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らしく  作者: 綾瀬徹
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第16話

  「いや、それは違います。手紙ならもう書いてきたんです」


 夏葉は俺がルール違反の行動をしたため睨みをきかせてきた。夏葉は日高君のお母さんに手紙を両手で丁寧に渡しそれを受け取った。


 「ありがとうございます」


 「いえ、こちらこそお礼を言わなければなりません。手紙を書いて来てくださってありがとうございます」


 俺は夏葉に嘘をついた。それは、事前に手紙を書いてきたからだ。それと別途に日高君に部員の特徴についてや好きな映画や他愛もない話を夏葉と日高君がやり取りしてる間に自分のメモ帳に書いて綺麗に切り外して日高君のお母さんに渡した。


 「じゃあ、コレを息子さんに渡して下い」


 俺は手紙とメモ帳の切れ端をお母さんに手渡した。


 「分かりました」


 「健二、ちょっと来て。お母様、ちょっといいですか?」


 夏葉は俺を手招きしてお母さんに時間を少しもらっていいか訊いた。


 「えぇ、大丈夫よ」


 お母さんは温和な顔つきをして言った。


 夏葉は玄関を指してリビングを出て話そうと手振りで示した。


 「ちょっと、手紙を送るのは私が書いた1枚って決まりでしょ。あなたさっき手紙は書いてきてないって言ってたじゃない。あれは嘘だったね、事前に書いてきたってわけ。何枚も送られたら日高君にとって迷惑じゃない」


 「嘘ついたことは謝るよ、ごめん。最初は渡すつもりじゃなかったんだけど考えが変わった。それに、迷惑なら嫌だって言うだろ」


 「あなた、少し強引よ。日高くんが昔のあなたみたいな対人恐怖症だから自分と重ねて躍起になってるのわかるわ。でも、今回は慎重に物事を進めましょうと言ったじゃない」


 夏葉の言葉のトーンはいつにも増しても強めで俺の至らない点を的確に言った。


 「躍起になってない。ただ、そんな猶予はないんだよ」


 俺はバツが悪いので話をすり替えた。自分でも言動と行動が一致してないのは重々承知である。しかし、後に引けない。


 「呆れたわ……今は、部活のことよりもゆっくりと日高くんに真摯に向き合うべきよ」


 夏葉は呆れた表情を浮かべて深い溜息をついた。


 「日高くんは大事だよ。でも、部活だって大事なんだよ」


 「今のあなたは部活存続のために出来るだけ早く日高くんを助けようとしてるようにしか見えない」


 「おい、2人共そこら辺でやめるんだ。今日は帰ろう」


 洋太郎は玄関で言い争ってる俺と夏葉の仲裁に入ってその場を諫めた。その後、俺たちは日高くんのお母さんに内輪揉めして変な空気にさせて迷惑をかけたことを謝罪し今日は家を後にした。


 帰路に就く間全く俺と夏葉は口をきかずに駅に着き俺と洋太郎、荒川と夏葉は家が反対方向のため駅の改札口で別れた。その際、俺と夏葉は会話を交わさず荒川と洋太郎が気を遣いながら別れを告げた。


 「じゃあ、荒川ちゃんと鮎川さんさようなら」


 「では、麻生先輩と相沢先輩さようなら」


 荒川は気まずそうな顔つきと歯切れの悪い喋り方で明らかに俺達に気を遣っている。申し訳ない思いが込み上げてくる前にもう別れてしまい気乗りしない足を前に動かして電車に乗り念頭に夏葉へ謝罪の言葉があったのにそれを言えなかった自分が大嫌いだ。

 

 

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