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アルプスの傭兵 ハイジ  作者: エムポチ
16/17

敗北の匂い

 パリを目前にしてドイツ軍は停滞した。原因は物資不足と兵士の疲労である。

 後退した英仏軍が戦力を整えて、迎撃に入った事も要因だ。

 60kmを前に迫ったパリを諦める事は出来ず、尚且つ、アメリカ遠征軍の派遣が始まった事を受けた事で新たな作戦が開始された。

 パリに向けての侵攻はドイツ軍にとってはギリギリの状態での侵攻であった。

 激しい砲撃をイギリス軍陣地に放ち、歩兵部隊が雪崩れ込んだ。

 この時点において、消耗が激しかったハイジ達の部隊は後方へと一旦、退いていた。

 

 「新しい国が参戦するの?アメリカって?」

 ハイジはアメリカを知らなかった。彼女にとってみれば、遠い異国であり、この時代において、アメリカや日本など、海を越えた先の国まで知っている庶民など左程、居るわけじゃなかった。

 「イギリスから独立した国だよ。かなり大きな国でね」

 マンシュリッターは軽く説明する。

 「イギリスの属国だったのに?」

 「あぁ、国の大きさで言えば、イギリスの何倍もあるからね。金とかが取れて、経済的に大きく潤っているらしいよ」

 「凄いわね。そんな国がヨーロッパの戦いに参戦するの?」

 「あぁ、すでに戦争は世界規模になっているからね。アメリカは参戦する事で、ヨーロッパにおける発言権を高めたいんだろ」

 「へぇ・・・政治的な事ね」

 「そういう事。わざわざ大西洋を越えてくるんだから。まぁ、もっと遠い国。日本って言う島国も参戦しているみたいだけど」

 「日本?・・・どこ?」

 「東洋の国さ。中国の近くらしい」

 「東洋・・・そんな国からわざわざ、ヨーロッパへ?」

 「いや、青島とかアジアの植民地を制圧しているらしい」

 「嫌な連中ね」

 「そうだね」

 ただの兵に全体の事が解るわけも無く、ハイジはこの先がどうなるかなんて考えも無かった。ただ、早く戦争が終われば良いと思っていた。

 

 ドイツ軍のパリ侵攻は結果的に失敗に終わる。多いな損害を出して、思った以上の侵攻は出来なかった。その間にアメリカ遠征軍の210万人が到着をして、戦力的均衡は徐々に連合軍側に傾き始めていた。

 大きな戦局の変化が無いままに年が明ける。

 連合軍はアメリカ遠征軍を加え、大幅な再編成を行った。

 これに大きく時間を割いたために夏までは戦局に変化は無かった。同時にドイツ軍も前年の消耗が大きいのと、制圧地域の拡大による戦力不足が目立ち、新たな侵攻作戦は計画が出来なかった。

 そして初夏の頃、連合軍は全ての準備を整え、ドイツ軍への反攻作戦を計画した。

 圧倒的な戦力と物資による進撃が始まろうとしていたのだった。


 その頃、ハイジ達はすでに最前線にて、警戒態勢を整えていた。

 この期間、目立った戦闘は起きず、時折、小規模な戦闘がある程度で、殆ど、負傷者を出すには至らずにいた。

 ある意味では戦場は平穏な状態であったと言えるだろう。

 ハイジは制圧した村で兎肉を手に入れた。

 戦時とは言え、街や村は普通に人が生活をしている。

 無論、戦争によって、破壊されたり、略奪や暴行を受けたりの危険性を感じながらだが。

 通常、支配下に置いた街や村に対して、非道をする事は無い。

 強制的に食料などを供出させる事はあっても余裕がある場合はちゃんと購入する。

 今回の兎肉もハイジが買ったものだ。

 この村は商売女が居ないので、あまり兵士には人気が無い。

 大きな街に行くと、大抵、商売女が居る。

 商売女にとっては相手が敵国兵であろうと、大事なお客様だ。

 兵士は女に飢えている。だから、女を買うのが普通だった。

 ハイジはそんな女達を大抵、卑下している。

 同じ女だからとも言えるし、処女だからとも言える。

 

 ハイジが作ったスープにマンシュリッターも含め、仲間の兵士達が舌鼓を打つ。

 まともな肉の入ったスープは久しぶりだった。

 本国はかなり経済的に疲弊している為、戦場に送られる食材もかなり貧しくなっている。

 パンと具の無いスープって事も多い。

 「だけど・・・アメリカも参戦するって事は・・・どんどん、戦争が拡大しているって事ね」

 ハイジに言葉にマンシュリッターは考える。

 「あぁ・・・正直、もう長い事、こんな大きな戦争をしている。正直に言えば、もう国力が持たない気がするんだよね。多くの若者は徴兵され、戦場に狩り出されているんだ。本当なら収穫期に人手が欲しいのに人手が足りない村は多くあるだろうな」

 「もし、あと5年も戦争が続いたら、国が滅びちゃうんじゃない?」

 「あぁ、そうかもな。パリの攻略も目前で停止したままだし・・・この戦争は負けるかもしれない」

 「負けたらどうなるの?」

 「まぁ、今の状態で敗戦となっても、戦争で手に入れた領土を失って、戦争で起きた賠償を払うだけだろうね」

 「賠償?」

 「あぁ、損害が大きいからね。負けた国は勝った国に賠償金を払うのさ。そうでもしないと、それこそ、相手の国を完全に滅ぼすまで戦争ってことになっちゃうからね」

 「なるほど・・・」

 「まぁ、そうなれば、幾ら、英仏がドイツを滅ぼして、全てを手に入れても、復興までに膨大な時間と資金を出すしかないしね」

 「相手を滅ぼすだけが戦争じゃないのね」

 「昔と違うからね」

 マンシュリッターは笑いながらスープを口に含んだ。

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