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夜桜神楽  作者: 武神
第一章 京料理は愛を育むのかもしれない
14/18

拾肆ノ夜 臆病者に蜃気楼は掴めない

下衆野郎爆誕

『なんで…………? どうして…………? どうして、こんな酷い事が出来るのよ…………?』


『ハハハッ。霊力無い人間なんか、生きてる価値もあらへんからな。丁度ええやろ、みんな極楽浄土にご招待や』


『極楽浄土…………? さっきのアレの何処が極楽浄土なのよ…………。みんな…………皆苦しんで死んでいって。ただあのご夫婦は娘さんの事、少しでも助けてあげたいって…………ただそれだけで…………っ!』



 私の視界に入るのは、もはや物言わぬ3つの屍。



『それが何やねん。お前もわかっとった筈やろ。あの娘はもう助からんって。もちろん、親の二人もな』


『そんな事わかってるわよ!! だけど…………だけどもっとやり方が…………っ!』


『ごちゃごちゃ煩いなぁ。お前がいつまで経ってもこのボケ共、始末できへんのがアカンのやろ。これ以上「呪い」が進行したら、お前自身も危なかったんやで。感謝しぃ』



 眼前に転がる3つの死体は私の臆病の証。罪の結果。

 私がいつまで経っても決断できなかったから、目の前の死は1から3に増えた。

 私はずっと独りだったから。誰も頼れなかったから。

 救える筈の人だって救えなかった。


 私は後悔に顔を俯かせ、ただ立ち尽くすしかない。

 だが突然、そんな風に後悔に歪む私の肩に、男の手が乗せられる。



『それより咲良ぁ。もうええやろぉ?』



 気持ちの悪い猫撫で声に、私の身体は無意識に委縮している。

 肩に乗せられた手など振り払って男から距離を取りたいのに、身体が動かない。



『お前、南条のとこのクソガキと絶縁状態らしいやないかぁ』


『そ、そんな事…………アンタに関係無いでしょ……』


『なんや冷たいやっちゃなぁ。え、咲良? エエ加減ボクのものにならんか?』


『ふ、ふざけないで…………』



 言葉では何とか否定出来ていても、身体は――――

 恐怖と嫌悪で委縮した身体は、もう私の意志では動かない。



『そうは言うても、いっこも嫌がっとる素振り見せへんやんか。ホンマは期待しとんのやろ?』



 蛇の様な手が。異様に冷たい手が私のゴシックドレスの胸元に差し込まれ――――





 NOIRを救うために、除霊の祈祷師を私に変えてもらう。

 または、除霊の日程を3日後の夜まで伸ばしてもらう。

 そんな目的が無ければ、一生、この男と会うつもりは無かった。


 私はおかしな鈴の音の様な音が鳴る部屋の中で、目の前で生理的嫌悪感を煽る笑みを浮かべる男、北神宗次を睨みつけていた。

 その内心はとても穏やかとは言えない。



「お久しぶりです…………。宗次大叔父様」



 あの時。

 私の心の隙を突いて私を支配しようとしたこの男から救ってくれた一哉兄ぃは、今ここには居ない。

 だからなんだろうか。

 何とか抑えてはいるけれど、私の手の震えは止まらない。

 怒りと恐怖で頭の中が纏まらない。



「へぇ…………お前もちゃんと年上には敬意払える様になったんやなぁ、あの本家の生意気な娘が。まあええわ、座り」



 これは挑発。乗ったら負け。

 私は自分の心に強く自己暗示をかけて何とか平静を取り戻そうとする。


 私はこの2年、努めてこの男に会わない様にしてきた。

 あの忌まわしい記憶を掘り起こさない様に、特殊な霊術で自らの記憶を曖昧にしてまで。

 だけど今は違う。私は自らの意志でこの男に会いに来た。


 今度こそ。

 今度こそ誰かを。

 今度こそ店主さんを救えるように。



 私は北神宗次の案内に従って、部屋の中のソファに腰掛ける。



「そんで、何なん? ワザワザうちまで来て。もしかして、ボクのモンになってくれる気なった?」



 その一言一言が挑発の言葉だと思え。

 そう自分に言い聞かせるのだけれど、私の身体は段々と恐怖心に浸食されてくる。

 これ以上はダメだ。

 さっさと本題を切り出して決着を付けなければ、この男に呑み込まれる――――ッ!



