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アルプスの傭兵 ハイジ  作者: エムポチ
4/17

相方

 統一ドイツ帝国軍の組織は一枚岩では無い。

 そこにはドイツを彩る各々の国家の軍隊が一つのように扱われているだけだ。

 無論、同盟関係故の連携を持っているが、比べれば違いは存在する。

 だが、統一ドイツ帝国の旗印の下、軍拡は進み、大規模な徴兵によって、規模は拡大の一途を辿った。

 銃を握った事も無い若者が集められ、軍服を着せられ、兵士の顔をする。

 風は火薬の香りを漂わせている。

 英国、仏国、露国なども緊張を高めつつあった。


 傭兵としてプロイセン陸軍に所属する事になったハイジはフランクフルトを離れ、プロイセン陸軍第一師団の置かれていたケーニヒスベルクに居た。

 傭兵部隊はプロイセン陸軍参謀直下に置かれた。当時、傭兵部隊の取り扱いは様々であったが、戦闘技能が優秀な者が多く集められた場合、一般兵とは別に猟兵として、戦術さえ違う扱いをする事もあった為、彼等も特別な運用を成す部隊として一般兵とは分けられた。

 ハイジに与えられたのは軍服と統一ドイツ軍が採用したGew98aであった。一般の兵が持つ小銃に比べて、少し全長が短い騎兵用の銃であるが、歩兵銃とも言われる一般兵用に比べて短いのは当時は一般的だった銃剣突撃を想定した長さでもある為でもあった。この時点で傭兵達に求められる用兵は一般兵と違い、より高度な戦術を想定されていると思われた。

 ハイジにとって、それはどうでもよく、与えられた銃が一般兵と違う事も知らなかった。

 彼女は分隊長を頭にする10人の兵士の1人だった。

 分隊長はプロイセン陸軍の少尉であった。同僚となる9人の国籍はオーストリアやスイス、ベルギーなど様々であった。皆の目的は主に金である。多くは貧しい国や地域の出身者達であり、戦争が終われば、多額の報酬を手に帰郷するのが目的であった。

 軍隊経験が無いのはハイジぐらいだった。だが、類稀な運動神経を持つハイジの能力は他の者を圧倒する場面も度々ある程で、厳しい訓練も彼女にとっては左程、難しくは無かった。

 特に小銃による射撃は元猟師の同僚よりも遥かに高い成績を残し、分隊長は彼女を優良射手として選別した。

 まだ、狙撃手という分類は確立されておらず、そもそも狙撃銃と言う部類も無い時代だ。だが、銃の性能は格段に上がり、かつてなら、狙っても当たらないのも銃であった時代から、狙えば当たるような時代になっていた。

 ハイジはその射撃の腕前から、前線で士官や機関銃手を狙撃する事を優先にするように命じられる。

 訓練は続くが、彼女らが銃剣突撃をするような訓練はあまり行われなかった。

 

 そんな日々が続く中、ハイジ達に移動命令が下りた。

 ハイジの腰にはクララが貰ったモーゼルC96が木製ストック兼ホルスターに収まっている。

 汽車に乗り、彼女達は長時間、揺られた彼らが三日掛けて、到着したのはオーストリアだった。

 初めてのオーストリアにハイジは驚きながら眺める。

 この頃、オーストリア軍によるセルビア侵攻が始まろうとしていた。ハイジ達の派遣はこの侵攻に対するドイツ軍側からの申し訳程度の支援であった。

 

 ハイジの部隊は二日のウィーン滞在後、前線へと移動した。

 すでにセルビア侵攻は始まっており、オーストリア・ハンガリー軍はセルビア領内での戦闘を行っていた。圧倒的な戦力で彼等はセルビアを蹂躙していく。

 ハイジ達の部隊は少数であるため、主戦力として扱われる事は無いが、偵察任務を主に引き受けた。

 偵察任務は騎兵の仕事ではあったが、銃器の性能が上がるこの時代においては目立つ騎兵は的になるだけという考えもあった。その為、秘密裡に敵地へと入り込まれる熟練兵の集まりである傭兵部隊の任務に最適は無いかと言う議論を実証する為にセルビアに派遣されていた。

 その思惑通り、彼らは知らない土地であるにも関わらず、山々を迷う事なく進み、敵地深くへと入り込んだ。そして、敵の位置、規模、装備などを調べ、情報を持って帰る。これがとても重要な役割を果たすはずだった。

 しかしながら、オーストリア・ハンガリー軍はセルビアの善戦に撃退され、停滞する事になった。

 

 ハイジは敵地深くで士官に狙いを定める。山育ちの彼女の視力は推定で5.0を超え、500メートル先の敵を捉えていた。

 「敵士官を撃ち殺せると思いますが?」

 ハイジの問い掛けに対し、分隊長は乗り気では無かった。そもそも、この戦いはあくまでもオーストリア・ハンガリーのものであり、尚且つ、ここが敵地深く、下手をすれば敵に包囲される可能性もあるからだ。

 結局、ハイジを含む、彼らは特段の成果も出せずに戦場から帰還する事が決定した。

 だが、参謀本部では彼らの情報収集の高さを認め、これから始まるだろう大戦にとって、重要であると考えた。

 ドイツに戻ったハイジに光学照準器が搭載された新たな小銃が渡された。これは銃身は一般兵と同様の長さになったが、命中性能が格段に上がったのと、光学照準器により、目標を精緻に狙えるようになった。

 無論、まだ、この頃の光学照準器は初歩的であり、あくまでも倍率が上がり、狙い易くなっただけに過ぎないが、それでも命中性能は拡大に上がった。

 そして、ハイジに与えられた仕事は暗殺だった。

 敵後方に位置した士官や伝令を殺害して、敵を混乱させる。それがこれからの戦術の在り方だとの意見があった為だ。

 ハイジは階級が上がり、兵卒から兵長になっていた。そして、部下として、どこかの学者か何かに思わせるような風貌のチェコ人であるマンシュリッター一等兵が配置された。

 ハイジは彼と共に二人で敵地深くへと入り込み、作戦を遂行する事になる。

 マンシュリッターは風貌通り、元は新聞記者であった。しかしながら、取材方針について、勤めていた新聞社と折り合いが悪くなり、辞めてしまった。軍隊に普通に入隊するという方法もあったはずだが、色々と自暴自棄になっていた事もあり、傭兵を目指してしまったようだ。

 戦争が始まり、後悔しているようだが、傭兵であっても敵前逃亡は銃殺刑である。逃げ出す事も出来ず、新たにハイジの相方を命じられたわけだ。因みにこれを決定した上層部の思惑は学の無いハイジでは敵情を視察した際に得た情報を上手に纏めて、簡潔に報告する事が出来ないと危惧した為である。そして、これはまさにその通りであった。

 

 

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