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夜桜神楽  作者: 武神
第一章 京料理は愛を育むのかもしれない
12/18

拾弐ノ夜 誰かさんを訪ねて三千里

拾壱ノ夜から登場している伊吹とノアは私の友人の小説「異世界で京料理を食べよう!」に登場するキャラです。

というより、実はこの章自体がその友人の小説のバックボーンストーリーなんです。

「それで…………何か、プランはあるんでしょうね?」



 結局私達は一時休戦し、最良の未来に向けた作戦会議と相成った訳なのだが。

 何なのよこのカオスな会議は?!

 「会議は踊る」なんて言葉があるけれど、踊るどころの騒ぎじゃ無いわよコレ!


 どこからか取り出してきた円卓に幾つかの椅子。

 そうして始まったこの会議だけど。

 店主さんは未成年の私に、頑なに酒を出そうとするし、私が拒否したら長身の女――――小説家らしい――――がイッキ飲みで空にするし、眼帯の女の子――――ホントかどうかは知らないけど異世界の王女様――――は酒に一口、口をつけただけで上機嫌になって鼻唄歌い出すし…………っ!


 結局私が真面目に話を始められたのは、店主さんがまたあのコーヒー――――コロンビアだっけ……? あ、ちがう。エチオピアだ――――を淹れてくれて、私の前に置いた後だった。



「プラン。計画」


「無いわよ」


「無いですね」



 予想通りではあったけど、コイツら何にも考えてないわね!

 私の決意を崩した責任取って意見ぐらい出しなさいよ。


 早くも幽霊店主さんと愉快な仲間達になりかけている彼女達を見て、私は本気の深い溜め息を吐いた。



「………………バカなの? 貴女達。いい、そもそもなんでお祓いなんて事になってるかというとね、この店が現世と彼の世だけじゃなくて、ヘタをすると……もっと別の世界にさえ、繋がるかもしれないからなのよ。店主さん、貴方の力は、意識せずともそれだけ強くなってきているの。……見過ごせない程にね」



 とは言いつつも、ごめんなさい。

 全部神童特級から教えてもらった事です。

 そもそもこんな荒唐無稽な話を信じろって方が無理だと思う。だから、この空間が危険だという理由に関しては少しだけ誤魔化しておいた。空間の存在意義の矛盾なんて言われても、誰も理解できないと思うし。



「はあ。僕、基本的にそんなつもり無いんですけど…………」


「……霊の力って、そういうものなのよ。何かに対する執着がだんだん強くなってくると、それは時として予期しない形で、周りに影響を及ぼすの」



 私は可能な限り混乱を呼ばない様に、だが事実に反さない程度に説明をしていく。

 実際問題として、差し当たった危機が無かったとしてもいずれ直面する問題だけに、丁度いい言い訳になる。私は嘘は言ってない。



「執着………………」


「そう。それが、幽霊をこの世に繋ぎ止める、ひとつの原因。……それが叶えられないままに放って置いたら、貴女はいずれ……悪霊と呼ばれるものになるかもしれない」


「悪霊。それって、つまりどんな?」



 店主さんはキョトンとした顔で首を傾げた。

 まあ実際問題、一般人が悪霊だの何だの言われたところで想像なんてつかないでしょうけど。

 そして残念ながら、私自身もわかり易く、端的に悪霊の事を伝える術は持っていない。

 だから。



「…………まあ、とっても危険なものよ」



 こういうとても残念な回答となってしまうのだ。



「なるほど。わかりやすい」


「…………茶化してるの?」


「いえ、全然」


「………………はぁ。まったく、真剣味のない………………」



 店主さんは相変わらずキョトンとした顔で。いやむしろ対岸の火事の様を眺めるかの様。

 まるで他人事のように私の話を聞き流す店主さんに、思わずため息が出る。

 確かに私もこの説明は無いな、って思ったけどね?