「今日はお願いがあって参りました」


「へぇ…………珍しね、あのお前がボクに頼みごとやなんて」



 愉しげに、嗜虐的に歪められる口許。

 ツリ目でありながら狐目でもあるその目元。

 男のクセに妙に長い髪。そしてそれを纏めた髪型。

 似合っていないのに生やされた口髭。

 その全てが私の生理的嫌悪感を煽って止まない。



「で、何なん、ホンマに。言うてみ?」


「では早速。大叔父様が進めていらっしゃる、下賀茂神社の霊の除霊の件。一度私に預けて頂けませんか?」


「――――なんでや?」


「それは…………」



 その質問は普通に考えれば当たり前だった筈だ。

 自分が進めている作業を他の人間が突然変わりたいと言い出せば、その理由を問うのはあまりにも当然の話だ。

 そんな事すら予想できず、あまつさえ答えも用意していない。

 まさかNOIRの事をこの男に伝える訳にもいかない。

 私はこの部屋を訪れて早々、追い込まれてしまっていた。



「それは?」


「わ、私が最初に……手を付けた案件で…………。どうしても私の手で、終わらせたくて…………」



 私は決して嘘は言っていないのだけれど、当然説得力が弱い。

 そもそも西薗彩乃に強制された事が事の始まりとはいえ、管轄エリアを越えて調査していたのは私の方。

 そしてこの男は何らルールを犯してはいない。

 不利な要素は私の方にしか無かった。



「なんや、2年経ってマシになったかと思うたら、根っこの部分は何も変わっとらへんな。自分、筋通らへん事言うてる自覚ある?」


「……」


「ここは関西、つまりボクの庭や。人の庭に勝手に入ってきといて、人の仕事勝手に取っていくとか、お前、何様のつもりなんや? いくらお前が本家の娘やからて調子こいてたら、容赦せんで。まあ、今の本家にボク等祇園北神家を抑えられる程の力あるとは到底思えんけどな。お前の両親、あんな一生懸命色々やってんのに、二人ともまだ上級やろ? 才能無いねん、さっさと諦めて本家の旗印、ボクに渡せっちゅうねん。娘のお前が才能の塊やから二人ともお前に期待しとるみたいやけど、そんな事はさせへん。お前はボクのもんや。だから、本家もボクのもんや」



 この男の吐く言葉の一つ一つが汚らわしい。

 もはや言葉の一つすら耳に入れたくない。



「それに、ホンマの理由は最後までやりたいみたいな事ちゃうやろ? 神童がやたら時間稼ぎしたがってたからなぁ。あそこまで露骨やと、何かあるって思うんが普通やで」



 まずい。この流れは非常にまずい。

 この男はどこまで知っているのだろう。

 焦る私の額に汗が浮かぶ。

 それでも北神宗次を睨みつける事しかできない私に対し、目の前の変態は何やら小さく呟いて、霊力を霊術へと変換し始めた。


 私に何か霊術をかける気?

 この男の性格上、確実に精神に直接干渉するようなえげつない術に違いない。

 でも、この男は自分の法具の錫杖を持っていない。だから、何かができるとは到底思えない。


 それに、今の私のゴシックドレスは私の一番の戦闘用の物。

 NOIRから着替えずにこっちに来ちゃってだいぶ恥ずかしかったけど、今回ばかりは功を奏したわね。

 自動発動できるカウンター用の霊術も幾つか仕込んでいるし、そもそもこの装備は相手のそういった呪術的攻撃に対する防御を最大限に重視したものなのだ。

 やれるものならやってみなさい!


