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46.アラバスターの原石


 ―――それから。

 二人は何の変哲も無い洞窟をひたすらに進んだ。

 息の詰まりそうな狭い空間で、代り映えしない景色の泥道を進むこと実に一時間。

 

「……あっ。ルリア、前を見るッス! 」


 先頭を歩いていたリーフが前方を指差した。

 ルリアが彼女の指先に目を向けると、そこには。


「な、何ですかこれは。凄い……! 」

「洞窟の広大な空間(ホール)ッスよ。これは広いッスねえ」


 二人の前に現れたのは、今までの狭い泥道とは打って変わった巨大な空間。

 天井からはあちこちに鍾乳石が垂れ落ち、何処からか水の流れ出る音が絶え間なく耳を刺激する。

 茶と灰だけの地下世界にありながら、何という壮大で大海すら予感させるほどの景色感があった。


「地下にこれほどの世界があったとは。す、素晴らしい……」

「まあ美しいッスよねえ。だけど冒険的にはちょっと残念かなって思うッス」


 リーフは景観を褒めながらも、何故か唇を尖らせて近くに岩場にドサリと腰を下ろした。


「お姉さま、どうしました? ご機嫌ナナメのようですけど……」

「うにゃ、綺麗だなっては思うケド、この鍾乳洞は石灰地帯の証拠だから少し残念かなって」

「石灰地帯とは、つまり……」

「石灰石の鉱脈って事ッス」


 リーフは座った岩場の白肌を小さな手でぺしぺし叩いて言う。


「石灰石は、錬金術とか鍛冶でも大量に消費するから需要は高いけど、沢山手に入りやすいから価値は無いッスからねえ。時間的にもこれ以上散策するのは厳しいし、ここまでッスかね。もっと奥に進めれば別の鉱脈に繋がってる可能性はあるけど……うにゅ? 」


 ふと、宙を見上げたリーフが何かに気づく。

 急に渋い顔をして「あれは」と呟いた。


「何かありましたか? 」

「……あの白い岩壁の一部。濁ってるところ、雪花の鉱石ッスよ」

「雪花って、アレですか」


 リーフの目線の先にある、白い岩壁。

 そのうちの一部だけが白く濁り、半ば透明感があるというか、他の石灰石とは多少異なった色合いだった。


「あれは雪花石膏、アラバスターっていう特級クラスの石灰石みたいなものッス」


 急にやる気に満ちた表情を見せて岩場に立った。

 

「装飾品としてかなり高く取引されている鉱石ッスよ! 」

「あ、あの壁の石がですか」

「……ちょっと待ってるッス! 」


 近くの岩場を器用に登り、白い岩肌に一気に距離を詰める。左手の、しかも指先だけを壁の出っ張りに引っ掛けて身体を宙に浮かした状態で、雪花を目の前でまじまじと観察した。


「ふーむ、やっぱりアラバスターに違いないッスね。……ルリア~、ピッケル投げてくれないッスか! 」

「ピッケルって……リュックに仕舞ってるやつですよね」


 言われた通り、リュックからピッケルを取り出すが、このまま投げるのは中々に億劫だ。


「投げるのは危ないですよ。私もそっちに行きますから」

「うにゃ、投げた方が早い……って」


 ルリアもリーフに負けじと身軽に岩を飛び跳ね、同じように壁の出っ張りに指先だけでぶら下った。それを見たリーフは楽しそうに言った。


「おお……。ここに飛び降りる時からッスけど、ルリアってば本当に驚く身体能力ッスよね」

「あはは、これでも鍛えていましたから」

「さすが古代の戦士って感じッス。その辺の冒険者よりよっぽど凄いッス」

「ふふっ。そこまで褒めて頂けるとは光栄に思います」

「……今度時間が合えば、また一緒にどこかダンジョンにでも行ってみるッスか! 」

「是非。また連れて来て下されば嬉しいです」

「うん、そうッスねえ」


 喋りながらリーフはルリアからピッケルを受け取る。

 そして、岩壁に向かって、大きく構えて、一気に振り下ろす――ー。


 ボコォンッ!!


 思い切りの良い一撃で雪花石膏の塊は剥がれ落ちるように落下した。

 砕けて落ちていく欠片は淡いランプに反射して、白く煌めく星々のように映る。

 二人は、輝く星を見ながら顔を見合わせて、言った。


「ほいさっ。今日はこれで終わりッスけど、また今度一緒に冒険しようッス~! 」

「……ですね。楽しみにしております、お姉さま! 」


 短い冒険とはいえ、二人の仲は、益々に深まったらしかった。


 ………

 …


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