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夜桜神楽  作者: 武神
第一章 京料理は愛を育むのかもしれない
1/18

壱ノ夜 始まりは令嬢との会食

本作品は鬼闘神楽のメインヒロイン・北神咲良を主人公にしたスピンオフとなります。

元々スピンオフは本編終了後にしか書く予定は無かったのですが、急にネタ提供があったため、細々とやっていきます。


第1章全18話、書ききった状態で予約投稿しておりますので、ご安心ください。

それでは第一章「京料理は愛を育むのかもしれない」をどうぞ。

 ■異世界京料理カフェ&バー NOIR

 ランチ(京風)…11:00〜14:00

 バー(京風)…19:00〜23:00

 おひとりさま限定、1日1組

 定休日…気分次第

 住所…京都市左京区下鴨泉川59

 糺の森の中の、瀬見の小川をたどっていった先、古い榊の木の近くにあります。

 おなやみごと相談乗ります(解決できるかは分かりません)。



「『異世界京料理』…………ね。ダメだ、全くもって意味不明だわ」



 私はスマホの画面に映るその文字列を眺めて一人ごちる。

 私が今居るのは京都府京都市左京区にある賀茂大橋の上。

 真夏の直射日光が燦燦と降り注ぐ中、34℃というバカみたいな気温もお構いなしに鴨川を眺めながら佇んでいるわけなのだけれど。

 もちろん、こんな事私がしたくてしてるわけじゃない。


 私が普段活動しているのは東京都の西部地区。

 実家である北神神社を主な拠点に…………してたのはつい4ヶ月程前の話で、今は幼馴染の南条一哉が住む屋敷を勝手にメイン拠点にしている。

 私が彼の屋敷を拠点としているのは、ただ単に彼の傍に居たいからという、ただそれだけの不純な動機ではあるが、まあその辺りの話は今は関係無い。


 ともかく、私が今この京都という地に居るのは。

 そして昼間っから鴨川を一人ポツンと眺めている寂しい女になっているのにはきちんとした訳がある。

 そしてその始まりは、昨日の晩の話にまで遡る。





「咲良。貴女、こういった食事は食べる事無いのではなくて?」



 私にそう話しかけてきたその女。藍色の着物を着こなして、茶色がかった長い黒髪をツインテールにしている少し幼い風貌のこの女の名は西薗彩乃。没落した鬼闘師の名家・西薗家の中の数少ない生き残りの一人。