 それにしてもさっきから気になってるけど、この鈴の音、何なのよ。

 シャンシャンシャンシャンうるさいわね。



「まあでも、条件さえ呑んでくれたら譲ったってもエエよ?」



 そう言いながら、北神宗次は私に極めて近い位置、でも私にはギリギリ触れない位の位置に腰を下ろした。私の防御を警戒してか、決して触れない様にしているらしい。

 触れた瞬間、再起不能にできるぐらいの霊術を叩き込む準備はできている。だから私はこの男から敢えて距離を取らない。


 だけどその顔は相変わらず虫唾が走る様な厭らしい笑みが浮かんでいて。正直、鬼闘師側の霊術で今すぐにでもボコボコにしてやりたい気分だ。


 それにしても条件って何かしら。

 どうせロクでもない事を考えているのは間違いないのだろうけど、ものによっては呑むしか無いかもしれない。NOIRを護るためなら、背に腹は代えられないのよ。

 ――――もちろん限度はあるけど……。



 そんな事を考えていたからか。

 それとも、自分の装備を過信しすぎていたのか。

 私はまたしても間違いを犯していた事をすぐに気づく事になった。

 それももう手遅れの状態まで追い込まれてから。



「遅延起動『除魔の舞』」


「――――――ッ?!」



 刹那、私を護る全ての防御術式が解除され、私の装備はただの衣装へと成り下がった。

 急いで残りの術式を確認してみたが、綺麗さっぱり、何一つとして残っていない。

 あれ程苦労して特殊繊維に編み込んだ術式も、術式発動補助用に付加した霊力も、私が私自身に改めてかけなおした幾つかの防護術も全て。


 考えてみれば当然だ。

 全ての霊的現象を無に帰す『除魔の舞』は何も私だけの専売特許じゃない。

 祇園北神家の当主たる北神宗次も当然ながら使える。

 そんな当たり前の事も私は思い当たらなかった。


 だけどそれ以上に私が対応できなかったのは、この男は法具も無しにいきなり術を発動してきたからだ。

 本来であれば、全ての術式は、その発動インターフェースとなる法具が無ければ発動できない。

 私は洋扇子、一哉兄ぃが日本刀、彼の妹の佐奈が薙刀といった具合に。

 それなのに、この男――――北神宗次は自身の法具である錫杖を持っている気配が無い。

 それどころか、法具はデスクに立てかけられていて、私の隣に座るこの男に持てる訳が無い。



「お前さぁ、そんなガチガチに防御術式固めとったら、解除してくれって言うてんのと一緒やで?」


「……なに……を……っ!」


「わかりやすいねん、ボクを警戒しとるって。そんなん、対策してくれ言うてる様なもんやろ。自分、わかってんの? 相手してんの特級祈祷師やで。悪霊とか怪魔とちゃうねんで。そんなバレバレの防御するアホがどこにおんねん。しかもお前、気付いてへんやろ? なんでボクに抵抗できへんのか」


「…………ッ! 私に……なに…………したのよっ!」



 迂闊と言われれば確かにその通りかもしれない。

 私が着ているゴシックドレスは確かに対悪霊用の物だ。

 ちょっと霊力の感知能力が高い人なら、私のドレスに編み込まれた防御術式を感じ取れるかもしれない。


 だけど、私達祈祷師は基本的に人と戦わない。相手にする対象が「霊」に限られているからだ。

 だから対人戦を想定した立ち回りを学ばない。

 私はこの2週間近く、西薗彩乃にその立ち回りを教わったけれども、それでもまだまだだ。

 というより、こうして祈祷師として活動していると、いつもの癖で、人と戦う事など考えもしない。他にも色々と要因はあるだろうけど、その隙を突かれたは間違いない。


 そしてそれ以上に問題なのは、なぜ私が何の抵抗も出来ずにこの男の好きにされているのか。私は入室から今に至るまでを必死に思い出そうとするが、なぜか頭がボーっとしてきて真剣な思考が長く続かない。

 それにしてもさっきから鈴の音が気になって仕方がない――――



 そこでやっと気が付いた。



「まさか……この鈴の音……?!」


「お、正常な思考力奪われてんのに、気付くの早かったやん。そ。これはボクの錫杖を鳴らす音を録音したもの。これでお前がこの部屋に入ってきたその瞬間から、ずっと術をかけとったんや、思考阻害の精神干渉系の霊術をな。気づかんかったやろ? 録音で霊術かけられてるなんて。まあ、込めとる霊力は物凄い少ないから、お前の仕掛けた防御に引っ掛からんから気付かんくてもしゃあないけど。まあ、直接かけるよりは効果だいぶ落ちんねんけどな」



 ――――なんて卑劣な!

