終ノ夜 終わりも令嬢と共に
夜桜神楽 第1章最終話です。
よろしくお願いいたします。
■異世界京料理カフェ&バー NOIR
ランチ(京風)…11:00~14:00
バー(京風)…19:00~23:00
おひとりさま限定、1日1組…気分次第でおふたりさまもok、カップルはNG
ごく稀に、4?5名なら、店主のキャパ次第でok
定休日…気分次第
住所…京都市伏見区深草薮之内町68番
伏見稲荷の千本鳥居を越えたすぐ先を左折、しばらく道無き道を進んだとこです。
おなやみごと相談乗ります(解決できるかは分かりません)。
お祓いはこれからずっと、お受けする予定はございません。
幽霊と生きている人。2人そろって、お客さんをおもてなしします。
「『異世界京料理』? 全く京料理が出て来る気がしないのは何故ですの?」
私の隣のポンコツお嬢様がスマホの画面に映るその文字列を眺めて一人ごちる。
私達が今居るのは京都府京都市伏見区にある伏見稲荷の参道。
「まったく、アンタもいちいち細かいわね。黙ってついてきなさいよ」
「あ、ちょ、ちょっと、お待ちなさいな! 咲良!」
清楚な濃紺のワンピースに黒のパンプスという、珍しく洋装の彩乃姉ぇ――――西薗彩乃と、白のカットソーに黒のジャケット、ピンクのプリーツスカートと黒のショートブーツの私。その二人で千本鳥居を通過していく。
店長さん――――小夜さんとアイリさんが再会したあの夜から7カ月。あれから本当に色々な事があった。
まず私の方は対策院の所属ではなくなった。
正確には殆ど同じような立ち位置と仕事だから、そんなに目立った変わりは無いのだけれど。
そして一哉兄ぃとの関係も…………。
まぁ、これはまだ確定じゃないし、今話す事じゃないわね。
そして、NOIRは小夜さんが生前の記憶を取り戻した事で空間が安定し、入口を移して今もなお存続し続けている。
結局、小夜さんがあの店――NOIRを創りあげた最初の想いとは「アイリさんと二人、京料理を作りながら幸せに暮らしたい」とあう願いだったらしい。
本来、「アイリさんと再会したい」という、小夜さんの地縛霊としての執着は満たさてしまった時点で、小夜さんは輪廻転生の輪に戻る運命だった。
でも、実際にはそうならなかった。
NOIRが存在する空間の小夜さんを拘束する力が強いらしく、小夜さんはあの店で今も店を営んでいる。もっとも、NOIRから出るのには一工夫も二工夫もしないといけないとかで、大変みたいだけど。
神童特級が事件の解決後に対策院に安全性を訴えてくれたお陰で、対策院から祇園北神家に対して下された掃討指令は撤回された。最初は観察保護下に置かれていたけれど、その後対策院には色々あったせいで、今は有名無実化している。
かく言う私も事件終結からそれ程経たない内に、眼帯王女様とサイコパス小説家と共に経過観察的な感じで訪れた口の人間だけど。
空間が安定したことで、NOIRの"入口"は2018年――――既に2019年だけど――――の時間軸で固定された。同時に中と外の時間のズレと異世界との接続も解消。小夜さんとアイリさんが共に歩み続ける限り、あの店は続いていくでしょう。
それにしても最近、眼帯王女様見かけないわね。
自分の世界に帰れたのかしら。
神童特級によれば、何件かあった行方不明事件の真相は、NOIRからの帰り道に誤って別の時間軸、または別の世界に飛んでしまったせいだろうとの事。あの王女様――――ノアちゃんが自分の世界に帰れていることを切に願うわ。
ちなみに、サイコパス小説家――――もとい伊吹さんとは今もたまにLINEで連絡を取り合っている。まあ、ほとんど厄介な話を回してくるだけだけど。
それにしてもあの人、小説家って言う割には変な事に巻き込まれ過ぎじゃない?
さすが神童特級の知り合いと言うべきかしらね。
祇園北神家はあの後暫くしてから、とある闇組織との関与が明らかになって、家ごと対策院から追放となった。あの時北神宗次が持っていた「禍ツ神」はそのルートで手に入れたものだったらしい。
私はその全貌を、真相に最も近いところで見ていた人間の一人だから、詳しく知っているけど、このNOIRに向かうまでの道程でその全てを語るのは不可能な話。いつか語られる日が来ると良いのだけど。
「ここ…………ですわね。明らかに誘っている気の流れですわ」
「いや、誘ってるって…………まあ、お客さん呼び込むという意味では間違ってないなかしら。それにしては悪意の有る言い方だけど…………。それにしても久しぶりね、NOIRも」
「さぁ、行きますわよ、咲良! 『異世界京料理』とやら、わたくしが品定めして差し上げてよ!」
「いや、張り切ってるとこ申し訳ないけど、あそこで京料理らしい料理見たこと無いわよ、彩乃姉ぇ? まあ、味は保証するけど。」
「なら、問題ありませんわ!! レッツトライ、ですわ!」
明らかに私よりもテンションの高い彩乃姉ぇの背中を見送りながら、私も"入口"へと入る。半年ぶりの空気を楽しみながら。
"入口"の向こう側は半年前の容貌と何も変わっていなくて。
店の前の黒板の看板も相変わらずだ。
「実際に来てみると、不思議な感じですわね。でも、わたくし、この雰囲気嫌いじゃなくてよ」
自然とあの夏の思い出と暖かい気持ちが蘇ってくる。
私はドアの取っ手に手をかけて、躊躇いなく引き開けた。
「いらっしゃい、咲良さん。お久しぶり」
~~~ 第1章 完 ~~~
という訳で、夜桜神楽、第1章完結でございます。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
本作は元々私の友人が執筆した小説に、鬼闘神楽のヒロイン・咲良がメインキャラでガッツリ出張した事で生まれた作品です。
本当はもっと短く、登場人物も更に少ない予定でしたが、あれよあれよと巨大化し、本編の1章分に匹敵する分量になってしまいました。
お陰で、本編も多少の設定変更をする事に。
その辺は追々活動報告で紹介できればと思います。
全18話、約1ヶ月間、お付き合い頂きましてありがとうございました。
5/7より本編「鬼闘神楽」第4章の更新を再開します。
お付き合いいただければ幸いです。
https://ncode.syosetu.com/n1738fb/