 鬼闘師というのは、質の悪い悪霊が化け物になったモノ・怪魔と戦う戦闘集団なんだけど――――――詳しい話は今しなくてもいいでしょう。

 そして特級鬼闘師たる彼女はいまや西薗分家筆頭。本家無き今、実質的に生き残った西薗家を纏める立場の人間だ。


 私が箸をつけた料理。椿の味噌柚庵焼き。

 その味の繊細さに些か驚いていた私は、西薗彩乃に声をかけられたのだった。



「確かに関東には無い味ね。関東の料理は見た目の派手さと引き換えに、『味の機微』みたいなものは無いから」


「あら、中々言いますわね。どちらかと言えば一般家庭と大差無い食生活でもしてるのかと思っていたけれど、そうでもないのね?」


「おかげさまで、お父様とお母様からは最低限のマナーとして教えられているの。バカにしないで頂戴」



 ちなみに私は鬼闘師と対になる存在である祈祷師。その名門・北神家本家の唯一の跡取り娘。

 だが、本家とはいえ下に多くぶら下がる分家共に冷遇されているのが、北神本家の実態。

 冷遇されている理由は省くが、実家が祈祷師を生業にしている事と、神社である事を除けば一般家庭と何ら変わらない家庭環境だ。

 だから、西薗彩乃の方が分家筋だというのに、私の北神家と比べて圧倒的にお金持ちだ。

 それはこの女のお嬢様口調からもよくわかるだろう。



「気を悪くしたのであれば謝りますわ。ですけど――――」


「わかってるわよ。北神の書庫をアンタに全部見せてあげるって…………」


「それもそうですけども、わたくしが言いたいのは、このわたくしイチオシのお店に連れてきたからには明日からの特訓はさらに厳しくいく――――という事ですわ」



 そうやって子供みたいな笑顔を浮かべるこの女を見て、私は溜息を吐く。

 確かにそうなのだ。

 私が京都まで来て、この大嫌いな女と同じ席で会食しているのも、全ては祈祷師ではなく、鬼闘師としての教えを乞うため。

 だから彼女が言う事は何も間違っていない。

 それでも私はこの女が嫌いだ。一哉兄ぃの事を逆恨みで目の敵にするこの女が。


 そんな風に内心イラついていた私の元に、食欲をそそる芳しい香りと共にお釜が差し出される。

 この香り…………松茸だ。

 安い店で出される様なチャチな物とは違う、主張しすぎず上品で、それでいて決して他の味を邪魔しない程度にはよく香る。本当に高級料亭に来たって感じ。

 私が差し出してくれた女性に、控えめにお礼を述べると、その女性は柔らかい笑みを返してくれた。



「女将さん、この時期に松茸ご飯を出すのは珍しいですわね」



 向かいの席に座る西薗彩乃がその女性に向けてそう言った。

 この店は彼女の行きつけらしいから、その女将と顔見知りでも何ら不思議は無い。

 女将さんと西薗彩乃は何やら世間話だの、近況報告だのしだしたので、私はひたすらに目の前の松茸ご飯にありつくしかない。


 うん、おいしいわね。

 これで目の前に居るのが、西薗彩乃でなければより良かったのだけれど。

 なんで私、この女に妙に気に入られてるのかしらね。


 そんな事を考えながら箸をひたすら動かす私の耳に、妙に気になる単語が聞こえてきた。

 「幽霊が経営するカフェ」。

 確かにそう聞こえてから、私は目の前で交わされる会話が気になって仕方が無くなってしまい、密かに聞き耳を立てる事にした。



「彩乃お嬢様はお耳にされた事はあらしませんか?」


「女将さん。私、今は名古屋で仕事してるんですのよ。滅多に名古屋を出る事も無いのですから、京都の噂話が私の耳に入るわけが無いですわ。」


「これは失礼いたしました。ほな最初から。なんでもそのカフェは『異世界京料理カフェ』なる肩書でお店を出している様なんですけど、これが不思議。店のホームページも住所もわかっているのに、誰もその店に辿り着けへんのです」


「へえ…………。ホームページも住所もわかっているのに、見つけられない――――ですか。ただわかりづらい場所にあるってわけの話では無いのですわよね?」


「それは勿論でございます。そもそもこのお店が見つからへん理由は道が無いという事、ただ一つ」


「道が無い?」


「ええ。ホームページには『糺の森の中、瀬見の小川を辿って行った先』とは書いとりますが、いくら辿って行ったところで、そんな店はどこにも見当たらへんのですわ。そもそも向かって西側は参道、瀬見の小川と泉川の間にお店があるんやと思いますけど、そんなわかり易い場所にあるんなら、普通すぐ気が付くと思いまへんか?」



 話を聞いていると、ただの都市伝説、それもガセネタの類である様に思えてくる。

 そもそも都市伝説にも色々あって、全くのガセネタから、死者の怨念に色濃く汚染されて重度の霊的現象を引き起こす土地・忌土地であったり、ある特定の人物にしか辿り着けない、ある特定の人物以外が近づいてもその道を選択できないなどの理由から、ごく少数にしか認知されないがゆえに都市伝説になるものまで様々だ。

 私の仕事はそういった都市伝説の中でも特に危険性が高いものに対処するといったモノが多い。

 だから仕事柄こういった話題にはついつい聞き耳を立ててしまうのだが、今回はハズレの様だ。


 そもそもの問題としてここは関西・京都。

 私が何かしなくても、関西支部の祈祷師が対処する筈だ。

 まったく、私は今それどころじゃないのに、厄介なものね。そう思って、思わず今日二回目の溜息を吐いてしまった。

 そして私はそれをすぐ後悔する事になる。



「なるほど、それは確かに不思議な事ですわね。ですが、ただの悪戯という可能性も…………でも女将さん、そこで話は終わりではないのでしょう? でなければ、このわたくしにその様な話、するわけが有りませんものね」



 西薗彩乃は得意げな顔をして女将さんにそう言っている。

 「この女、行きつけの店とは言え、ちょっと態度大き過ぎないかしら」などと私は思うが、当の女将さんは気にした風も見せない。そこはやはり接客・おもてなしのプロだからなのだろうか。



