第17話
次の日、朝の目覚めは最悪で胃の辺りがキリキリして体調面も精神面もすぐれない。
「健二!おーい、飯だぞ」
1階から兄貴が馬鹿みたいな大声を上げた。
「兄貴の大声は目覚ましより効果あるよ」
「じゃあ、お前のスマホに俺の声を録音しようか?」
兄貴はニタって笑って訊ねた。
「それは、勘弁だ」
俺はげんなりした顔をして答えた。
* * *
ダイニングテーブルで昨日の残りのカレーライスを兄貴と向かい合わせで食べていた。
「父さんは?」
「今日は会議があるからってお前が眠ってる間に出て行ったよ」
兄貴は昨日録画していたアニメを観ながらも答えてくれる。
「兄貴さ、昨日クラスの女子を怒らせたんだけど今日謝るべきかな?」
普段、俺は兄貴に悩みごとなんて相談しないが今日は一早く誰かに何か助言的なものを欲しかった。それか、気休めの言葉でもよかった。
「何故、その子は怒ったんだ?」
「嘘をついて彼女に言われた約束を破ったことと身勝手な行動をした事だと思う」
兄貴はアニメを途中で止めて横向きだった姿勢を真っ直ぐな体勢に戻り俺を真っ直ぐ見た。
「お前は、嘘をついてその約束を破った行為に対してちゃんと悪いと思ってるのか?」
「あぁ、思ってる。喧嘩になった時も自分が悪いって自覚しながらも自分の非を認めて謝罪する事が出来なかったんだ」
「ちゃんと分かってるならなるべく早く行動に出るべきだぞ。女性ってのは、誠意と行動を重要視してるんだ。口先の言葉なんて誰だって言えるんだよ、健二君」
兄貴はコップに入った炭酸飲料をクビクビと喉を鳴らして飲んでから言った。
「わかった、ありがとう。ところで、兄貴って彼女とどうなってんの?」
「彼女は火星に帰ったよ、地球は危険だって言ってな」
「少林サッカーの劇中のセリフを引用して遠回しに振られたって伝える人初めてみたよ」
俺は声に出して笑ったせいか沈んだ気持ちが少し薄まっていく。
「なんで振られたの?」
「ド直球に訊ねるね。お前が弟じゃなきぶん殴ってるな」
兄貴は苦笑を浮かべて言った。
「俺と彼女は大学3年だろ。つまり……」
「なるほどね。就活か」
俺は兄貴が次に言う台詞が分かり兄貴の話を遮って言った。その先を言わせたくなかったからだ。
「そうだよ。就活活動に専念したいから別れよって」
振られた理由を話してる時の兄貴の瞳は少し寂しげさを纏っていた。
「でもさ、就活活動しながらも兄貴と付き合うことだって出来るよね。時間を削れば……」
「両立すると就活活動に費やす時間が増えるから前みたいに会えなくなることが多いだろ。それが相手に迷惑かけると思うし、自分にとっても重荷になるんだよ両立がね。俺だってまだ就活活動してないけどじきにする事になるわけだからね。だから、2人にとって良い選択だったんじゃないか」
「考え方が大人だね」
「んー、大人的考えを持ちすぎると人生退屈だよ。この頃、高校生に戻ってもっとバカしたかったって思うよ」
「高校ってそんなにいいかな?大学の方が楽しいだろ」
「楽しいからとかじゃないんだよ」
「じゃあ、何で?」
「高校卒業して大学に行って少し経てばわかるよ」
兄貴は口元がほころび言った。
「あ、やべぇ。もう、こんな時間だ」
俺は、食べ終わった皿をシンクに置いて水に浸してから洗面所で歯を磨いて顔を洗って髪をワックスで整えて学生服に着替えてソファで横になってアニメ観てる兄貴に「行ってくる」と一言声をかけた。
「じゃあな。健二、後悔する選択取ってもそれも青春の醍醐味だからな。まぁ、気楽にな」
「あぁ、分かった」