第二十四話『a girl smiles wryly』(後編・その5)
EXTRA EPISODE 24
「は~い、ラピスちゃんだにょ~ん」
あっけらかんとした声で、少女はリングに指を通したスマホをくるりと一回転。
「えー? あーはいはいはい、だいじょーぅV! ゼンゼンへーき、もんだいなーし! うん、わかった、じゃっね~」
スッと指をスライドさせて通話を切り、大き目のカーラーで巻いたぐるりとした茶色い髪をかきあげ、幼げな顔の少女は微笑んだ。
わが目を疑いたくなるほどの少女趣味のエプロンドレスに、ハイサイニーのソックスにはフリル。
ピンクのグリスにオレンジ系のメイクが無駄に派手でも、その顔はどうしようもないほど幼く、可愛らしい。
背中にはピンク色のクマのディバッグ、そこからテニスラケットのような柄が突き出ている。
「ん、何そのラピスって。なんで君、そんなニックネームなの?」
「ん~意味ないっしゅ。名前が決まってると面倒だから、定期的に変えようってゴールドちゃんがね。ああゴールドちゃんってのはまあ、アタシたちのさぁ、リーダーっていうよりまとめ役……? いやまとめてないなァ、幹事?ってほど仕切ってもいないなァ、何だろ、トキワ荘でのテラさん? いやそこまで慕われてもいないなァ。チューダー飲んだことないなァ。んーとね、この前まではヒドかったんだよぅ~? みんなでさ、ワザと『ダサい名前にしようぜ』って。その時は私『ずんだ餅』だったんだよ名前! ヤだよ、ずんだ餅! その点ラピスってなーんかカッワイィ~じゃーん?」
「宝石だしね。瑠璃、だよね」
「えっ、そーなんだー? しんなーい。んでね、その時はゴールドちゃんは『ねん土』で、ルビーちゃんは『へら鮒』だったのね。あと黒曜さんと蝋石さんは……あ、ごっめーんワカンナイよねえ、アタシのおともだちの名前ぽんぽん出しちゃってもー」
「……へんな名前なんだね、みんな」
「だから、名前に意味ないってー」
んっ、と何かを考える素振りを少女はした。
「名前に意味ないっていっても、意味は名前に込められてて、名前に沿って人はその性質を決めるものだ、ってそーいやゴールドちゃんゆってたなァ。私がね、ばーっとクジ引きみたいにいっこ掴んだフダで、ラピス・ラズリを選んだ時、フクザツな顔してたのね、そーいや」
「ん……ラピスっていう名前、前に騒がれた事あったな。いやあれが本当に名前かどうかわからないし、意味不明な暗号だっつって、マスコミもちょっと騒いだけど」
「そそそ、あのヒトゴロシの人よね~? んでね、私がね、『じゃーこのラピスってので良い!』ってゆったら、鼻で笑いながらいうんだよ、ゴールドちゃん。『お前がそれを選ぶのは出来すぎだ』って。ンーもぉ、バカにしてるぅ~。んとね、瑠美ちゃんもね『瑠美だから瑠璃にしたいんだけど』って奪い合いになったんだけどね、あっ、ラピスが瑠璃だってあたし知ってたじゃん! まあ音が名前に似てるからじゃールビーでいいや! ってアハハハハ。あっいっけない! 本名ひみつだった!」
「ああ、うん。いやわかんないし」
「あーっ、ごめーん。ちょっと喋りすぎちゃったかナ? うん。わかんないよねやっぱしね」
「そりゃまあ、ね」
「わかんなくてもね、まあ、知っちゃったからにはね、いやまあ知らなくたって同じコトだけど、消えてもらいま~す!」
「消える?」
「そそそ。こーやって。えいっ」
ヒュンっと、少女は背中のディバックから手斧を引き抜いた。
パーティーに出席している馬渕からの連絡を待って、その男はそこに座っていたが、彼に話しかけてきたその少女が、満面の可愛らしい笑顔で振り下ろした手斧が、まさか自分の生涯で最後に見た光景になるとは思わなかった。
鼻歌まじりで、手馴れた手つきで幾つかの片付け事の後に、少女はその血まみれになったホテルの一室から出て行った。
To Be Continued




