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聖学少女探偵舎 ~Web Novel Edition~  作者: 永河 光
第三部・名探偵、参上! MURDER BY DEATH
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第二十一話『トラブルレター』(前編・その2)


「ラブレターって、いや、ええっと、それはどうなんだろう、どうなのかしら?」


 大子先輩、そうとう焦っているのが見て取れる。自分ごとでもないというのに……いや半分自分ごとみたいなものなのか、この場合。


「う~ん……困るっていえば困る話ですよねえ、こんなもの『見てしまった』事実じたいに」

「そ、そ、そうなのよ。まして、福子さんが風邪で休んでいるのに、勝手に……」

「あ、それで福子さんになりすませて?」


 やっぱりそうだったか。バツの悪そうな顔をしながら、大子さんはうなづいた。


「……福子さん、昨日は私のせいで風邪をひいてしまったの。だから……悪いと思って、今日は福子さんになりすまして、授業を受けていたの。風邪をひいて寝てるのは大子の方だって報告して」


 そんな責任の取り方も、チョットどうなんだろうか。

 自分の皆勤をチャラにしてまで、福子さんに対する責任を取ろうとしたのか。

 改めて、この姉妹の妙なところでの真面目さに驚いた。


「……ゴメンね、巴ちゃん」


 急に謝られてびっくりした。


「えっ? いや、それは別に私に謝らないでも……」

「だって、もうこんなことはしないって、巴ちゃんの前で誓ったのに」

「時と場合によると思いますよ。大子さんはよかれと思ってやったことだし」

「……でも、福子さんはこのことを知らないまま家にいるのよね。福子さんだったら間違いなく、こんなのは余計なことだって思うわ」

「わかった上でやってるんですか」

「だって、同じ性格だもん」


 クスっと、大子さんは苦笑を漏らす。


 この二人は、全く同じ性格と外見の双子。

 普通、一卵性の双子でも、兄弟姉妹の関係が出来た時点で「役割」が決まる。

 どちらかが威張ったり、遠慮したり。ちょっとでも個性を出すために、興味の対象を変えたり。

 そうした積み重ねで、成長とともに癖や姿勢、髪型や肌の焼き方でも差がでてくるもので、TVで時々見かける双子タレントなんかは大抵、じっと観察するまでもなく区別法が発見できる。

 でも、宝堂姉妹は違う。

 お互いがお互いを模範として生きてきたせいで、どちらも鏡で見たかのようにソックリ同じになっている。趣味や性格すらも同じなのだから。

 正直、私はいまだに二人の区別はついていない。

 個々の人格として大子さん、福子さんを見分けることが全く出来ていないのだ。

 私は、そのことを少し恥ずかしく思っているし、後ろめたくも思っていた。


「で、その福子さんに、どんな手紙が?」


 大子さんは困った顔のまま考え込んでいる。


「見せてもらわないと何もいいようがないです。福子さんに怒られたら、私からも謝りますから――」

「最初っから謝るつもりで、間違ってるってわかっていることをワザとするのは、私は感心しないわ。……巴ちゃんに偉そうなことをいえる立場じゃないけど」


 他ならぬ自分自身が、そんな行動をしてるから……といった、後悔の表情を少し浮かべている。


「でも、そうでもしないと話が進みません。大子さんが正直で良心的で、間違ったことなんて絶対出来ない人だってことは私が保証します。でも、私は……べつに正直でも真面目でもありませんし」


 アッサリそう口にする私にとまどいながら、渋々と大子さんは封筒を手渡した。

 意見は聞きたい、でも、福子さんのプライバシーは守りたい、さあ一体どうしよう?

 ……と、さんざん迷っての判断だろう。

 平気で盗聴器を仕掛けるような先輩すらいるのに、なんとも天使のような心がけじゃあないか。

 ……私はやっぱり、系でいうならカレンさんや知弥子さん側の、バチ当たり者……っていうか、横紙破りの狼藉者の方なのだろう。


「差出人の名前、どこにも書いてないですよね?」

「……うん。そこも、気になる所なの」


 全く知らない相手だとしたら、少し薄気味悪いかも。


「あ、良いこと思いつきましたよ。ホラ、もう探偵舎じゃないですか」


 喋りながらの行き道、私たちの足は自然と部室へ向いていた。

 右手首の細い金時計をチャリっと見やりながら、大子さんは首をかしげた。


「部室が、どうかしたの?」

「カレンさんなら、科学捜査で誰が差出人かつきとめられるんじゃないでしょうか?」


 そうと決まれば話は早い。放課後だからもう部室にいるはず。

 今にも扉を叩こうとする私を、大子さんは慌てて止めた。


「ま、待ってって、巴ちゃん!」

「どうしたんですか?」


 カレンさんは、学校の生徒、教職員全員の指紋を(勝手に)データベース化している。つまり、この手紙の主が誰かも一発で照合できる。相手が手袋をはめて手紙を書いているならまだしもだけど、そこまで行ったらさすがに話が異常すぎるし。


「……あのね、幾ら何でもカレンが、生徒の指紋や個人情報を勝手に集めてるの、私はプライバシーの侵害だと思うわ」

「まあ、それはそうですけど」


 やっぱり、まだその飛び道具を使うのは早急か。


「そんなことするまでもなく、差出人が誰かを特定できれば問題ないですけど」


 何故、名前が無いのか?

 知ってる相手なら、名前も書き忘れるほどのウッカリ者ってことかも知れないけど。

 とりあえず、中の本文に目を通す。


『明日いつもの所でお待ちしてます』


 手紙の文面は、たったの一行。

 これだけ。


「これだけ?」

「これだけ」

「……う~ん」


 やっぱり、これだと「知らない相手」ってわけじゃ無いよねぇ?




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