 そう叫ぶのは簡単だったけれど。

 この男がロリコンで変態で卑怯で卑劣で下劣な男だという事ぐらい、初めからわかっていた筈だ。


 私のゴシックドレスに仕掛けていた防御術式は全て、ある一定の出力以上の術にしか反応しない様になっていた。自分の手で対処できるような細かい術まで自動防御させてしまえば、あっという間に仕掛けた術を使いきってしまうから。

 それでも私はボーダーをかなり低く設定していたから、問題無いと思い込んでいた。まさか、それを更に低く下回って対処するなんて――――。


 備えが足りなかった。

 覚悟が足りなかった。

 情報が足りなかった。

 色々と言い訳は出て来るけれど、そんなものでこの状況を覆せる訳でもなく。



「それにしても、ボクがかけたんは思考阻害だけやけど、お前、身体ひとっつも動かしとらんやん、情けないなぁ。わかってるで。お前はボクが怖いんや。今日は南条のクソガキもおらんしなぁ。だからちょっと思考を乱されただけで、全身が固まったかのように動かなくなる。まあ、それ以前に特級のボクに一級如きのお前が太刀打ちできる訳無いけどな」



 どうして一人で来てしまったんだろう。

 どうして一人で何とかしようと思ってしまったんだろう。

 私は強くなったとか、そんな痛い勘違いしてた?

 対策院の施設なら安全だと思った?


 そうやって私が自分の迂闊さを呪っている最中、北神宗次は遂に私に触れてきた。何の防護も無いなまま、私は無防備にそれを受け入れるしかない。北神宗次の片手は私の肩に手を回され、もう片方の手で私の脚をまさぐっている。


 ―――気持ち…………悪い……っ!


 身体が萎縮して動かない以上、もはや誰かがこの部屋に入ってきてくれる事を願うしかない。

 思わず泣き出してしまいそうな程に追い詰められた私に対して、北神宗次はその生理的嫌悪感溢れる顔を私の耳許に近づけてきて、おぞましい事を囁いた。



「それでさっき言うてた条件の話やけどもぉ」


「っ…………!」


「お前と、西薗のところの彩乃。二人一緒にボクの玩具になってくれるんやったら、考えてあげてもエエでぇ……?」



 私の身体を自由にできるようになって調子に乗っているのか。

 それとも本当にただの嫌がらせか。

 あまりにも予想通りの下衆な台詞を、今世紀最大級のおぞましい猫なで声で話す北神宗次に対し、吐き気が止まらない。

 でもそれ以上に。



「なんで…………アイツが……関係あるのよ…………っ!」


「そら、25歳にもなってあのナリ。そそらん方がおかしいで。それに咲良、お前、あの女と仲エエやろ? あの女も女でお前の事溺愛しとるしなぁ。お前が助けてくれ言うたら、アッサリ来てくれるやろ。それに何ちゅうたっけ、あそこ…………ノワール、やったか? あそこの調査お前にさせとったん、彩乃やろ? アイツにもいっぺん、人の庭で遊んだらどないなるか教えたらなアカンしなぁ。心配せんでも、二人揃って可愛がったるから安心し? ボクこう見えても、そっちの方は自信あるんやで。」


「ふざ…………けないで……この、変態…………っ!」


「あらー、そういう事言う? 別にエエんやで。お前をボク専用の玩具にした上で、下賀茂神社の清掃しても。お前、この場でまだ自分の立場わかってへんのか」


「アンタの事なんか……すぐ本部に報告…………上げてっ!」


「アホか。誰もお前の言うことなんか信じるわけ無いやろ。特級のボクと一級のお前やったら、発言の信憑性に天と地ほども差が有るんや。不利なんはお前の方やで。お前、昔からホンマに何も変わってへんな」