 そんな折、私達の会話に割り込んできたのは眼帯の王女様だった。



「なるほど。つまり、店主さんのこの世への執着の原因を解くことができれば、店主さんは悪霊にならずに済むわけですね」



 なるほど。

 この子、王女様と言うだけあって呑み込みは早い。

 異世界から来訪者故にこの世界の勝手もわからないだろうというのに、普通の人間でも中々理解し難い事をすぐに理解している。

 とはいえ、問題はそんなところには無い。



「………………いや、まあ、そうなんだけど………………そうしたら、成仏しちゃうわよ」


「え、別に、いい幽霊のまま留まったらいいんじゃないですか?」


「………………あのね、王女様…どこの?…。物事はそんなに簡単じゃないの。幽霊を幽霊たらしめるのは、この世への強い執着があるからなの。それで満足しちゃったら……………………」



 これこそが一番の問題だった。

 彼女がこの世に留まり続ける理由――――地縛霊となっている理由は、恐らくかつて本人が言っていた通りであろう。誰か大切な人に再び逢いたいという妄執。

 だが、彼女をこの世に留まらせておく程の強い妄執が満たされてしまえば、店主さんは成仏――――輪廻転生の輪へと戻り、この世から永遠に消滅する。


 それは。

 結局私が除霊するのと結果は変わらない。

 精々ここに居るメンツの私に対するヘイトを集めるか集めないかの違いに過ぎない。



「あ、まあ、満足できたら、それはそれで本望なので…………」



 この人はこの人で、一番の当事者のクセに未だに緊張感無いし。

 もうやだ……。この愉快な仲間感醸し出してる連中のせいで、私、早速この会議の行く末がわからなくなってきたんだけど。

 まだまだ何回でも溜息を吐ける自信あるわ。



「……………………はぁ……………………ほんと、貴女達と話してると、ペース崩れるわ……。まあ、500000000歩くらい譲って、悪霊化を回避する手段として、店主さんがこの世界に執着する原因を突き止めて、それを解決するという線でいくことにしましょう。それで、どうやって、それを実現するの? ……店主さん、その辺りの記憶、無いんでしょう」


「そうなんですよ。それが困ったとこで…………」


「あてもなく探してる時間は無いの。ある程度ピンポイントで、店主さんの大切な人を……探し当てるしか無いわ。そのアテはあるのかしら、小説家さん?」



 そこで私はここまで静観を貫いていた小説家へと話を振った。

 まあ正直、全くのノープランのクセに私に説教垂れてきたんだから、全く期待なんかしてなかったけど。



「無いに決まってるじゃない。だからノープランなのよ」



 そう言ってのけた。

 臆面もなくそういう事言うこの女の神経の図太さ、むしろ見習いたいぐらいね。正直言って呆れすぎて最早起こる気にもならないわ。

 嘘。やっぱりムカつく。



「…………………………貴方から祓ってあげましょうか?」


「人間にできるならどーぞ」


「2人とも、喧嘩はやめてください……」



 そんな私達の仲裁にはやっぱり店主さんが入ってきた。

 ただまあ、言わせてもらうなら。店主さんが止めようが止めなかろうが、私、絶対この女とは仲良くなれない気がする。

 だって、西薗彩乃よりもイラっとする人に久々に会ったんだもの。

 この一件を無事に乗り切ったところで仲良く過ごす未来が見えないわ。


 そして恐らく小説家の女も同じような事を思っているのだろう。

 どことなくムカつく笑み浮かべながら酒を呷って、私の事を眺めている。


 そんな険悪な私達の間に入ってきたのは、またしても眼帯の王女様。

 この子、いつも肝心なタイミングで割り込んでくるわよね。狙ってるの?

 でも、見た目はとてもそう見えないけれども呑み込みの早い彼女の発想ならばあるいは――――



「話を整理すると、店主さんの大事な人を探す。これが基本的な指針だとしましょう。それじゃ、その手がかりは? 店主さん、何か覚えは無いんですか?」


「……ごめん、王女様。全く覚えてない」


「それじゃ、どうしてこの場所に、お店を開いたんですか?」



 私は王女様の言葉を聞いた瞬間、思わず机に突っ伏しそうになった。

 あまりにもストレートな聞き方。そんな聞き方、アリなんだろうか。

 言ってしまえば、クイズの出題者にその答えを直接聞く様な行為。

 どうせ覚えてないの一言で流される。

 そう思ったのに。



「……京都。京風。京料理。僕はどうして、こんなにも京都に拘っているのだろう?」



 店主さんはここに来て初めて、頭を悩ませ始めた。

 まるで砂漠の中に埋まった遺跡を探すかの様に真剣に。

 そしてこの眼帯の王女様の問いかけが突破口を開いた事を直感的に悟った。


 私がいくら考えてもわからなかった、店主さんがこの空間を創り上げた際に抱いていた"最初の想い"。そのベールがこんな意外な形で剥がされる事に、正直興奮を覚えずにはいられない。



