43.戦う女子会
「でもでも、褒められると照れちゃうッスよ~。……ところで、今日はどんな用事だったッスか? 」
思い出したようにリーフが尋ねる。
ルリアは「あっ」と手を叩いて、本来の目的を伝えた。
「も、申し訳ありません。実はリーフさんにお尋ねしたい事があったので」
「何か訊きたい事があるッスか?」
「はい。実は山の中に天然の洞窟らしい場所を見つけたんです」
「……おっ、洞窟ッスか」
リーフは身を乗り出して面白そうに反応する。
「自宅の裏山に底の見えない竪穴の洞窟を見つけました。もしや……とは思うのですが」
「なるほど。鉱脈に繋がっている可能性は否めないッスね」
深い洞窟、その言葉だけでリーフは察してくれた。
彼女は背もたれに寄りかかって難しい顔で腕を組むが、その姿は可愛いぬいぐるみのようでルリアは心の中で一人癒されたりした。
「でも、洞窟だけじゃ判断がつかないッス。何か他に特徴は無かったッスか? 」
「他には……可愛いこととか……」
「えっ? 」
「あ、いえ何でもないです! ほ、他には壁が岩石で構成されているような感じはしていましたが」
「岩石ッスか。人工物らしき物は見当たらなかったッスかねえ」
「残念ながら。周りに獣の足跡すら無かったので、放置されている場所だと思います」
「なるほどッス……」
リーフは断片的な情報に「ムムム」と唸る。
「断定は出来ないッスけど、可能性は四つあるかな~って思うッス」
「四つですか? 」
「一つは未踏のダンジョン。一つは鉱山跡。一つは単なる資源ある天然洞窟。後は……行き止まりッスね」
「はは……、行き止まりは少々残念ですね」
「でも底が見えないくらい深いなら、ダンジョンか鉱山跡と考える所が打倒ッスけど……」
リーフは暫く考え込んでいたが、やがて手を"ぽんっ"と叩いて思いついたように言った。
「そうだ。ここで考えるのも無駄だし、行ってみるッスか。案内して欲しいッス! 」
「えっ。い、今からですか? 」
「見ないとどうなのか分からないし。簡単な装備で日帰りするッスよ~」
椅子から飛び降りたリーフは、工房にある幾つかの鉱山用の道具を見繕い始める。その行動にルリアは慌ててリーフに口を開く。
「ま、待って下さい。それではご迷惑が」
「迷惑じゃないッス。今から何か用事があったら無理にとは言わないッスよ! 」
「いえ、用事らしい用事は無いのですが。お店はどうするのですか? 」
「臨時休業ッスよ。元々趣味でやってる店だし気にしなくて良いッス」
「そ、そう言われるのなら……」
「それより、道具は貸すからさっさと装備するッス! 」
「道具を? 」
「ほらほら、もう準備は終わってるッスよお」
いつの間にかリーフは壁際に、ピッケルを始めとする鉱山道具を並べていた。
それは昨晩、本で読んだ通りの専用道具たち。ヘルメット、ピッケル、ロープ、作業用の安全靴。厚手の作業服、ガスマスク。また、リーフがテーブルに乗せた小柄の瓶に入った液体は、毒素判別用の反応液だろうか。
「……これは。鉱山ダンジョンに挑むセット一式じゃないですか! 」
「多少足りないのはあるッスけど、充分に見学できる範疇にあるッスよ」
「これを借りて良いのですか? 」
「取り敢えず標準の女性用の靴とか作業服ッスから、サイズを見て欲しいッス」
「わ、分かりました」
「隣の部屋でカーテン閉めて着替えるッス」
リーフに案内されて工房となりの部屋に入室する。
そこは簡易なキッチンや様々な鍛冶資材が置かれた場所で、ルリアは「ほお~」と辺りを見渡しながら、早速リーフの用意した作業服に着替えてみる。
……しかし。
靴は問題なく履けたのだが、作業服のチャックを上げた際、思いのほか胸の部分が窮屈で締める事が出来なかった。
「す、すみません。胸の部分が上手く締まらないようです」
「……それはドワーフとか女性を敵にする発言ッスね!? 」