表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルプスの傭兵 ハイジ  作者: エムポチ
7/17

ガスマスク

 ドイツ軍の強固な陣地に攻め込むロシア軍。

 だが、その陣地を破る事は出来ず、疲弊した所をドイツ軍が襲撃をした。

 近代化の遅れたロシア軍はここに来て、ドイツ軍の火力に敗退する事になる。ロシアの第2軍は付近にいる第1軍に救援の為の伝令を幾度も送り出した。

 

 ハイジは疲れ切っていた。

 「ハイジ、サボるなよ」

 マンシュリッターはスコップを片手に汗だくになっていた。

 「墓穴を掘るのは疲れるわ」

 「穴に放り込まないと動物は寄って来るし、敵に気付かれる」

 「面倒ね」

 「そんだけ殺したんだ。仕方が無い」

 まだ、穴に放り込んでいない死体が3体もある。

 ここでハイジが殺害したのは13人に及んだ。

 「それにしても敵もバカよね。こんだけ伝令が届かないって事は途中で殺されているに決まっているんだから、一個小隊ぐらいを派遣すれば良いのに」

 「陣地の前面に居るロシア軍に伝令にそれだけの戦力を割ける力など、残ってはいない。無線なんて便利な道具が出てきて、伝令なんて仕事を重要視するような知恵など熊共にない」

 マンシュリッターは皮肉っぽく言う。ハイジはそれを横目にスコップを手に取る。

 「それより、あとどれだけここで作戦を遂行するの?」

 「弾薬が尽きるまでさ。幸い、飯は腐る程あるしね」

 マンシュリッターは解体の終えた馬の肉を見る。

 「毎日、馬肉と乾いたパンじゃ飽きるわ。それにこの辺、水の確保も難しい。伝令が持ってきた水だけじゃねぇ」

 ハイジは伝令の持っていた水筒から水を飲む。

 近くに村が無い為に水の確保も難しかった。

 

 ロシア第2軍はドイツ第8軍に包囲され、結果、殲滅してしまう。ロシア軍の無線を傍受していたドイツ軍はロシア第1軍が現状を把握していないと判断して、第2軍同様に包囲殲滅をせんと進軍を開始する。

 だが、第2軍の壊滅を知った第1軍はドイツ軍の進撃を知ると、即座に撤退を決定した。

 ハイジ達は進撃してきたドイツ軍の斥候と邂逅し、状況を知ると、すぐに部隊の集結場所へと急いだ。

 彼女達が終結した頃にはこの地での戦闘は終了を迎えようとしていた。


 ドイツ軍はこの戦いから東プロイセンの完全なる奪還が可能だと考え、東プロイセン内の軍を増強し、攻勢を強めた。

 ハイジ達の部隊もその一部に組み入れられ、これまでのようなゲリラ的運用では無く、ドイツ第9軍に編成された。

 ハイジは新たに配布されたガスマスクを眺める。

 「ガスマスクって何か臭いわね」

 それを聞いたマンシュリッターが笑う。

 「毒ガスを吸わないようにするためのマスクさ。臭くてもちゃんと着けないと死んじゃうよ」

 「毒ガスって何よ?」

 「目に見えないガスさ。吸っただけで死んじゃうらしい」

 「へぇ・・・なんか怖いわね。魔法みたいよ」

 ハイジの言葉を聞いた周りの兵士達は大笑いをする。

 

 兵士達の多くは毒ガスについて知らされていない。ハイジ達の部隊に配備されたのも彼らが一般の兵士よりも前に配置される可能性やガスマスクの効果を実験するためでしか無かった。

 まだ、指揮官も含めて、毒ガスについての知識は乏しく、理論上では並の砲弾や爆弾よりも広範囲かつ高い致死率を有している兵器とだけ認識されていた。

 ハイジ達が投入されたポリムフでの戦闘において、多くの毒ガス弾が投入される事になった。野砲から発射された毒ガス弾は敵の前面にて炸裂するも風向きが悪く毒ガスの一部が味方の陣地へと流れ込んだ。

 一部の兵士達は目や喉に痛みを訴えるが、1月のポーランドの低温下では毒ガスの化学変化は鈍く、また、毒ガスと言っても致死率の低い物であった為、効果は大幅に低減していた。結果として、味方の被害は軽微であったが、同様にロシア軍にも損害を与えることは無かった。

 

 ハイジ達は初めてガスマスクを被った。目の前で炸裂した砲弾から多量のガスの煙が上がったからだ。指揮官は「ガスマスクを被れ!」と命じた。事前に訓練したように顔にガスマスクを被る。ゴムの臭いが酷い。だが、毒ガスは吸ったら死ぬと信じていたので、ハイジ達は必死だった。

 「マ、マンシュリッター・・・苦しいわ。毒ガスかしら?わたし、死んじゃうの?」

 ハイジはあまりの息苦しさに隣のマンシュリッターに話し掛ける。

 「何を言っているか解らないよ?」

 マンシュリッターも息苦しさを感じるが、それよりも毒ガスの効果を見るのが彼の興味の全てだった。流れ込むガスの恐怖。それは効果の程よりも人々に恐怖を与える。

 銃や剣よりもそれは不気味で恐怖心を煽るものであった。

 

 毒ガスの効果が得られないと判断した司令部はすぐに毒ガス攻撃を中止し、通常戦闘へと移った。

 ハイジ達の上官もその指示を受け、全員にガスマスクの装着を外すようにし指示する。ハイジは慌てて、ガスマスクを外す。

 「このマスクで殺されるかと思ったわ。まったく息が出来ないじゃない」

 ハイジが肩で息をしているのを見て、マンシュリッターは笑った。

 「笑いごとじゃないわ。それに今の見たでしょ?風が吹いたら、味方まで被害を受けるし、相手がこれを手にしたら、意味が無いじゃない」

 ハイジの言う事は最もだった。

 「その時は・・・もっと強力な毒ガスを開発するだけだよ。それに今は大砲で撃っただけだから、敵の前面にしか落とせないけど、飛行機を使えば、敵の真ん中に落とせるだろ?」

 マンシュリッターは偵察の為に飛んでいる一機の飛行機を指差した。

 この戦争において、毒ガスと共に兵器として、発展を遂げる物だ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