「……本当にごめん。分からない。たぶん、京都に住んでたんじゃないと思う。憧れだけは強いんだけど。僕、赤味噌とか嫌いだったから、なんとなくそういう野暮ったくない料理の方が好きで、こういうスタンスにしてるんだけど……」


「……キョウトは除外されましたね」


「とりあえず47-1で、46都道県にまで絞れたじゃない。この調子よ」



 これが本当に正しいアプローチなのかはわからないけれども。

 初めて得られた手応えの様なものに、私の心は踊る。

 本当に何かを掴めるかもしれない。

 そんな期待がと希望が私の心の中に生まれた時、ふとある事が思い浮かんだ。


 正直に言って、思い浮かんだのはたまたまだと思う。別に私は料理に関して、知識が深いわけではない。

 でも、それは京都という土地柄上、全く聞かないというのもおかしなもので。

 たった3回しか彼女の料理は口にしていない訳だけれども。

 そして一度も調理場に足を踏み入れた事がある訳では無いのだけれども。

 「京料理風」を名乗る以上、有ってもおかしくない物が無い事に気が付いた。



「そういえば、店主さんの料理って、味噌使わないよね。全部。……味噌使ったら野暮ったいのかどうかは、とりあえずおいといて」



 私の言葉に店主さんはさらに悩んだ顔をする。

 これが何とか突破口を見出す要素になって欲しい。

 そう願って彼女の顔を見つめる。



「ミソ? ……この世界では、脳味噌も料理するんですか?」



 すると眼帯の王女様が突然、頓珍漢な事を言い始めた。

 いやまあ、異世界の人間なんだから味噌なんて知らなくてもおかしくないのかもしれないけど……。

 脳みそ何て食べるわけないでしょう?

 鋭い意見を幾つか投下してくれたから頭の良い子だって思ってたけど……。

 もしかしてこの子、バカ?


 そう思っているのはどうも私だけでは無い様で、店主さんも小説家の女も同じように呆気に取られた顔をしている。小説家の女に至っては、憐れな者を見る様な目を向けている。

 ホント容赦ないわね、この女。


 あ、でもカニ味噌はおいしいわよ。

 この前、お父様が何故か知床まで出張していた帰りに買ってきてくれたカニのカニ味噌はとっても美味しかったわ。


 って、違う!!

 私まで王女様の思考回路に引きずられてどうするのよ……。


 だけど不思議な事に、ポンコツ眼帯王女様の一言はまたしても突破口を開いたらしかった。



「まあ、調味料みたいなもの……。東海の方ではやたらめったにかけたがるんだけど、僕はそれが嫌いで………………嫌いで…………………………?」



 思い当たる節があったのか、店主さんは急に頭に手を当てて考え込み始めた。



「東海……東海地方?」


「東海……。名古屋とか、もしかしてその辺に、店主さんは住んでたのかしら」


「なんて短絡的な……。ただ味噌が好みじゃ無いってだけでしょう……。しかも、名古屋生まれだったら味噌とか普通好きでしょう」



 私の中だと、やはり名古屋の人間は味噌に塗れた生活をしてるイメージがある。

 その最たる例が、あのポンコツお嬢様・西薗彩乃。

 あの女、本当は京都出身のクセにやたらと味噌煮込みうどん好きなのよね。

 私は味が濃すぎて好きじゃないんだけど、あの女、初日のお昼ご飯に目の色変えて食べていたのをよく覚えてる。


 でも、小説家の女が続けた言葉は私のそんなイメージを完全に覆すものだった。

 そして。



「意外とそうでもないのよ。赤味噌とか味噌カツとか、あれはあれで結構、名古屋でも好き嫌いあるものなのよ。それに、店主さんの言葉って、少なくとも関西とか、東北の方じゃないように思えるわ。訛りが薄いし、標準語っぽく聞こえるけど、イントネーションがなんか微妙に違うのよね……。店主さん、なんか他に話し言葉関係で覚えてる事ってない?」



