表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖学少女探偵舎 ~Web Novel Edition~  作者: 永河 光
第三部・名探偵、参上! MURDER BY DEATH
269/272

第二十六話『リアル/アンリアル』(後編・その3)


 店内にザワザワと人が増えてきた。

 お昼時のせいか、近所中からサラリーマンやOLさん、商店街も近いから店員さん、近隣に学校が密集しているせいか学生も結構な数、集まってきた。ミシェールじゃ見ないような短いスカートの女の子もわんさかいる。


「どーなってんだ、女子まみれだよここ、一膳めし屋だっつーのになぁ」

「いや、私らがいってどうするよ」


 ジャンスカっぽいワンピースは中学だろうか。お盆にてんこ盛りにフライや卵とじを並べて、皿に主食を注文している。


「えーと、私中めしとラーメン」

「うどんとカレー」


 おい、何その食欲!


「いい頃合だ。来い」


 知弥子さんはポンっとヘルメットを私に手渡す。


「えっ、あの。どこに?」

「昼休憩の今なら忍び込み易い」


 忍び込むて、あーた。


 知弥子さんは長い髪を輪ゴムで束ね、ぐるりと巻いてバレットで後頭部に留め、ゴーグルをかける。

 私はメガネを外してヘルメットを被り、シールドをあげてメガネを差し込んだ。近眼はこーゆー時に不便だ。



「後ろに乗れ」

「え? あの、知弥子さんヘルメッ……」

「予備をいちいち持ち歩かん」


 いや、あのノーヘル! それ違反!

 ダメだ、正義感はあっても法律守ろうって気はこの人いっさいないわ!


「あ、ちょっと待ってって!」


 後ろからミキがよたよたと近付いて来る。


「そこで待ってろ。近場だしすぐ終わる。ここから先は探偵舎の仕事だ」

「えーっ?」


 ドルンっとエンジン音。瞬時、爆発的なスピードでバイクが発進した。


 うわ──っ!


 な、何これっ!?

 昼休みでゴった返してるんだよ?

 人、轢くって! やべ、めし屋のすぐ隣に交番じゃん!

 考えているヒマなんてないくらいの超スピードで知弥子さんのドゥカティは突進する。 ダッシュで直進、そしてすぐにギュンっとカーブを曲がる。生きた心地がしない。

 いや、あのね、道狭いし!

 歩行者多いし!

 なんか車溜まって渋滞してるし!

 お昼時の混雑もなんのその、僅かな車と車の隙間をぬうように……いや、切り裂くように、凄まじい速度で進む。し、死ぬっ!


 キキキィっとブレーキ音。


 ……とまった。はやっ。

 時間にして一分も経ってないんじゃないか。

 っていうか、こんな近い距離なら徒歩でいいじゃん!!


「逃げる時便利だろう」


 逃げるて、あーた。


 白い布で覆われた小さなビルの前にバイクを止め、知弥子さんは見上げる。


「ここがどこかわかるか」

「……さあ?」


 裏手には、芙嵜小学校があるのはわかる。

 何も事件のせいだけってわけじゃないけど、芙嵜小学校は解体し、一年前ぐらいから建物の九割近くが市民プラザや立体駐車場みたいな施設になった巨大ビルになっている。現在、その巨大ビル内の一角が小学校として機能しているらしい。

 そして、そのでかいビル裏手の片隅側にポツンと佇む、この廃ビル。


「ここが、殺人鬼の終焉の場所だ」

「ここで銃撃戦? こんなボロそうな、ちっさいビルで?」

「色々面倒事があって、三年間封鎖されたまま放置、最近になってようやく取り壊しが決まった。場所がこんな密集地だから鉄球や発破でダイナミックに壊せないらしい」


 いや知弥子さん、鉄球はともかく発破解体は国内の街中じゃ無理だから……。

 でもまあ確かに、周囲はやたら入り組んで、年代モノの雑居ビルやアパートが乱立しているのはわかる。静的破砕剤や放水と鉄球でちまちま崩すにしても数ヶ月はかかるし、それだけの人月予算を確保しなきゃ動くも動けない、って感じか。


「……まあ法的には無理として、最近の発破技術なら密集地で破片飛び散らさず一撃でイケそうなんですけどね。いや、あーゆー特殊なのって更に金かかんのかな?」

「今は作業員も出払っている。守衛も表側に一人のみ、チャンスは今だけだ」

「いや、あのですね、その……」


 立派な不法侵入じゃないの!

 裏側から近づき、平然と幕をめくって中に入る。薄暗いコンクリ、煤塵、カビの匂い、油、あちこちの壁に解体準備のための穴が開けられている。

 不気味で、どうにもイヤな気分になる。まあ、こんな事でおびえるほど神経細くもカワイくもないけどさ。


白い幕越しに、真昼の光が鈍く四方八方を照らす。

 光は影を作る。

 この解体途中のビルは、元はアパートだったのだろう。

 窓ガラスも窓枠も換気孔も全て取っ払われ、虚ろな穴だけが壁に並ぶ。


 玄関扉もない。畳や襖すら見えない。壁のそこら中にドリルで穴が開けられている。

 足元には、コナゴナのコンクリ片や砂がびっちり床を覆い、歩くだけでジャリジャリ鳴る。

 異様な光景で、異様な状況だ。


 わけもわからぬまま、知弥子さんの先導で階段を一歩一歩昇る。

 エレベーターのあった場所には、ただ四角い穴がポッカリ空いているだけだ。


「頼んだモノは持って来てるな」

「え?」


 ここで?


「ちょ……ええっと。ここで殺人鬼、特殊部隊の、確かSATか。それと一戦交えて、何人か殺してるんでしたっけ? そりゃあまあ、()()と思うけど」

「それじゃない。ここにSATが乗り込んだって事は、ここに潜伏してたわけだ、殺人鬼は」


 ここで人をバラバラにしてたとか?

 ちょっとヤな話だ。

 まあ、白骨の破片が出て来ても、それで悲鳴をあげるような私じゃないけどね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