48.雪花石の行方
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「失礼します、お姉さま」
午後二時。
ルリアは約束通り、ドワーフ工房を訪れる。
リーフは、中央のテーブル席で足をパタつかせ、こちらに笑顔で手を挙げて答えた。
「やー、来たッスね。いらっしゃいませッス。とりあえず座って欲しいッス~」
「それではお言葉に甘えて」
言われた通り、彼女の正面に腰を下ろす。
リーフは椅子から飛び降りると、戸棚からカップを取り出し、ポットからお得意の紅茶をなみなみと注いだ。
「そろそろ来ると思って準備しておいたッス。どーぞ飲むッス! 」
「そんな、わざわざ有難うございます」
「とんでもないッス~」
ルリアは淹れてくれた紅茶を喉に流し込み、ふうっ……と一息ついた。
「とても美味しいですね。是非、ラファエルにもこの紅茶を飲ませてあげたかったのですが」
「別に遊びに来てくれても構わないッスよ? 」
「出来るなら連れてきたかったのですが……」
彼は鍛錬の所為でダウンしてしまったことを伝えると、リーフは笑いながら返事した。
「……あははっ、それは残念ッスねえ。だけど順調に鍛錬しているようで凄いことッスよ~」
「ええ、肉体鍛錬ほど厳しいものはありませんからね」
「そこまで本気で打ち込めるなら、きっと強くなるッス」
「辛い努力は、結果が遠いと分かっていて続けられるのなら、それは才能に等しいです」
人は、辛い努力に対して、結果が遠いものと分かってしまうと続けることは不可能に近いのだ。
もしも続けられることが出来たのなら、それは努力を越えて"才能"と呼ぶのかもしれない。
「うんにゃー、ラファエルが強くなるのはリーフも楽しみッスよ。さて、本題に入るッスか」
リーフは後ろを指差して、棚のガラス戸に仕舞われた雪花石・アラバスターを見るように言った。
洞窟で見た時も美しい白き宝石は、地上に姿を現してなお輝いている。
「確かアラバスターでしたか。この宝石を、どのようにお使いになるのでしょう」
「売るか、武器に使うか考えて、純度や魔力濃度とか色々と調べてみたッス」
「その結果は……」
ごくり、とルリアは唾を呑んだ。
して、その答えは―――。
「にゃはは、決められないし、分からなかったッス! 」
腕を後頭部に組んで、笑いながら言った。
ルリアは"ずこっ"と椅子から転げ落ちたのだった。
「分からなかったんですか! 」
「正直にいえば決め兼ねたッス」
どうやら今回採掘した雪花石は相当に純度が高い最高級品だった、とリーフは言った。
売る場合は高値がつくし、鍛造する場合も最高の一品が出来るらしい。
「お金が欲しいか、武器が欲しいか、どちらも最良の選択になるから、ルリアと一緒に決めようと思ったッス」
リーフは人差し指を立てて、にこりと微笑みを浮かべた。
「なるほど。ちなみに売る場合は、いくらほどに? 」
「少なく見積もって百万近くッス。但し雪花石は専用の炉が必要だから……手元には七十万くらいッスかね」
「かなり高いですね。ちなみに剣に打ち込んだ場合は、どのくらいの武器になりますか? 」
どのくらいの武器……ッスか。
小さな腕を組んだリーフは、壁に掛けられている武具のうち、真ん中に飾られた大剣を指差した。
「あれはダイヤモンド鉱石を組んだ剣で、今の剣より一回りくらい強い剣ッス。あのレベルが出来るはずだから、大体……堅固なゴールドゴーレムを切り裂くくらいのが出来るはずッスよ」
ゴーレムは、肉体を構成する石材によって防御力が決まる"鉱石生命体"である。
ゴールドゴーレムとなれば、上位魔族に匹敵する。
その辺の魔族くらい相手にはならないくらい、充分に屈強過ぎる剣が出来てしまうだろう。
「売るのも剣にするのも魅力的な話ですね」
「そうッスよ~。だから決め兼ねて、ルリアと相談することにしたッス」
「むむう。しかし、お姉さまの取り分はどうしましょうか」
「リーフは要らないッス。あの洞窟を一緒に探検しただけ、現役時代を思い出す楽しいプレゼントだったッス~」
にゃはは、と笑顔を見せて言った。