 この女からもまた一つ、突破口が開かれた。

 流石小説家と言うべきか、言葉遣いだとかそういったものに造詣が深いらしい。

 正直言って、私では考えつきもしないアプローチだ。



「うーん…………正直、あんまり自分が話してる言葉が方言だって意識したことは……」



 でも、このアプローチは上手くいかなかった様だった。

 確かに、特徴のある方言以外を見分けてどの地域に住んでいると判別するのは難しいのかもしれない。

 私の住む東京だって、色々な地方から出てきた人間があまりにも多すぎて、色んな言葉で溢れている。しかもそのせいで、本来関東で話されていた言葉とはだいぶ違う言葉がいわゆる「標準語」として知られる様になってしまっている。


 特に関東圏だと、北関東ぐらいまで行くとわかり易いけれども、大体大宮以南は多少方言っぽさがあったとしても判別がつかない。そもそも「標準語」として知られる言葉を完全に喋っている人間自体が割と少数派なのだから。 


 だけどここで、小説家の女はあまりにも大胆なプランを提案してきた。



「残念。まあ、とりあえず中部らへん、ないしは関東圏ということで当たりをつけて、店主さんの大事な人を捜索しましょうか。じゃあ分担。私と王女様で探しに行くから、祈祷師さんは京都に残って」


「は? 」


「それで万が一、他の祈祷師連中がお祓いに来たら、機転をフルに効かせて追い払ってよ。がんば」



 私は驚きのあまり、溜息を吐く事すら忘れてしまった。

 本当にこの女は何なんだろう。

 思慮の間すら人に見せず、即決即断。

 しかも眼帯の王女様が異世界人で戦力にならないだろう事から、実質一人で、正体もわからない人を探そうというのだ。

 中部ないし関東圏とは言うが、どれ程の広さがあると思っているのか。


 しかもそれに飽き足らず、私に対策院の足止めをしろと言う。

 それが出来たら、私だってこんなに焦る事は無かった。


 確かに西薗彩乃との約束は2週間の期限付きだったけど、場合によっては自費でこちらに残るという手も取れなくは無かったのだ。幸い、対策院の構成員の給与はそれなりに良いので、私は高校生ながらそれ程お金に困っていない。

 残念ながら、私のバカ大叔父が意味不明な行動力発揮したせいで、そんな悠長な事を言ってられないのだが。


 だから、対策院が既に着手し始めているこの状況で、私に対してその注文は、無理難題も良い所である。



「………………まあ、もう、何でもいいです」



 私は小説家の女に対して何か反論する元気すら無かった。

 どうせ何を言っても自分の意見を曲げようとはしないだろうし、確かに対策院の人間が来てしまった場合、私以外に何か抵抗らしき抵抗ができそうな人間もこの場には一人も居ない。

 彼女の提案するプランが実は最適だという事は認めざるを得ないのだ。



「それじゃ決まり。期限決めとかないとさすがに祈祷師さんがしんどいわよね。いつくらいが限度になるかしら?」


「……誤魔化し通せるのは、せいぜい2、3日だと思うわ。明後日の閉店まで。それが限界ね」


「…………意外と早くないですか?」



 私の提示した期限に、他の3人は一様に不安げな顔を覗かせた。

 確かに期限に関しては、私はここまで何も言っていなかった。

 ようやくこのお気楽な連中にも事の重大さがわかっただろうと思う反面、本当に2,3日も時間を稼げるかどうか、私自身がとても不安だった。



「それでもできるかどうか分からないの。大きな組織を誤魔化し通すのって、それほど簡単じゃないわ。察しのいい人も何人かいることだし……」



 何しろ、動いてくるのはロリコンの変態――――は関係無いとしても、腐っても特級祈祷師である人間が来るのだ。階級的には私に勝ち目はない。

 今の私にできるのは、対策院内部への最大限の根回しと、結界方陣による呪術的防御を施してこの場所を気休め程度に護る事ぐらい。その防御だって、多分あの変態には通用しないだろうし……。

