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聖学少女探偵舎 ~Web Novel Edition~  作者: 永河 光
第二部・幾星霜、流る涯 Once Upon A Long Ago
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第十五話『Moppet's Detective』(後編・その7)


「そうすると、粉雪って……降ってたのはせいぜい六時前でしょう? 放射冷却で凍結したのは、せめて六時四十五分だから……」

「確か六時半くらい迄は、雪が降ってませんよね。この時間に登校した子が作った、と考えて問題ないでしょう」


 時間タイミング的に、他の選択肢がない。


「たぶん一通り雪玉を作るかして遊んだ後に、その子はどこか別の場所へ移動して。滝元先生が物置に入ったのも、そのタイミングでしょうね。その後、何故、小屋の中に隠れていたかまでは、さすがにわからないけど……」


 雪玉の子――もしくは、新たに登校して来た違う子でも良い。雪玉は、雪合戦は一人じゃできないから友達と待ち合わせていたとしても、おかしくない。

 その子は、開け放たれた物置に気がついた。足跡から「中に誰か入ったままで、どこにも出ていない」とまでは気付いていなかった。

 そもそも、裏側まで見て回ったわけでもないだろうし、声かけとかしても何も反応がなかったなら、気付かずに鍵をかけておかしくはない。


「そして、その子がいなくなったのを見計らってから、小屋から出ようと思ったら……」

「カギがかかってた、ってワケか。でも、それだけだったら別に……」


 んん~、とソヨカさんも小首をかしげる。そう、この小屋なら、扉からしか出入りができないわけでもないのだから。


「だからもし、窓でも開けて出るつもりが、開かなかったとしたなら……」

「……なんで?」

「わーった!」


 茄子菜はパチンと指を鳴らす。

 私と同時に、口を開いた。


「「凍結」」

「あー」


 そこで、暖めようとしてストーブに火を入れた──おそらくはそんな所だろう。


 液体と違って、気化や漏洩で引火の危険もそうそう無い固形燃料なら、何故かたまたま使わないストーブに残っていても……いや、ちょっと変かもしれないけど、あれだけ雑然とした倉庫だもの。誰かが何かの手違いで、そのままにしていたとしても、おかしくはない。

 そもそも「()()()」からこそ、起きたのだから。偶々、奇妙で不幸な偶然だとしても、そこは疑ったって仕方がない。


「うん。流れとしては整合性がつくね、でも、常識のあるオトナの行動じゃないなぁ……」


 ここで茲子さんは少し顔をしかめた。

 確かに、ちょっと普通じゃ考えられない話だけど……。

 でも、普通じゃないことが起きたのだから、普通じゃない想定を、逆算して行かなければならない。


「早朝、そこで何をするつもりだったのか。何かを隠そうとしてたのか、何かを探そうとしてたのか、誰かと会うつもりだったのか。それは、いずれにせよ滝元先生のプライベートに関わる話ですし、わかりませんが……」

「つまり、一、二年生のイタズラが原因の一端って話かな」

「イタズラじゃないですよ、マジメな子だと思う。その子は昨年の事件のこと『知らなかった』んでしょうね。そうじゃなきゃ、あの裏庭で遊ぶわけないですし」


 この学校の児童がまず近寄らないような場所だった、って点も、考える上では重要なポイントだったと思う。


「……う~ん……そうして考えてみるとさ、むしろこれ、ダメなのって先生じゃん。何から何まで」

「とりあえず、あくまで『仮定』の話です。でも、もしそうだった場合は、これは……事故、ですよね。どう考えても」

「だね」


 ふぅ。

 一通り、収まるところに収まる答えは出せた。

 すっと、肩の荷が下りるような感覚。


 今の推理が、本当に正しいかどうかは、まだわからない。ただ、現状から組み立て得る状況を考えた場合、これでほぼ、疑問に感じた点の数々に「()()()()()」という話。不思議でも、謎でも、怪異でもなくなる。それだけでも、相当に気が楽になれる。


「なるほどねぇ。いや、さすが巴だわ! ビバ! うん、それでまず間違ぇねっぺ!」


 はやすように茄子菜が手を叩く。


「茄子菜のいってたことって、やっぱり正しいのかもね。巴さんは推理の才能があるよ」


 茲子さんも、無表情にそういった。少しテレくさい。


「いや、まだ真相とは限りませんよ……ちゃんと滝元先生本人に聞かないと。それに、その下級生の子……は、どうなるんだろう」

「探すのも詰問するのも可哀想だよね、何も悪くないんだし」

「ん。……じゃ、まあ滝元先生の意識戻ったら、やんわりとその話してクギ刺しておくかなぁ」


 クギを刺す?

 ちょ……茄子菜ったら、一体何を……? しかも大人、先生相手に?


「ンなもん、事件にするコトはあるめぇに。滝元先生に黙ってもらっとく。運ばれた病院、わかるよね?」

「たぶん叔父ンとこだと思うけど」


 ソヨカさんはケータイを取り出す。


「んじゃ、この際、先生に丸く収めてもらうかして貰わないとね。こんなの一歩間違や、フツーに懲戒免職モンだよ」

「……あの、ひょっとして、その……先生を脅すつもりなんですかぁ!?」


 さすがに目を丸くした。


「人聞きの悪い事いっちゃイカンよワッハッハ! ただまァ、CO中毒の後遺症って、歩行障害や言語障害とかより記憶障害のがポピュラーなんだよネー」

「あなたに謎を解く才能があるのと同じように、茄子菜は事件を『()()』する才能があるの。任せておいて問題はないよ」


 驚く私の横で、後ろから茲子さんがささやく。解決って。小学生の女の子に何を……。

 茲子さんはスっと教室を出てゆく。茄子菜は、ソヨカさんと一緒に立ち上がる。

 こんな奇妙な女の子たちに囲まれて、私は、そう、確かに私は……自分の能力を認められて、少し「嬉しい」気分でいた。





 ――あれから、二年。


 たぶん今の私の気分は、あの頃とはもう、まったく違う。


 謎を解くことも、誰かに必要とされることにも、もう、私は──。



『ですからね、まだ冬休み中ですけど! わかってますわよね!? 次の部活には必ず出てくださるわね? 念押しさせてもらいますわよ?』

「え? あっ、あの、部長!」


 あわてて、電話口で聞き返す。

 いけない、かなりボーっと……、


『だって、探偵舎の部活には、巴さんがゼッタイ、ゼッタイにっ! 必要なんですもの。いいわね?』


 ──チン。



            To Be Continued






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