表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖学少女探偵舎 ~Web Novel Edition~  作者: 永河 光
第三部・名探偵、参上! MURDER BY DEATH
261/272

第二十六話『リアル/アンリアル』(前編・その1)

・前回からきっちり一年空いちゃったので、さすがにまずいのでアリバイ作り的に更新しますよ!


挿絵(By みてみん)


第二十六話

『リアル/アンリアル』


初稿:2005.12.15




「んじゃ房子さん、外出許可書にハンコお願い。昼と夕飯はあっちで食ってくと思うから」

「なーにいってんだよ。夕飯までにはちゃんと帰ってきな。門限、六時だかんね」

「了解ー」


 バタバタと制服を脱いで、ちょっ(ぱや)でジーパンとセーターに着替えた後、頼まれた物をいくつかカバンに詰め込み、コートを引っ掛けて玄関まで急ぐ。


「なんだカレン、どっか行くの?」


 おおよそお嬢様らしくない風貌と趣味と人間性の(いや、私も人の事ぁ言えないけどさ!)丸顔のルームメイトのミキが、めざとく察知して来やがった。


「ちとH市内の方にねー」


 学期末行事の準備で、授業も今日は二限で終了した。今から出発すれば昼前には着くはずだ。

 H市内までは、電車とバスとで片道、およそ一時間と少々。ちょいと外出っていうには気合のいる距離だし、何か用でもなきゃ、いちいちそんな所まで出る機会もない。


「あー待って待って。行くんならさー、私も一緒にいくわ。房子さん私ンのも外出許可お願い。ホイっ」


 寮母の房子さんにぞんざいに外出許可書を投げ渡して、ミキがぴったりホーミングして来る。


「おめーまで何しに行くんだよ。理由ねーだろこのやろー」


 文句をいいつつ、きっちり判押しちゃうんだから房子さんもミキには甘いわ。

 ……つーか!


「いや、あのさ。なんでミキまでついて来んだよ。いいよ来なくって!」

「カタい事ゆーなってばよ。イイじゃんよたまにはさー。私だって買いたいパーツとかあんだし、一人で街まで出るのって寂しいんだしさぁ。行き帰り電車ン中ずーっと一人ってのもさぁ」

「こっちは用事あるっていってんだから! そりゃ、勝手に来るのは構わないけど」

「おっけーおっけー。んじゃ行くか!」


 そのまま、とくに何の支度をするでもなく、そのままひょこひょことミキは私の後ろについてくる。


「って、何ソレ、制服のままで来んの!?」

「学生が学生服着て歩いて何が悪い。あ、サイフくらいはとってくるわ」


 いや、おめーの制服の着こなし尋常じゃねーって!

 押し問答をしてる時間が惜しい。次の電車に遅れたら到着が午後になってしまう。さっさと寮の玄関を出て、校門へ小走りに進む。


「待って、待ってってばー!」


 ディバッグを背負ったミキを引きつれながら、そのままバスに乗って駅へ、駅から電車に乗ってH市へ──。




        ☆



 よくも巴はこんな事を毎日行き帰り繰り返せるものだなぁ、と感心しながら、H県の県庁所在地であるH駅に降りた。

 幾ら何でも往復二時間は、かなりダルい。乗り物酔いこそなくても、車両好きでも、しんどい物はやっぱしんどい。

 ここから中心部へは更に十数分かかる。H市ってのは面白いことに、JRの駅を中心には発展していないのだ。


 自動にする意味あるの? ってくらい人もまばらな自動改札を抜け、バス停ならぬ()()へ小走りに。

 緑色の新型路面電車に乗り込む。


 私が日本に来て――つまりミシェールに入学してからのこの二年間、実のところ数えるほどしかこの街には来ていない。

 今時、少々手に入り難い物だってネット通販でどうにかなるためで、都市部にわざわざ出る必要がなかったから。


「なんつーか、すごいねこの静穏。動力系は何使ってんだろう」

「静穏は弾性車輪だからだよ。ドイツ製だっけ」


 電車の細部や制御板をミキと一緒にあーでもない、こーでもないと指さして覗き込んでいるうちに(女子のやる事じゃないわな)、もう目的地に着いた。


 ビルに囲まれた、普通の数倍の幅の道路に、車も電車も人も通っているのがH市内の特徴で、電停へ降り、大きな車道の真ん中で信号が青になるのを待つ。


「で、カレンが今日ここに来たのって、探偵部の何かなの?」


 まー目的を一切口にしてないんだから、そー考えておかしくないか。


「んー……」

「ミッションは口外法度(はっと)って事か」

「いや、まだわかんない。先輩に呼び出されてね」

「先輩って、カレンとこの部長って寮生じゃん? もう一人の金髪だってさぁ」

「うん。っていうか……あ、青」


 電子音と共に信号が変わる。前後から大量の歩行者がわらわらと歩み出す。田舎のミシェール近辺じゃ見られない光景だ。中心地から少し離れたJRの駅よりも、街中の路面電車停留所の方が利用者が多いって点も、ここH市の特徴の一つ。


「うっはぁ!」


 マヌケな声をミキが漏らした。

 いや、わかるけど。


「先輩って、アレか! まじか!」

「まじ。っていうか……すっげえな、あの人は」


 横断歩道の先に、黒い影が仁王立ちしている。


 全身真っ黒の革ツナギ、小脇には黒いヘルメット。

 ボディラインが思いっきり強調されている服装だけに、プロポーションの良さが遠目にもわかる。

 対岸の歩行者の視線を一点集中に浴びながら、無表情のまま微動だにしない。


挿絵(By みてみん)


「いや、目立つ。目立ちすぎるって、あの人! 何それ!」

「こっちが訊きたいって! つーか現実離れも程があるな、あの先輩様は」


 ただでさえ美人なのに、こーゆー女スパイみたいな格好で平気で歩き回れるんだもんなぁ。何この人。


「ミーティングをする。来い」


 挨拶も一切ナシに、いきなり知弥子さんは切り出した。

 ていうか、この人やっぱ今日、学校サボってたんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