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聖学少女探偵舎 ~Web Novel Edition~  作者: 永河 光
第二部・幾星霜、流る涯 Once Upon A Long Ago
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第十二話 閻獄峡ノ急『黒墨の帳に』(前編・その29)


「っていうか、私の実家のコトなんてどうでも良いでしょっ!?」

「あ、すみません……私、実家が真言宗だから、少し気になって」

「……アナタ、クリスチャンじゃないの?」

「学校は、そうです。でも、それほど気にしてはいませんし。私も、姉も、父も母も」


 あっ、「姉」っていっちゃった。まあいいか。事実だし。


「宗教とかに関心の薄い家なのね」

「いえ、お寺ですし」


 少し険しい顔でいた郁恵さんが、クスっと笑いをこぼす。やや苦笑のようにも見えた。


「ナニそれ。ははっ、気楽で良いわね、羨ましいわ。……ウチの親なんて……熱心な□□教でね、冗談じゃないわ、あんなのカルトよ、カルト!」

「いえ、その……。一応、それってふつうの宗教団体だとは思いますけど……」


 さすがに家業が宗教団体だと、そう易々と他宗派をDISるわけにもいかない。

 大子の知識の中では、□□教は幕末からの新興宗教で、「他の宗教を否定しない姿勢」の教義である故に、宗教者間での催しや協議に積極的に音頭を取る団体――という印象の方が強い。実際、会議やイベントに父が招かれたことも幾度かある。

 それだけに、これといって反感も抵抗も悪印象もないのだけど、いわゆる現世利益の宗教で、一対一での対面の祈祷を中心とした独自の宗教だけに、多額のお布施を頻繁に捧ぐ家族を目の当たりにした家庭で、さして本人に信仰心もなければ、郁恵さんのような印象にもなるのだろう。


「だからもー、ああゆーのが『()()』ってだけで清々するわ、こんな片田舎だけど」

「は、はぁ……」


 相槌も打ち難い。


「……あ、やっぱり『()()』んですか。でも、このお屋敷を見る限り、わりと熱心に色々あるようですけど」

「さぁ? 先々代のじゃないの? 主人も伸夫さんも、触らぬ神にタタリなしって感じで放置してるけど。知らないわ」

「郁恵さんがこちらにいらしてから、誰のお葬式も出してない、ってことですね?」

「えっ? ……ああ、そうね」


 う~ん……。首をかしげる。

 まずは、郁恵さんが八幡家に嫁いだのは、徳夫さん暁夫さんの不審死以降、ということ。そこは良いとして。

 その「異様さ」に気付いているのは、自分たち姉妹と「巴ちゃん」だけではなかろうか。

 ……いや?


「そうだわ、どうするのかしら、粂さんのお葬式。ヤだ私、ほんとに知らないわ。ここいらのことだから、やっぱり法華教かしら?」

「さぁ、それはむしろ私たちが訊きたいことですけど……」


 余所から嫁いで来たとはいえ、この家のことをここまで「知らない」っていうのも、どうなのだろうか。

 ()()()()()。――これは、少し異様にも思う。

 ざっと村を見通しても、誰も管理すらしていなさそうな、あの毘沙門塔くらいしか宗教的な施設は見あたらなかった。

 それくらいしか古い建物が「無い」のだから、確かにノスタルジーに浸るための装置に足りない。「ここを舞台にした萌え漫画がアニメ化されたって、ゼッタイ聖地巡礼なんてされないわよ!」……酷いセリフだけど、そう――ちさと部長だってそのことには、ちゃんと気付いていたのか。

 今更ながら、少し感心する。

 と、同時に。

 綺羅さんと、巴ちゃんの交わしていた、あのおかしな会話も気になる。自分たちに理解できない次元で、彼女たちは既に、奇妙な闘いを交わしている。不思議な子だと思う。

 不思議といえば、そう、綺羅さんも。


「そういえば、お婆さんの異変には少なくとも綺羅さんと、藍田さんは気付いていたということでしょうか?」

「……でしょうね。だいたい一晩そこらで人間がミイラになるわけがないでしょ。多分わかってて、死んだ粂さんをず~っと隠してたんじゃないかって……あぁ、気味悪い!」


 そうですよねぇ、としかいいようがない。だいたい百人中百人、誰が聞いてもこれは同じ考えを持つだろう。異変、怪異と呼ぶにはあまりにも「常識的に考えて整合性がつく」話で、そうすると、老婆の死を隠していたという関係者の異常性だけが際立つ。

 ……ただ、そこでもやはり巴ちゃんの指摘した通り、何も身内が――綺羅さんや藍田さんが関わっていたとは断言はできない点。しいてはこの八幡家のセキュリティの甘さにも因がある、「断定ができない」ことのもどかしさや不安。それが、この郁恵さんにもあるのだと大子にもわかる。

 とはいえ、いくら過去に前例があろうと、そう簡単に「見知らぬ他人が忍び込んでいました」なんて話は信じられるのだろうか。

 そんな異常な話を、八幡家の皆がわりと素直に受け入れているのもまた、引っかかる。


「ただ、綺羅さんはともかく、藍田さんは結構本気で気味悪がっていたようですけど」

「どうだかわからないわ。それに……綺羅さんはともかく、って、アナタもやっぱりそう思うんでしょ?」

「……思いますねぇ」


 やっぱり、彼女は家族中から疑われているのだなぁ、無理もないけども。

 幾ら何でも、綺羅さんの態度はおかし過ぎる。ほんの少し、恐くも感じる。

 とりあえず、関わりの少なさからしても、郁恵さんからこれ以上の情報は得ようがない気もする。あとは――。




ーーーーーーー


 あー、一つだけ余談を。


 本作品は、2013年頃にリリースした同人版『巻の二』加筆をベースにしております。

 その際に、シナリオ中に出てきた宗教団体名は基本的に実在の物を使用しておりましたが、今回「あー、べつに悪く言ってはいないけど、あけすけにカルト呼ばわりする登場人物がいるとちょっとこれは、怒られるかも知れん」と今更のように気が付きましたので(今更!)『□□教』と伏せ字にいたしました。

 といいますか、私は基本的に伏せ字や変名をあまり使いたくありませんので(何でかっていうと、スティーヴン・キング信者ですので!)、これには若干の忸怩たる思いがあります。

 とはいえ、今毎日新宿のスクエニ付近に通っていて、その某宗教さんの施設の前を通る度に(ってこれもう何教が言ってるようなもんですね!アッハッハ!)「あー。そういや今現在に普通に存在する宗教団体さんなんだよなー」と気が付きましたので(笑)やっぱちょっとでもイヤな顔されそうな事は伏せた方が良いかなぁ、と。


 こんな配慮ができるくらいに、野放図なわたしもちょっとだけオトナになったね!



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