第15話
俺らは玄関の土間を上がりリビングに入ると吹き抜けの天井に豪華絢爛なシャンデリアが吊るされている。
「すんげー金持ち」
「何回見てもゴージャス」
俺と荒川は口をぽかーんと開けてシャンデリアをとっくり眺めていた。
「ほら、そこの2人しっかりしなさい」
夏葉は指を鳴らして言った。
大理石のテーブルに高級そうな皿に普段家じゃまず出てこない高そうな洋菓子がザッとテーブルを埋め尽くす。
「荒川はどれが1番美味かった?」
「このマカロンがめっちゃ美味しかったです」
「お前ら食事しに来たわけじゃないんだぞ」
「そうよ、日高君の今の状態を訊ねに来たんでしょ」
浮かれている俺と荒川は厳しい注意を受けた。
「そうだった。こんなゆったりしてる場合じゃないんだった」
俺は浮かれた気分から冷静になり自分が何故ここに来たかを思い出した。にしても、こんな豪華絢爛なお城みたいな家ににいたら外へ行きたくなくなるよな。
「1度、皆さん座ってくださいね。紅茶出しますから」
「「ありがとうございます」」
俺と荒川は満天の笑みで声を上げた。
「こらっ!」
夏葉は眉間に皺を寄せて叱った。
どっかのブランドのティーカップを受け皿に置いてトレーに乗せて持って来てくれた。
日高くんのお母さんはそれぞれにティーカップを置いてポッドから注ぐ。
「わざわざ、すみません。ご馳走になってしまって」
夏葉が丁寧に申し訳なさそうに謝った。
「いえ、いえ。いいんですよ、こちらそ来てくださってありがとうございます。どうぞ、召し上がって」
俺は熱い紅茶をふーふーしてから啜って一口飲む。
「美味しいです」
「あら、良かった」
「お母様、今日も日高くんは部屋にこもってますか?」
「はい、以前はご飯の時は2階から下に降りてきて一緒にご飯食べてたんだけどね。今はめっきりうちの息子は部屋から出てこなくてね。学校の担任の先生が来た時も部屋から出ることなく困った先生は帰っていただいて……」
「お母様、失礼ですが何故私達がこの先も日高くんに会える見込みもが少ない確率だと分かっていらっしゃるのにお家に上げてくださったんですか?」
たしかに、先生が来てもダメなら元々関わりもない俺たちが来ても拒絶されて帰るのがオチなのが見えてるのに。それに、親に会うことさえ避けてるのに……
「不登校になってからうちの息子に会いに来た生徒達は誰もいないんです。それなのに、あなた方はこうして自発的に息子に会いに来てくれた、とても私は嬉しいんです。それが、廃部の危機に瀕してる部活に誘う動機だとしてもね」
おい、夏葉か荒川のどっちか分かんないけどそれ言っちゃうの?それは、不純な動機で会いに来たって思われても仕方ないよ。日高くんのお母さんはさっきまで気丈に振る舞ってたけど心胸は大事な息子のことで一杯一杯なんだなよな。俺も随分母さんに迷惑かけたな。今も迷惑かけてるけど、母親には頭が上がらないし足元を向けて眠れないな。
「日高くんのお母さん1つお聞きしたいんですが」
「大丈夫ですよ」
「日高くんがどういう経緯で不登校になったかは部員に聞いたんです。それを踏まえた上で、日高くんは精神的病気を患ってますか?」
「健二!」
俺が踏み込んだ話を急に喋ったのが早いと抱いたのか夏葉は強い口調で俺の名前を呼んだ。
「いえ、大丈夫ですよ。病院には連れてっていないんですが知人に精神科医がいてね。その人に息子の性格と不登校になった経緯や現在の状態を話したら"対人恐怖"ではないかと仰ってくれてね。それで、1度精神科の病院に連れてこうとしたんだけど息子は頑なに行きたくないって……」
日高くんのお母さんは曇った面持ちで語った。
「相沢先輩が話してた症状じゃないです」
「日高くんのお母さん、手紙を書いてくんでそれを日高くんに渡してもらったていいですか?」
「電話で言ってた手紙よね。それなら、いいですよ」
読了ありがとうございます。