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聖学少女探偵舎 ~Web Novel Edition~  作者: 永河 光
第三部・名探偵、参上! MURDER BY DEATH
182/272

第十九話『在りえない、知りえない』(前編・その1)

第十九話『在りえない、知りえない』


        (初稿:2005.05.17)




 ありえない。

 年配の人は「最近の若者は『ありえない』と『ぶっちゃけ』をすぐ口にする」というけれど――とはいえ、その「()()」は軽く十年以上「最近」なんだけど――

 起こるはずもないことが起きたり、そうあるべきことがそうならなかったりすれば、やっぱり「ありえない」というフレーズは、つい、口から飛び出してしまうものだと思う。

 私の通うミシェール女学園では、いわゆるギャル言葉……? といった喋り方をする生徒は、全くといって良いほどいないし、耳にもしない。

 異空間というか、昭和の空気のままというか、大正時代辺りまでタイムスリップしても、たぶん今と何も変わらないんじゃないか、って感じの不思議な学校だけど。

 それでも、「ありえない」はよく耳にするし、ついつい私も使ってしまう。


 ありえない。

 ありえない。

 ありえない。

 It cannot be!!


 今日はその言葉を、口にこそ出さなくとも頭の中で、軽く五万回は復唱している気分。五万はさすがにサバ読み過ぎって気もしないでもないけど、そう、気分。気分の問題。

 もう、その言葉以外に何も考えられない。


 ――ありえない。


 震える足で、薄暗い廊下をゆっくりと進む。両脇には、婦警さんがぴったり寄り添うように私をはさんでいる。この段階でもう、「緊張するな」といわれようとも(いわれてないけど)無理というもの。いやもう、無理。色々。何もかも。

 本来消音効果のあるはずの、厚みのあるビニールシートを貼った廊下から、意外なほどに自分の足音が耳に響く。

 進む先の、重いスチール扉をあける。

 蛍光灯の明かりがチラつく中、否が応もなく、心臓がばくばく高鳴る。緊張する……。

 その奥には──。


「よ」


 見慣れた顔が、軽く片手を挙げる。


「……なっ、何がっ『よ』なんですかァっ!!」


 思わず、声を張り上げた。

 何かんがえてんのよ、この人っ!!


「何って、そりゃ、挨拶」

「……だぁからぁ!!」

「私が巴を呼び出して、そして、こうしてちゃんと来たわけだ。べつにおかしくはないし、挨拶ぐらい普通する」


 いや、その挨拶ぜんぜん普通じゃないし。そもそも、おかしいことだらけだし!

 無表情なまま、知弥子先輩は淡々と、まるで他人事のように喋っている。

 信じられない。

 どんな神経してんのよこの人っ!?


「そっ……そりゃあ、来るしかないじゃないですかぁ!」


 自分でも信じられないぐらいの大声で叫んだ。

 そんなつもりじゃなかったのに。

 ついさっきまで、私は動転してて、頭の中なんかグルグルで、何が何だか右も左もよくわからないこんな場所でこんな状況で、おっかなびっくりで、萎縮しちゃって、どうして良いのか、何をいって良いのかも、まるでわからなかったのに──。

 この、平然とした態度の知弥子さんを見た瞬間に、何もかも吹っ飛んでしまった。

 吹っ飛ぶどころか、なんちゅーか、その……。

 アタマ来た。

 むかむかむかっ! と。


「怒鳴るな。ここ、警察」

「……わかってるじゃないですか」


 そう。

 警察。

 落し物を届けたり道を聞いたり。そんな用以外に来たことがない、そして、そんな用では絶対に通してもらえない奥の部屋に。

 私が。

 何でっ!?

 っていうか、何で捕まってるのよ知弥子さんはっ!

 いや、あらましは一応、耳には入れているけれど……。

 ありえない。

 何から何までムチャクチャだ。


「一時的な(こう)(りゅう)だ。さすがに、あと何日かしないうちに回される先も決まるだろう。おそらくは観護措置か。証拠不十分だが」

「妥当で、家庭裁判所から少年鑑別所とか、その類でしょうか……? 未成年だから、教育的保護処分とか、そういった……」

「だから、私は無実だ」

「信じてますよ、そりゃ……」


 無実の罪だというならもっとこう……切迫というか、焦るか怒るか悲しむか、感情をあらわにして欲しいところだけど……いつも通りの無表情。この人にそんなのを期待するだけ無理か。


「ウソこけ。証拠が不十分という時点で推理も不十分、巴がわたしを信じるに値する確証とて、ない」

「……それもそうですけど、前提として、まず犯行の理由がないじゃないですか」


 いや、無実といった端から何いってんですか?


「理由の有無など現時点で判りはしないだろう。なくたって、私の指紋しか出ていないはず。状況から見るに、体温もまだ被害者に残っていた。蓋然的に考察するなら、私が刺したと考える方が、むしろ妥当とも考え得る」

「だ、妥当なワケはないでしょう!?」

「さわぐな。場所を(わきま)えろ。それは、巴は私がどんな人間かを知っているからだ」

「……すみません」

「先輩後輩、そういったパーソナル情報を加味した上の目贔屓(びいき)ともいえる」


 ……どうしたものだろうか。

 また、知弥子先輩の屁理屈が、一々理にかなってるから始末に悪い。


 現在、知弥子さんは見ての通り警察に捕まっている。

 それも、よりにもよって「()()」の容疑で。

 ありえない。

 勿論、そう断言できるほど、私は知弥子さんのことは知らないけれど……どう考えたって、彼女が殺人を犯すような人とは思えない。

 捕まるとするなら、故意にせようっかりにせよ、暴行傷害とか、そんな粗暴犯でだと思う。その上での過失致死ならまだ、わからなくもないんだけど……。

 いや、それはそれでダメだけど!


 二週間ほど前に、H市内で殺人事件があったことは、私も新聞で読んで知っていた。

 歓楽街の裏手、ひと気のない駐車場で、男の人が刺し殺されたらしい。

 その記事には、それ以上の詳しい情報は何もなく、そしてその日を境に、知弥子さんはプッツリと学校に姿を現さなくなった。当然、部活にも顔を出さないし、「知弥子さんのことだからそれは別に珍しくもない」と、ちさと部長たちは平気な顔でいたけれど――。

 先生がたも何もいわないし、香織さんは何か知っているような面持ちだったけど、何も話さなかった。


 後に、私の聞いた事件のあらましはというと――。








わりと本当にどうでもいい余談ですけども、


冒頭部「ぶっちゃけ」「ありえない」っていうと言うまでもなくプリキュアですけども、

あれももう20近く前なのだなぁと思うとしみじみビックリですね!

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