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聖学少女探偵舎 ~Web Novel Edition~  作者: 永河 光
第二部・幾星霜、流る涯 Once Upon A Long Ago
65/272

第十二話 閻獄峡ノ急『黒墨の帳に』(前編・その30)

挿絵(By みてみん)

11.





・証言 八幡馳夫 



「やぁやぁ、いらっしゃい。可愛いねぇ」

「いえいえ、そんな」


 福子もはにかむような笑みで応じるものの、かといって開口一番そんなことをいわれても対応に困る。

 馳夫さんの部屋は、とにかくパソコンが目につく。広い和室に所狭しとスチールのラックが並び、チカチカとLEDの点灯する四角い機械が幾つも置かれてある。クリーム色の古そうな物、穴の空いたスチール製のもの、緑色に光る物など、新旧取り混ぜた感じで、そのどれもにうっすら埃がかぶっている。

 壁の棚にズラリと揃っているのは、どれだけ機械に疎い福子でもそれが何かくらい一目でわかる、任天堂やソニーのゲーム機群。他にもMSや、セガとかNECとか今では店頭で見かけない、古い時代のゲーム機などもある。

 ちょっとタコ足配線がとんでもない状態になっていた。


 見た目は三〇代ほどで、伸夫さんや恒夫さんにも似た濃い顔の、恒夫さんの息子がこの馳夫さん。綺羅さんとは、親が従兄弟同士の関係、ようは、はとこになる。

 曾祖父の代から二人の兄弟、そこから一人っ子が続く(結果的には暁夫さん家は長女が死去して、伸夫さんは一人っ子になったわけだけど)核家族の二世帯同居という形で、わかり易いといえばわかり易いけど、世代が進むにつれ、傍系と直系とでの、家族という関係が乖離して行くような気もする。


「まず、馳夫さんにお聞きしたいのが、以前この家に……」

「あ~あの話ね! いやーまいったねー。俺の後輩のね、就職浪人して実家にも戻れなくてどーにもならなかったアホが一人いてさぁ、しばらく俺がウチで面倒みてたわけよ。そんだけのコトよ、うん」


 面倒みてっていうか、迷惑をかけただけじゃないのかしら。ご家族に。


「その際は、どのようにそのご友人を?」

「まー、俺の部屋でゴロゴロしてポテチとか食ってゲームしてただけだしさ。そりゃ、こんだけありゃ退屈もしないっしょ?」

「ま、まぁ……そうでしょうけど」

「まーうちの親父も伸夫おじさんも、家ン中あちこち弄られるのって大嫌いなんだよ。祖先代々の何だかんだに手もつけようとすらしないし。開かずの間とかも結構あるしね。だから絶対俺ん家の中だけは探検すんな、この部屋だけに居ろって、そこだけは口をすっぱくしていっといたけどさ」

「開かずの間……」


 どうなんだろう。まさか、隠し通路とか?


「まあホラ、俺の部屋には流しも浴室もトイレもあるし、ここに居る分なら問題ないし」

「お手伝いさんは……」

「あぁ、入らせない。っつーか入ってこねえし、あの()ら」


 入ってこない、ってのもどうなんだろう。

 掃除をして欲しくなくて入らないように命令しているのだろうか。確かに、このコンセントの配線を掃除とかは、する方も大変だし、彼にしても触られたくはないだろう。常時稼働のサーバーマシン(?)らしき物もある。

 機械にはまったく詳しくなくても、以前このタイプの小さな箱型マシンは、カレンに見せてもらったことがある。


「つまり、その件の時はあくまで『馳夫さんの協力があった上で成立してた』ってお話ですよね?」

「うん。だからまぁ……いや。わかんないけどね、今回の件がどうなのかは」


 今回の件……。


「ん~どうなんだろねェ。まぁ、ぶっちゃけ、何がどうなってるのか俺にはよくわかんないんだけどね。いずれ婆さんの葬儀も済んだ頃には、落ち着くでしょ、こんな変な事件は」

「そうですねぇ……」


 葬儀……ちょっと、宗派がわからない。お婆さん自身は密教だとは思うけど。この家では?


「あとは、変にマスコミとかに騒ぎ立てられないよう、親父や伸夫おじさんが手を回してくれるのを祈るしかないけどね。ただ、農協とか土地屋ならともかく、マスコミや警察にはどうなんだろなァ……親父たち、そこまで手回せるような力ないぜ、たぶん」

「自然死で収まるなら、そこは大丈夫だとは思いますけども……」


 そこがまず、確証がない。ちょっと恐い話でもあるけど。


「そこかぁ、そこだよなァ……。まあ、でももし何か……そうだな。自然死じゃないなら『粂さんの自殺』ってコトかなぁ? 婆さんが自殺なんてするかね? まー綺羅が一服盛るなんて、いくらあの子でも……いや、やりそうな子だけど、さすがに無いだろうしなァ」

「ぶ、ぶっそうなお話ですね」


 やりそうな子、って認識なのか。


「……綺羅はまァ……うん。あの娘はね。可愛いんだけどね、ちょっとね」


 ニヤニヤしていた軽そうな馳夫さんも、ここでようやく眉間に皺を寄せる。


「綺羅さん、やっぱり何かご家庭内でも、しでかしてますの?」

「そうそう。まあ、いっつもニコニコしてる娘だけどね、何考えてるかわかんない所ある子でね、うん……まあ、俺ちょっと、その。……あの子は、怖いから」

「怖いことされたんですか」

「うん、まあ昔、刺されたことあって」


 うっわ。


「な、何か綺羅さんに刺されるようなこと、しちゃったんでしょうか……?」

「ないない。俺、ジェントルメンだから!」


 笑いながら馳夫さんはエスプレッソ・マシンのスイッチを入れる。


「……別にさ、ほんの軽口なんだよ。はとこ同士ってのは六親等だから、結婚だってできるんだぜ、っていったら、表情も変えずにニコニコしたまま、柿を剥いてた最中の果物ナイフで腹をザクっだよ。いやぁ、たまげたわ。身内だし、軽傷で済んだから、さすがに警察沙汰にゃしなかったけどさ。俺、お腹に無駄に肉あって良かったよハッハッハ」


 うーわー。





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