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45.壮大なピクニック


 底の見えない地獄の穴。

 彼女は臆するどころか、まるでピクニックにでも行くような笑顔で飛び込んだ。

 慌てて断崖から下を覗くと、かなり下の方で壁に引っ付くリーフの姿を見つけ、声を上げた。


「お姉さま、大丈夫ですかぁーっ! 」


 声は反響を繰り返して彼女の耳に届く。

 リーフはこちらを見上げて笑ったまま左手を振った。


「下の方はまだ見えないッスけど、ここに足場があるみたいッスー!」

「足場ですかぁー!? 」

「結構下にも足場になりそうな場所があるッス! ロープを頼りに降りてきて欲しいッスー! 」

「ロープ……? え、あっ、いつの間に」


 リーフが飛び降りた場所には、いつの間にか下に降りるためのロープが敷かれていた。

 先端には魔力の杭が刺さり、そこから真下にロープが伸びている。


「これはロープ留め……しかし、魔力が宿った杭か」


 試しに力いっぱい引っ張ってみたが、杭を中心に地面にまで拡がる魔力のおかげでビクともしない。人間一人……いや、数人でぶら下がっても問題にならないだろう。


「杭に肉体強化術の魔法を改したものを付与したのか。私たちの時代には無かった考え方だ……」


 改めて進んだ魔法技術に驚きつつ、ロープを握り締める。また、足を覆うようにも巻き付けると、自身もリーフと同じように臆さずに深い穴に飛び込んだ。滑るように下降しながら足に巻き付けたロープでブレーキをかけつつ、リーフの立っていた場所まであっという間に辿り着く。


「ふうっ。お待たせしました。上からじゃ分かりませんでしたけど、下には足場があったんですね」

「あるにはあったッスけど……驚いたッスねえ」

「ええ、確かにこのような足場があったのは驚きます」

「違うッスよ。ルリアに驚いたッス。ロープの素早い懸垂下降(ラペリング)が出来たなんて」

「ああ、いえいえ。基本と独学です。ハーネスに関しても多少の知識はあります」

「……冒険者として申し分ないッスね。じゃあ、リーフも遠慮なく進んでいくッスよ! 」

「望むところです」


 リーフは再び躊躇なく穴の中に飛び込む。

 それに倣ってルリアも彼女が手引きしてくれるロープを利用し、二人はドンドン穴の奥へ潜っていった。

 やがて、五回ほどそれを繰り返したあと。ようやく"穴の底"が顔を見せた。


「……底が見えたッス。だけど、こりゃ参ったッスね」


 深く潜り続け、いよいよ底が見える寸前の足場に立った二人。リーフが小型ランプを前に突き出してみると、最下層は鉄球の示した通り完全に水没しきっていた。

 揺れる水面(みなも)は漆黒に泡立ち、底が全く見えない恐怖色に染まっていた。加えて水には流れがあるようで、二人が覗く正面にほんの僅かばかりの水流が出来ていた。恐らく横穴があるのだろう。


「うーわ、濁りに濁った水ッスねえ」

「……どうやら、ここまでのようですね」

「うんにゃ、水の流れがある限りどこかには通じているッス」

「まさか。ここに飛び込むのは危険過ぎます」

「そうッスねえ。鉱毒に犯された水の可能性もあるッスから」

「鉱毒ですか。本で読みました。鉱石の毒素が染み出した水の事ですね」

「地底湖みたいな澄んだ水なら飛び込むところッスけど。でもでも、諦めるのは早いッスよ」


 リーフは右手人差し指をチッチッ、と振った。その指先で、沈んだ地下の一点を指差す。


「よく見るッス。あそこ、小さな足場があるッス。そこから、岩場が水の上に道を作ってるのが見えないッスか? 」


 岩の道……?

 眉間にしわを寄せて彼女の言う場所を暗がりに集中する。確かに、水に浮かぶように小さな岩の足場が見えた。水から突き出た三角岩で、人ひとりが乗れるくらいのスペースだ。それが道なりに、横穴へと続いている。とはいえ、最初の岩までの距離は約十メートル、狙って着地するのは至難の業だが。


「いけるッスか? 」

「心配ご無用です」


 このくらい、どうってことは無い。

 リーフは「またお先ッス! 」と元気良く足場から飛び降り、難なく小さな三角岩に着地した。

 彼女がもう一歩先の岩場に飛び移ったあとで、ルリアも同じように三角岩に降り乗った。


「……っと。おおっ、まだ洞窟は続いていましたね」

「探索はまだ終わりそうにないッスよ」


 点々とした小岩の先は、水に浸かることなく泥の岸辺になっていた。そこから更に続く漆黒の洞窟。もうしばらく、洞窟を楽しめそうだ。


「ハハ、そうですね。しかし、ここにラファエルを連れて来ようと思ったが……少し厳しそうです」


 立った小岩から降りてきた縦穴を見上げた。

 元々暗がりということもあるが、二百メートル以上を拙い素人が降りてくるのは無理な話だ。


「へえ、その言い方だとラファエルには修行を積ませるつもりッスね」

「バレてしまいますよね。あの子は考えていたよりも才能があったもので」

「うんにゃ~、焦ることは無いッスよ。のんびり考えればいいッス」

「そうですね。ゆっくり考えるとします。今は、目の前の冒険に集中しますよ」

「そうッス。じゃあ、先に進むッスよ! 」

「はい。行きましょう」


 リーフとルリアは改めて気合を入れ直し、洞窟の奥へと向かうのだった。


 ………

 …


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