42.ドワーフのサンドイッチ
―――ニ十分後。
二度目のシャワーを浴びたラファエルはソファに項垂れ、今にも眠りにつきそうにウトウト瞳を虚ろにしていた。
「ね、眠い……。朝から動きっぱなしだったせいかな……」
「昼食はどうする。無理強いはしたくないが、何か胃に入れておいた方が良いぞ」
ルリアは彼を見下ろしながら声をかけた。
「多くは食べれないかも。少しだけでも大丈夫かな」
「パンとミルクで済ませると良い。テーブルに用意しておくから食べてくれ」
切り分けたパンと、注ぎ入れたミルクをテーブルに並べる。
ラファエルは「ありがとう~」と寝ぼけ眼で返事した。
「それでは私は出掛けてくるからな」
「また山の開拓? 」
「いや、町だ。ちょっと行きたいお店があってな」
「……そっか。気を付けてね。行ってらっしゃい~」
ラファエルは左手をひらひらと動かして言った。いつもなら一緒に行動したい素振りを見せる彼も、畑仕事に続いて全力を出し切った所為で体力も精神も限界のようだ。
「うむ。行ってくる。夕方までには帰ってくるぞ」
そう言い残し、自宅をあとにする。その足のまま真っ直ぐ町に赴くと、とある店のドアを叩く。
「こんにちわ、リーフさま」
ドワーフ族のリーフ女子が営む鍛冶工房である。
「あやっ、ルリアじゃないッスか! 」
ドアを開くと、彼女は丁度お昼ご飯だったらしく、椅子に座ってサンドイッチを頬張っていた。
リーフという女史は、見た目は人形のように金髪ツインを揺らす幼い女の子。それでいて年齢が二十七歳というのだからアンチエイジングも真っ青だ。
「あっ、お食事中でしたか。あとで出直したほうが……」
「むぐむぐ、別に構わないッスよ。折角だし一緒にサンドイッチ食べないッスか~」
「私もですか? 」
「そうッス。リーフがつくったサンドイッチだから美味しくないかもしれないけど……」
テーブルの中央には白皿に美味しそうなサンドイッチが並べられていた。
(リーフさんの作ったサンドイッチ……か)
彼女の手作りのサンドイッチ。言葉だけで魅力的だ。よもや魔族をとことん嫌っていた私がこんな気持ちになるとは自身で信じられない話だが、人間と魔族の関係性を示してくれたのは誰でもない彼女なのだ。
「是非、頂きたいと思います」
心の底から微笑みを見せて返事した。
「えへへ、そうこなくっちゃ。紅茶も用意するッスよ♪ 」
椅子からぴょんと降りて、隣の部屋に消えたと思えば肌色のポットとカップをテーブルを両手に戻って来ると、それを椅子の上によじ登り、湯気立つ紅茶を淹れてくれた。
「わざわざ有難うございます」
「どうぞ座るッス! 」
リーフはとてて、と足音を立てて自らの席に戻る。
ルリアは椅子に座ると、彼女の用意してくれた紅茶を啜る。程よいビターな味にレモンの風味が香る。全身がポカポカと温かくなった。
「ふう……。この紅茶、美味しいですね」
「高くない中級品の等級ッスけど、美味しいッスよね! 」
「へえ、それでこの味わいは驚きますね」
「一応紅茶に合うようにサンドイッチも作ってみたッスから、是非食べて欲しいッス~」
「あっ、そうでした。それでは頂きます」
カップを置いてサンドイッチに目を向ける。皿に盛りつけられたサンドイッチは、玉子、ハム、キュウリ、マヨネーズの俗にミックスサンドイッチと呼ばれるオーソドックスなもの。大きさは一口で食べれる嬉しいサイズだ。ひとつまみして、頬張ってみる。
「……! 」
口に入れた瞬間、ふわりとしたパンの食感。新鮮なレタスの歯ごたえがシャキシャキ楽しい。玉子とマヨネーズは互いに主張を強く味を残すが、それでいて喧嘩はしていない。
「お、おいひい。ていうか、市販のサンドイッチより全然……っ」
お世辞ではない。一言でいえば味わい深く、純粋に美味しい。
また彼女の言う通り、サンドイッチと紅茶の相性は抜群で、すっきりした紅茶のおかげでサンドイッチの味わい深さを何度でも楽しむことが出来るのだ。
「にゃはは、それは良かったッス♪ 」
リーフは頭の後ろに手を回して嬉しそうに言った。