「その通りでございます。本題はここから」



 私はすっかり無くなってしまった松茸ご飯を端に寄せ、お茶を飲む。

 とても美味しい。京都は宇治がお茶の本場でもあるし、そもそもこういう高級料亭で手を抜いたものが出てくる訳が無い。ついでに言えば、本当はこんな17歳の小娘が来ていい店ではない。

 完全に手持無沙汰になった私は、一度興味を失った話題ながらも再び耳を傾ける事にした。


 ホントは昨日、一哉兄ぃとの別れ際に少しだけ喧嘩の様な感じになってしまったから、それを謝っておきたくてLINEをしたいのだけれど、この女の目の前で食事中にスマホを触っていたら何を言われるかわかったものじゃない。

 西薗彩乃は、家の格式しか無い私とは違って本物のお嬢様。

 そもそもの問題として、修業をつけてもらう立場の私がこの女の機嫌を損ねたらどうなるか。

 あまり想像はしたくない。



「実は私の知り合いがその件の店に辿り着いたそうで。その店は間違いなく存在したんです」


「…………」


「その店は森の中に忽然と現れたかの様に目の前に現れたそうです。そして店内には若い女性が一人。その女性が独りで切り盛りしているお店で、お客様のスタイルに合わせて店内のBGMやメニューが変わるという、独特なスタイルの店だと言うとりました」


「この京都でそんなスタイルのお店を構えようだなんて、その女性も度胸在りますわね。昨今では外国人観光客もたくさん来るでしょうに。いくら普段は人に見つからないとは言っても、いまいち商売をする気が有るのかどうかわかりませんわね、その女性も」


「ええ。恐らくはそのカフェも趣味・道楽の類なんやろう思います」


「でも、その何が噂になっていると言うのかしら。道がわからなくて辿り着けない店なんて、ごまんと有る。そうでなくて?」



 店への道がわかりづらいという話をするのであれば、今私が居るこの料亭だって人の事を言えた性質ではない。四条河原町の奥の奥。知る人ぞ知る名店と言ったところで、一見さんお断りなのは勿論の事、この店がそもそも店であるという事自体、周りの風景や建物に紛れてわからない。

 私もこの店の玄関を通って座敷に通されるまで、ここが高級料亭だなんて信じていなかった。

 


「その通りでございます。その店の面妖なとこは、『時間が飛ぶ』っちゅう事です」


「『時間が飛ぶ』……? 本気で言っていますの、女将さん?」


「嘘みたいですやろ? でも友人が言う事には、梅雨の雨降りしきる中その店に入ったら、中は暖房焚いとったそうです。しかも、窓から見える景色はうっすらと積もる雪。併せて店の扉からは冷たい風が漏れ入って来てたそうで」



 その話を聞いて、私はいくつかの仮説を頭に思い浮かべた。

 その中でも有りそうなのは、霊術か、或いはそれに類する魔術で幻覚――――それも視覚だけでなく、全ての五感を惑わせるかなり質の悪い幻術を使われているというもの。

 だが話を聞いている限りだと、その術者に何の意図があるのか全く読めない。

 女将さんの友人の話があるという事は、その術に囚われた後も普通に帰ってきているのだから。



「それは面白いカフェですわね。でもそんな摩訶不思議なカフェなら、何でもっと騒ぎにならないのかしら。例え見つからないカフェだとしても、こうして実際に訪れた人間が居るのであれば、自ずと噂は広がるでしょうに」


「それが、この噂にはまだ他に有るんですわ。『その店に入った者は死後の世界に引きずり込まれて二度と戻れなくなる』という、とっておきが」



 その話を聞いた瞬間、私の脳裏にはある言葉が浮かんだ。

 黄泉竈食(よもつへぐい)――――有名な話だ。「生者」が「死者」の世界の物を身体に取り込むと、二度と現世には戻れなくなるという。

 これには諸説あるが、私個人としては取り込む対象に「呪い」がかけられているからだと私は思っている。死者の憎悪や執着、怨念と言った感情を取り込み、自分が自分でなくなる。やがて自らも「呪い」の根源へと帰化する。

 まあ、今回の場合は――――――



「それ、ただの悪質な悪戯なのではなくて? 現に女将さんのご友人は――――」


「その友人の友人が、実際に行方不明になっとるんです。そのお店に行った次の日から」



 私はこの時、直感的に思った。

 これは聞かなかったら良かったと。

こんな感じでゆるーくやっていきます。


ぶっちゃけ今章以外は構成も終わりも考えてません(笑)

次回、第2話は4/3 22:00掲載です。

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