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アルプスの傭兵 ハイジ  作者: エムポチ
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少女から傭兵へ

 1900年代初頭

 アルプスの山々に囲まれた自然豊かな村で育った少女ハイジ。

 幼い頃に両親を亡くした彼女を育てたのが母方の祖父であった。

 おんじとハイジから呼ばれた彼は村はずれの炭焼き小屋でハイジと二人で生活を営んでいた。

 炭焼きと僅かな家畜による貧しい生活であったが、大柄な男であったおんじはそれなりに仕事が出来、ハイジを育て上げる事が出来た。

 しかしながら、月日は流れ、ハイジが15歳になった頃、おんじは病に倒れた。

 彼はハイジに看取られて、帰らぬ人になってしまった。

 ハイジはたった一人の肉親を亡くし、孤独となってしまう。

 炭焼きと僅かな家畜ではどのみち、先は無いと悟ったハイジは生まれ育った故郷に別れを告げる事にした。

 元々、アルプスの山々にある小さな村では生活が貧しく、他の国へと出稼ぎに行くなどは当たり前にあった。特に山々に囲まれた地形特有に偉丈夫が多い為、傭兵として、世界中で雇われる事も多かった。

 炭焼き小屋と僅かな家畜を売り払った金で、ハイジはかつて、一時期を過ごしたフランクフルトへと旅立った。親友であったペーターもハイジより先に傭兵として、異国へと旅立っていた。

 フランクフルトには親友である資産家の娘、クララが居た。

 この頃、フランクフルトはプロイセン王国に併合され、元々、金属加工などが盛んであったが故に工業都市として発展をしようとしていた。近隣の都市を併合し、人口は増加の一途を辿り、富が街に集中しようとしていた。

 久しぶりの汽車から降りたハイジは少し悲し気な表情をする。

 懐かしい街並みであった。だが、ここは山育ちのハイジを苦しめたところでもある。トラウマのようにかつての事が思い出される。だが、親友であるクララに会うのは楽しみだった。

 クララの豪邸は相も変わらず・・・否、更に豪華になっている感じがした。

 クララは令嬢として、気品を漂わせる淑女となっていた。

 その美しさに見惚れるハイジだったが、早速、事情を説明し、この街で暮らせるように願った。

 クララは以前、ハイジがこの街でホームシックになった事を思い出したが、あれは幼少期の事、今は大丈夫だろうと思い、その願いを受け止めた。

 クララはハイジを手元に置いておきたくて、メイドとして彼女を屋敷で雇う事にした。

 メイドとしての給金は左程では無いが、住み込みで食事や衣服に関しては支給である事を考えるとかなり厚遇であった。


 ハイジは即日に屋敷のメイドを仕切るメイド長の教育を受ける。

 だが、山育ちのハイジにとってはそれらの事はほぼ、初めての経験であり、掃除一つ、まともには出来ない有様だった。

 メイド長も呆れながら、ハイジがクララの知り合いという事で、目を瞑った。

 それから1カ月が過ぎた。

 相変わらず、ガサツなハイジの行動はメイドにしては不適格で、他のメイドからも不満が爆発しそうだった。

 ハイジもその事を気にすると同時に慣れない街での生活も相まって、精神的に病んでいく。

 ハイジの表情が日に日に暗くなるのをクララも気にしていた。だが、彼女をどうする事も出来ず、クララ自身も悩むしか無かった。

 ある日、屋敷ではパーティーが行われた。

 そこにはプロイセン王国からも高官などが出席しており、とても賑やかであった。当然ながら、メイドであるハイジも忙しそうに料理などを運んでいた。

 そんな時、パーティーに紛れ込んでいた暴漢がクララに襲い掛かろうとした。

 彼は隠し持っていた回転式拳銃を取り出し、至近距離でクララを狙撃しようとしたが、咄嗟に飛び掛かったハイジによって、一瞬にして、銃は奪われ、更に激しい一撃で男は昏倒した。

 その働きを見ていたプロイセン王国の軍人は大変、驚き、クララに尋ねた。

 「彼女の動きは並の女では無い。軍人でもあんなに咄嗟にあれだけの動きが出来る者は多くない。彼女は何者なのですか?」

 その問い掛けにクララは少し戸惑いながら。

 「彼女は最近、雇ったメイドです。アルプスで育っただけのただの女の子のはずですが」

 「アルプス・・・なるほど。彼女の身内に傭兵が居たのでしょう。彼女の動きは傭兵そのもの。とても実戦的で強いですよ。メイドにしておくのは勿体ない」

 軍人の言葉にクララはとても納得した。

 その日の晩、クララはハイジを呼び付け、事情を尋ねた。

 ハイジは戦闘技術をおんじから教えて貰った事を告白した。

 それは年頃になるハイジが男から襲われる事を危惧したからである。

 元々、活発であったハイジは村でも格別に高い身体能力を有していた事もあり、その習得に時間は掛からず、また、それを応用する術も心得ていた。

 だが、おんじはそれ以外は彼自身もガサツであった事から、ハイジにあまり教えずに逝ってしまったのだ。

 ハイジから事の次第を聞いたクララは彼女をメイドでは無く、傭兵として、雇う事にした。

 資産家とは言え、私兵を持つ事は少ない。だが、急激に富が集まるフランクフルトで、彼女の家柄ぐらいになれば、今回のように命を狙われる事もあった。

 身辺警護を任せられる者となるとそれ程は多くない。ましてや、女性となれば、極僅かだ。

 こうして、ハイジはクララの元で傭兵となった。 

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