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アルプスの傭兵 ハイジ  作者: エムポチ
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大戦前夜

 ハイジはメイドの仕事に比べ、良心の呵責こそあれ、傭兵稼業の方が肌に合っていた。

 幼少期に徹底的に叩き込まれたキリスト教であったが、最近、聖書は開いていない。

 神への祈りは最初に人を殺した時に忘れた。

 十字架の代わりに手にしたのは拳銃。

 クララはハイジの腕前を認め、信頼した。

 そんな二人が歩む時代は欧州全域にきな臭さを漂わせていた。

 近世の末期。

 王政が滅びようとしている時代。最後の覇権を掛けて、動き出していた。

 クララの家も軍拡を続ける国に合わせて、大きくなっていた。

 そんな中で年頃のクララにも縁談が持ち上がる。

 相手は爵位を持つ軍人で、将来有望な青年だった。

 この話にクララも含めて、断る理由が無い為に、あっさりと婚姻となった。

 当然ながら、クララは相手先の家に入る事になり、ハイジを連れて行く事は出来なかった。

 無論、ハイジの実力は解っているので、クララの実家にて、引き続き、雇われる事は確約済みであったが、クララの居ない家、クララでは無い人の警護。それはハイジにとって、肩身の狭い想いがあった。

 クララが嫁いで半年も経たずにハイジは仕事を辞めた。

 ある程度、蓄えがあったので、しばらくは仕事もせずに居られたが、それでもいつまでも無職とはいかなかった。

 サラエボでオーストリアのフェルデナント大公を狙った暗殺事件が起きた。事件自体は巷で騒がれる事は少なかったが、政治的な意味合いでは大きな衝撃が統一ドイツ中に響き渡った。


 ハイジは通いなれた酒場に居た。

 彼女自身は酒を飲む事は少ない。それでも一杯のビールを飲みながらキャベツの酢漬けを食べる。

 そんな彼女の横に男が座る。そして、彼女に声を掛けた。

 「よう、あんた。ハイジだろ?」

 そう声を掛けられ、ハイジはジト目で彼を見る。

 「気安く名前を呼ばれるのは気持ち悪いんだけど」

 ハイジの返事に男は苦笑いを浮かべる。

 「悪い悪い。それよりもあんたに仕事をして貰いたいんだ」

 「仕事?」

 「あぁ、そうだ。悪い仕事じゃない。帝政ドイツ軍の傭兵部隊に参加して欲しい」

 「帝政・・・ドイツ軍?」

 「あぁ・・・ここだけの話だが、まもなく戦争が始まるらしい。それもかなり大がかりな。今はどこの国でも兵士集めに躍起になっている。銃や大砲なども足らないらしい」

 男の言葉に嘘は無い。戦争が近いのも武器の生産の為に工場などが活気づいているのもハイジは知っている。

 「あんた・・・名前は?」

 「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺はハインツ。元軍人だ。今は傭兵をやって食っている」

 「軍人・・・なんで傭兵なんてやっているの?」

 「金になるからさ。下っ端の兵士じゃ、同じ命が掛かっているのに薄給だからな」

 ハインツは笑った。まだ、20代後半ぐらいだろうか。ベテランという感じでは無いが、鍛えられた体躯は服の上からでも解る。

 「それで・・・なんで私なの?」

 「あんたの話は有名だ。幾度も強盗を撃退している。半端じゃ無い銃の使い手だとか」

 「比べた事は無いから知らないわ。銃は祖父から教わっただけだし」

 「祖父?猟師か?」

 「いえ、炭焼きだったわ。その前は傭兵だったけど」

 「傭兵か。なるほど。それでね。とにかく、あんたの噂は知っている。あんたなら高く売り込める」

 「売り込める。・・・あんたはそれで紹介料を受け取るわけね」

 ハイジは呆れた顔をする。

 「これも渡世術さ。金は必要だからな」

 「しかし、私は女よ。軍隊なんかに混じって大丈夫なの?」

 「傭兵の世界には関係無いさ。強ければ。別に娼婦をやらせようとしているわけじゃない」

 娼婦という言葉にハイジは顔を赤くする。

 「まぁ、考えておくわ」

 ハイジはその場で答えを出さなかった。

 

 数日が経ち、ハイジの前にハインツが現れた。

 「よう、話は考えてくれたか?」

 ハインツの問い掛けにハイジは少し思案した仕草を見せた。

 「あぁ・・・正直、仕事に困る事は無いと思ったが、ろくに学も経験も無い私がやれる仕事なんてこの街には無さそうでね」

 「そうだろうな。あんた、不器用そうだ」

 ハインツの冗談にハイジは睨みを利かせる。

 「それより、やっぱり戦争は近々、起きるみたいだ。どんな形になるかは解らないが、覚悟しておけよ」

 「戦争が起きたら稼ぎ時なんだろ」

 ハイジは退屈そうに尋ねる。

 「あぁ、そうだ。普通の兵士と違って、手柄に対しては報酬が大きい。それに街や村を制圧すれば、色々と物色が出来る」

 「盗賊と同じだな」

 ハイジはハインツの考えに呆れた。

 「バカ野郎。こいつは真っ当な兵士だってやっていることだ。命を賭けてやっているんだ。それぐらいの旨味は無いとな」

 ハインツは下卑た笑みを浮かべた。それにハイジは気持ち悪さを感じる。

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