」

 テッドはリボルバーを放つ。撃鉄は止まらない。次から次へとアジフライに撃ち込んだ。

 ヤツらの勢いを相殺させたその隙に、アフロ隊員がマシンガンで連結部を壊す。銃弾と金属とが大きい音をたて接触し、その形を変えてゆく。


 シウムやサリーもアジフライを狙い、掃射を繰り出した。いよいよアジフライたちは圧され始める。

 ドア枠から見える蠢きも小さくなり、テッドらは後部車両の切り離しに成功した。

 車両は推進力を失い、徐々に距離を離してゆく。


 実にスマートな解決策(ソリューション)だった。


「ふぅ。四人でやるのも久々だったが……大丈夫か?」

 三人は頷き、得意気な表情でOKサインを出した。


 車内に火薬の匂いが立ち込める。

「サリー、列車の運転はできるのか?」


「やる前にできないって決めつけちゃあいけないですよ隊長」

 列車は未経験というサリーは運転席に向かった。



「それ、どうなってるんですか? すごいですよね!」

 アフロ隊員は目を輝かせている。


「え? いやぁ……詳しいことは私にも分からないかな」

 一連の流れをいつもの要領でこなしたシウムの左腕に、アフロ隊員が食い付いたのだ。


 それはそうである。二丁持ちでショットガンを扱うというのだから、只の義手ではないことは明らかだ。もしも一般の義手でやってしまえば、色んなところを外してしまい危険だ。


 なんたってフォートゼンチ提供の義手。

 トラベス曰く『単なる余り物』。シウム以外にこんな代物を必要とする人間なんてそうそういやしない。



 テッドが納得していると突然、ぐらっと身体が揺れた。車両にブレーキがかかったことによる慣性。


「またかよオオォッ!!」

 ブレーキ音混じりにサリーの叫び声が聞こえる。


 急ブレーキだった。テッドは慣性の力に身を乗せ、運転席に飛び込む。


 サリーは泣き顔になっていた。

「デジャヴですよ!」


 アジフライのバリケードが立ちはだかる。何重にも並んだアジフライたち。

「これは……またか」


 近づくにつれて、バリケードという表現が不適切だと知ることとなる。

 何重にも、何重にも。それは壁と言うより海のようだった。

 マルカンの駅舎からぞろぞろと出てくるアジフライたち。ゆらゆらと揺れるアジフライが波を成している。


 いつしかのヘリコプターを想起させた。


 列車は減速しているものの、それでは足らない。突っ込んでしまう。


「クソが! 脱線しちまうッ!!」

 危惧されるのは、列車がアジフライに乗り上げて脱線してしまうこと。

 もちろん列車にハンドルは無い。ただ真っ直ぐ進むのみの不器用な乗り物なのだ。

 つまり、このレールは地獄へと続いている。


 ――ならば降りれば良いのか。

 いや、いくらブラインドホークといえど、あの大量のアジフライは相手にできない…………大漁か?


 一瞬だけ判断の時間を使い、テッドは客室に向けて叫んだ。

「アフロ! グレネードよこせ!!」


「どうするんですか!?」

 サリーは戸惑いつつも、必死にブレーキのレバーを抑えている。


「脱線させられる前に脱線してやる」

 テッドは投げられたフラググレネードを受け取ると、リボルバーの銃床で窓を叩き割った。


「何かに掴まれ!」

 ピンを抜き、思いっきり前方にぶん投げる。二人は頭を下げた。

 それはレールごとアジフライの手前で爆発し、テッドらの活路を拓いく。


 列車は途切れた箇所に差し掛かり、大きな揺れを伴って車輪がレールから降りた。

 先頭車両が左を向き、右の横腹をアジフライの海にぶつけた。

 水を掻き分けてぐんぐん進んでいたが、あまりの抵抗に勢いが減衰し、ついには転がり始めた。


 右、上、左、とテッドの身体は叩きつけられ、重力の方向は再び下の床となった。


 列車の動き止まると同時に、テッドは客室に頭を出して様子を見た。

 内部はどこからとも知れず発生した煙に包まれている。テッドは目を凝らし、二人を探す。


 窓は割れ、脚の折れた椅子が転がっている中、二人もうずくまるように倒れていた。


「大丈夫か!?」

 テッドが叫んだ瞬間、その喉元に冷たい感触を押し付けられた。


 ――――それはナイフであった。

 




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