「…………っ! や、やめ…………っ!」


「エエ表情するやんか、咲良ぁ。よっしゃ、今日は徹底的に教育したるわ。どうせお前初めてやろ? ボクがエエ感じに開発したるから、期待しとき」


「いや…………やだ…………っ」


「ほな行くで――――」



 そう言った変態の手が、私のゴシックドレスのスカートの中に入り、遂には脚の付け根の所まで手が侵入しようとして――――



 ――――コンコン



「ちっ…………今エエとこやったのに」



 突如室内に響くノックの音に、北神宗次の手が止まる。

 同時に、私の身体も嘘のように軽くなった。

 恐らくはノックでこの変態の集中が途切れたからだろう。

 私を縛る霊術という鎖が無くなり変態の視線がドアに向けられた瞬間、私は隙をついて、跳ぶ様にしてその毒手から逃れる。



「誰や? 来客中やねん、後にしてくれんか」



 北神宗次は明らかに苛立った様子で扉の向こう側に問いかける。この男からすれば、私を玩具にする直前のタイミングで邪魔が入ったのだから、腹立たしい事この上ないだろう。

 誰か知らないけど、このタイミングで来てくれて本当に助かった。



「北神はん、ワイやワイ。加島ですけど」


「加島か…………。今面会中や言うたやろ? エエから後にしてくれんか」



 加島って、関西支部・特級鬼闘師の加島尊雄よね……?

 なんだかよくわからないけど、加島特級ありがとう…………っ!



「そうは言われてもなぁ。ワイも神童はんの伝言至急伝えんとアカンさかい」



 加島特級の言った、「神童」という言葉に、私は内心驚いた。

 まさかとは思うが、彼はこの状況も予知していて、それで私に助け船を出してくれたのだろうか。だとすれば、やっぱり彼は恐ろしすぎる。


 とはいえ、私が助かったのは事実。

 加島特級と神童特級に感謝しつつも、私は脱出の機会を窺う。



「ちっ…………また神童かいな。アイツ、ホンマなんやねん。まあ、エエわ。咲良!」



 北神宗次の視線が再び私を捉える。

 もう霊術の影響下には無いのに、私の身体は思わずビクッと飛び上がってしまう。今は何よりも…………この男が恐ろしい…………。



「さっき出した条件、どうするかの答えは2日後の夜、下賀茂神社で聞かせて貰うわ。精々よう考えや」



 私はこの男と同じ空気をもう一秒だって吸っていたくなくて、逃げるように部屋の扉を開く。



「おわっ、ビックリした! って、キミ、確か南条君の彼女さんやんな? こんなとこでどないしたん? ここ大阪やで」


「っ……! か、彼女じゃ、ないです……………………まだ…………」



 扉を開けた先に居たのは当然ながら加島特級。

 向こうも私に驚いた様だったが、私は変態ロリコン大叔父のせいでかなり取り乱していた事もあって、変な事を口走ってしまった。

 おかげで、加島特級は私の顔を見てニヤニヤと笑っている。とんでもなく恥ずかしい。



「まだ、か! ハハハハハッ! うっわ、青春してんなぁ、キミ。見てるワイの方が胸焼けしそうやで」


「わ、忘れてください…………ッ!」



 私は恥ずかしさで、加島特級の顔が見れなくなって俯いてしまう。どうして私は関西支部に来てまでこんな辱しめを受けているのだろう。


 だが、加島特級はそんな私を放って、部屋に入ろうとして。

 そして私にだけ聞こえる声で囁いた。



「神童はんのお使いや。早よこっから逃げ」



 その言葉が引き金だった。

 もう沢山だ。

 こんなところ二度と来ないし、あの男にも二度と会いたくない。


 私は結局、何の成果も挙げられないどころか、寧ろ状況を悪化させて逃げ出す事しか出来なかった。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます。

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次話、第15話は4/29 22:00掲載です。

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