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第十話 「彼の名はボーンヘッド」

 


 テッドは電気のスイッチを入れた。プラスチックのカバーは染みだらけだ。

「生きているか?」


「ん、ああ。テッドか……“引導”ってのを告げにきたのか?」

 相当重くやられたように見えるのに、彼の口は軽い。軍人の打たれ強さだろうか。


 テッドもその底抜けの冗談に乗じた。

「そうかもな。悪いが俺たちはアルバートを始末しにいってくる。それまでお留守番だ」

「へへっ、冷てえなぁ。俺も散歩に連れてってくれよ……」


 テッドは一瞬、呆気にとられた。

 彼は傷だらけだ。まともに動けるのか怪しい。


 頭を打たれたか、出血で頭に血が回っていないのか。どちらにせよ、これは冷静な判断ではないと感じた。

「ダメだ。それじゃ動けないだろうが。手錠の次は“足枷(足でまとい)”か?」


「いや、俺は命さえあればどんな闘いにも勝てるよ。“トンボが飛ぶぜ”?」

 痛々しい痕にもシワを寄せ、妖しく笑いかける。

 それでも彼の眼は本気だった。本気ではあっても正気ではない眼差しがテッドを震え上がらせる。

「てっきりお調子者とばかり思っていたが……」


 今の彼のような眼差しはテッドでも見たことがない。“今、テッドが生きていること”が何よりの証拠だ。


 ――――絶対に殺す。そんな目。


「なにか……吹っ切れた気がしてな。サムやトラベス中尉(Mrs. T)までもが死ぬと考えると」

 彼は肉体的だけでなく、精神的にも深い損傷を負っていたように見えた。


「基地が狙われているのか?」

「ああ、RDDでも現場の兵は知らないか……彼女の首は国宝級でな。欲しがる敵対組織も多いのさ」


 初耳だが、驚きは少なかった。むしろ、納得がいった。そうでなければ困る。あんな一般の軍人がいてたまるか。


「俺にとっては恩人さ。絶対に守らなきゃいけない存在だ」

 ローリーは心情を吐露する。


 ――――守るべき存在、か。脳裏に妹の笑顔がチラついた。


「『守るべきものを守らなければ、人は死ぬ』。守るために脅威を排除する……」

 テッドの口をついて出た言葉は、師匠と呼べる人が教えてくれたものだった。


 アルバートを殺せば、師匠に申し訳が立たないが、妹のためならば――守るべきものを守るためには、躊躇わない。


「付いてきてくれるか」

 テッドは彼に繋がれた鎖を引きちぎった。ローリーは自由になったその腕で丸を掲げる。


「ヤバいときは遠慮せずに切り捨ててくれ。その鎖みたいにな」


「そういうわけには――」

「――頼むぜ。隊長(・・)

 被せながら、彼はじっとテッドを見つめてきた。先程とは打って変わって何かを欲しがる子供のような、そんな純粋な目。


 テッドはそういう類いの押しにめっぽう弱かった。不本意ながらに頷く。


 ――――彼と出会ってから数時間。一時間も顔を合わせてはいない短い付き合いだ。であるにも関わらず、彼は自分のことを信じていた。それも最初から。


 前々からの噂というのはあったかもしれないが、一回としてまともに自分の射撃を見ていない彼はテッド・クラフトを隊長と呼ぶのだ。


 それに比べて自分は彼を信じ切れていない。まだ彼のことがよく分からないでいる。

「もし俺が危なくなっても、同じだ。時間は稼ぐからさ」


「そりゃならねえぜ、たまには俺の方を見殺しにしてくれよ」

 嫌に明るい声だった。セリフに合ってない。


 彼の心の闇が蓋から漏れ出してきたのだろう。怖いもの見たさでテッドは訊いた。

「……サム以外にも組んでたのか」


「そうだな、自己紹介をしようか。俺はローリー・“ボーンヘッド”・フリーストーン。数十の指揮したチームでただ一人の生き残り(マヌケ)さ」

 やはりいつもの調子で話している。それがピエロのようで不気味さを覚えさせた。


「……思い出した、“命の引渡し人サクリファイスメイカー”の噂」

 絶対に任務を遂行する代わりに、他の隊員を全員見殺しにするという隊長の話だ。


 その隊長の腕は良い、どんな仕事もこなしてしまう。しかし、その指揮は絶望的。


 昔、その隊長を始末してほしいという依頼があった。当然、リスクが高すぎて断ったが。次の日に、その依頼人が行方不明になったとも聞いた。


 それが彼、ローリー・“ボーンヘッド”・フリーストーンなのだ。テッドが検問所で助けたときに投げかけられた一言、『あんたは命の恩人だ』や、その後もやたらとテッドを褒めていたその真意を知るところとなる。

 彼は、テッドが隊長として隊員を殺さなかったことを言っていたのだ。厳しい戦いを――何回も死にかけたが――生き抜いてきたブラインドホークを尊敬していたのだろうと思った。


「俺の腕は分かっただろう? さっさとアイツを追いかけようぜ」

「あ、ああ。そうだったな」

 うっかりローリーの話に夢中になってしまった。お調子者だという印象は遥か彼方まで吹っ飛ばされた。彼は正真正銘、伝説級の男、ローリーだ。


 二人は拷問部屋を出て、伸びているアフロ隊員を叩き起した。

「行くぞ。アルバートのソーセージを作りにな」


 テッドには背中を任せられる仲間が二人いた。

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