 何しろ、味方サイドの私が北神本家の人間であると同時に、敵サイドの変態も祇園北神家の当主なのだから。お互いに手の内は知り尽くしている、むしろこちらの階級が低い以上、私が向こうの事を知らない可能性も考えなくてはならない。



「じゃあとりあえず、話はまとまったわね」



 そんな私の懸念も他所に、小説家は会議の終結を宣言した。

 まあ確かに、頭を悩ませていたところで解決する問題では無いわね。

 動かなければ……何も為す事は出来ない。



「まとまりましたね」


「…………いろいろ言いたいことはあるけど、まとまったことにしましょう」



 今度こそ覚悟を決める時。

 そう思って立ち上がった時、店主さんは一人思い詰めた様に俯いて、テーブルの上のグラスを見つめていた。


「………あの」


「ん? なに? 店主さん?」


「…………ありがとうございます。僕のために、みんなに頑張ってもらって」



 少しだけ泣きそうな表情で顔を上げた店主さんが口にしたその言葉。

 それがどうにもおかしくて。

 打ち合わせた訳でもないのに、私と眼帯の王女様と小説家の女の視線が交わって、思わず苦笑が零れた。


 そんな私達の様子に、店主さんは怪訝な表情を向ける。



「いや、店主さんもたまには、素直になれるんだなって思って」



 私の言葉に、店主さんは微かに頬を染めて視線を外した。

 そんな彼女の様子に、また私達3人からは苦笑が漏れた。


 私は2人……小説家さんと、王女様?――――冷静に考えてみれば、王女様ってさすがに嘘だと思うけど、もしかすると少しかわいそうな子なのかもしれない――――が店を出る直前に、2人を呼び止めた。


「ん? なに?」


「…………咲良です」


「えっ」

「えっ」



 え、いや。

 そんな鳩が豆鉄砲を食ったよな顔しないでよ。



「…………なに意外そうに驚いてるんですか。私の名前です。明後日までは、少なくとも貴方達と私は仲間なんです。いつまでも祈祷師さんとか、小説家さんとか、王女様とか、呼びにくくてしょうがないでしょ」


「おお。ここにきて初めて、まともな提案を聞いたわ」


「そうですね。わたし、この世界の地理とかよく分からなかったんで黙ってましたけど、少なくとも一番現実的な提案な気がします」



 こいつら…………。

 時間も気力もあれば、アンタらが言うなって言ってやりたいわね…………ッ!



「それじゃ、改めて。小説家の斉藤伊吹です。伊吹『さん』でいいわ」



 斉藤伊吹――――。

 そうか、この女が斉藤伊吹。

 多分だけど、この人が神童特級が言ってた旧い友人。だから霊力の強い人しか来れないこの店に居る訳ね。

 それはめんどくさい訳だわ。神童特級がめんどくさいんだから、この人がめんどくさくても当然。

 それにしても。



「…………さん付け、要りますか? ……任せましたよ。伊吹さん」



 やっぱりムカつくわね、この女。

 今度流れ弾みたいな感じで精神干渉系の霊術かけてやろうかしら。

 まあ、対策院に見つかるとものすっっっごく面倒だからやらないけど。



「わたしはノアです。あ、王女って嘘じゃないですけど、『元』がつくんです」


「もと?」


「いろいろあって、国が滅んじゃって」


「……………あ、うん、それは……………………………………大変ね」



 この子はもう……。

 ポンコツ枠確定ね。百歩譲って王女がホントとしても、説明が雑過ぎるわよ。



「そう。大変なんです」



 とりあえず、ノアちゃんには期待できないことはよくわかった。なんか気の毒だし。



「…………それじゃ、お互い、努力しましょうか。出来る限り」


「オッケ」


「かしこまりです」



 こうして、正直なところ期待薄ではあったけど、異世界京料理カフェ&バーNOIRの存続を賭けた時間が、始まろうとしていた。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます。

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次話、第13話は4/25 22:00掲載です。

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