第二十四話『a girl smiles wryly』(前編・その3)
……う~ん。それでも、普通の中学生の小娘が、何かを『推理』だなんて、いくら実力者の娘だからといってそうそう大人が聞きはしないだろうし、『探偵舎』の存在を視野に入れての犯行ってのも考えられるのは確かかなぁ。
私にはよくわかんないけど、香織のお婆ちゃんって、まだ女学生の頃から有名な「名探偵」だったみたいだし……。私には優しかったり厳しかったりの、元気なお婆ちゃんって印象しかない人だけど……。
一応、巴ちゃんの元同級生?って子へ送られた招待状で、瑠美って子が潜入したのはわかっているし、その招待状には幹事役の名前だって載ってあるのだから、赫田さんの名前を利用し易かったと考えて良いわけで、『ちさとちゃんをターゲットに』って考えも早急かもしれないけど。
その巴ちゃんの元同級生の父親がわりの叔父さん(ってややこしいいい回しになるなァ)は、会場に居て、その人の話によると、その元同級生の子は『行く気ナーシ』といってそのまま招待状をゴミ箱に捨てちゃったらしい。
となると、ゴミ箱でもあさって招待状を入手……?
事前に誰に招待状を出したかを把握した上で、その送り先の家のゴミを見張って、あるのかないのか分からない招待状を探すなんて話は、計画的犯行にしてはあまりに無茶すぎる。ていうか、無理。
じゃあ、たまたま偶然、ゴミの中から拾った招待状を手に入れた何者かが、このセッティングを思いついた……?
それもヘンだ。そんなまどろっこしい話より、もっとそこはアッサリ説明つくんじゃないかなぁ?
それと……
「もう一つ気になったのが、その、女学生殺人の実行犯の人って『死んでる』わけよね?」
そう、ここ。すごい引っかかる。引っかかるっていうか、こわい。
「殺されていたそうよ、パーティーの日に。ヤクザ同士の抗争だろうって見なされているけど、頭を斧でカチ割られて死んでたんですって。どういったワケだか、手元に馬渕さんのアドレスを持って死んでいたから、事情聴取に会場まで警察が来て、同時に別件だけど任意同行されて行ったわ」
ん~……。さすがに、話が出来すぎだ。
「巴も、はるかさんと同じ事を気にしてたわ。『何故、実行犯のチンピラが殺されていたか?』の点ね。暴力で生活している人が暴力で命を落とすのは、そう珍しい話じゃないのかも知れませんけど、ただタイミング的に偶然が過ぎますわよね」
ここで双子が手を挙げる。
「あの……その事件の事はまあ、理解しました。そろそろ部長の『本題』を聞かせてくれませんか?」
本題?
「……そうね。先日の事件は、絵画泥棒の……いや泥棒じゃないけど、まあその犯人が『謎』って点にさえ目を瞑れば、馬渕さんの犯罪を暴く『仕掛け』として、私たちも謎のグループの手駒にされていたって話だけど、そこはまあ置いておきましょう。ヤツラの事は後々に追うわ。今、問題としなければならないのは、巴のコトなのよ!」
「だから、何故、巴ちゃんが?」
「その、招待されていた巴の同級生……その子の名前を見てから、巴は急に蒼ざめて。何か過去にあったのか、何かされたのか、色々問い詰めてはみたのですけど、そういう話じゃないって。むしろ、仲の良い友達だったらしいけど」
う~ん。
「その子が、その謎のグループと関わっているって考えれば話は早いわね」
私が一言ぽそっとつぶやくと、双子姉妹とちさとちゃんはキョトンとした目で私を見つめた。
「あああああそうか! そうよねそれしかないじゃないやっぱり!」
だよねー。
「でも、叔父さんって人に普通に話は聞けたんですよね?」
「外薗院長さんね。あの人の喋り方や感じからすると、ウソはいってないと思うわ。彼が姪の事をどこまで把握してるかは疑問だけど。一度その、外薗ソヨカさん……だったかしら。その子に会って聞いてみる必要があるわね」
「……う~ん」
そうはいったけど、確信もないうちに誰かを疑うのもあまり良い気はしない。
もちろん、それが探偵の仕事なんだろうけど、あいにく私は探偵ではないし。
「つまり、その元同級生の友達が、その窃盗団に関わっている事にピンと来て、それを暴きたくないから推理をしたくない……って話でしょうか?」
小首をかしげる双子のどっちかちゃんに、ちさとちゃんは首を振る。
「そうじゃないの。……ええっと、どういったらいいのかなァ」
「それより、話を戻すけど、そこにどう香織が絡むわけ?」
少しじれったくなって私が口を挟んだ。
「そう、そこなのよ」
はぁーっとため息を吐いて、そしてちさとちゃんは深刻な顔をする。
「今から三年前にこのH県内でおきた事件、憶えていますわよね? 中年男性ばかりを狙うシリアルキラー、毎月一人づつ惨殺される、それはそれは恐ろしい事件でしたわ」
「あ……うん、ああ、そうか」
思い出した。あの事件、当時まだ中学生だった香織が追ってたんだ。
「でも、その事件が、何か?」
「巴さんも、あの事件には関わっていたみたい」
「「「えええっ!? 」」」
今度は私と双子と、三人で合唱になった。
「ちょ、ちょっと待って。その事件に、一体……?」
「聞きたいのはこっちの方ですわよ! でもね、巴さんがいうには……その事件は、終わって、解決してしまった物らしいのよ、既に」
確か、あの犯人は何故か最後は人質を取って立てこもり、警官隊に囲まれて、用意した爆破物で粉みじんに吹き飛んで自害したって聞いている。その時に、何人もの警官も死んだらしい。
そのせいもあってか、被害者の正確な数はいまだに掴めていない。
結局、正体不明。動機も不明。何人殺したのかも不明。
毎月一人を二~三年間は殺し続けていたらしく、派手に引き裂かれた死体が目立つように置かれているケースもあれば、事件後だいぶ経って、誰も気付かなかったような場所でひっそりミイラ化した死体が発見されたりとか、いまだ未発見の死体もあるんじゃないかって噂も流れている。
いずれにせよ、あまりにも私の日常からかけ離れすぎた話題で、都市伝説か何かのようにピンと来ないんだけど。
「解決は、本当の意味じゃされてないとは思うけど……その終わってしまった事件が、どうして?」
「その二年後……つまり、一年前ね。正確には一年半は前になるのかしら。その殺人鬼の『模倣犯』が出現した事件があったの」
ああ、憶えてる。
稀代の大犯罪者の事件から二年経って、似たような『惨殺死体』が発見されて、あの時はかなりマスコミも騒いだかな。
香織は……不思議と無関心だった。
当時は高等部の新入生の知弥子に色々振り回されてて、それどころじゃなかったのもあったし、その『模倣犯』は事件発生から一週間しないうちに特定されて、自供を残して自殺しちゃったし。
探偵の出る幕でもないお粗末な事件だったかな。
結局、模倣犯は一人を惨殺し、もう一人を殺し、最後に服毒自殺して、全ての犯行の過程を録画したビデオテープと証言の手紙を残し、謎だらけの『元祖・殺人鬼』とは正反対に、何もかもを白日の下に晒してこの世から消え去った。




