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38.ひと時


「うむ、我ながら完璧な仕上がりだ。食べずして美味しいのが分かるぞ。……しかし、肉料理ばかりだな」


 味付けや調理法を変えているとはいえ、同じ肉料理ばかりが続く。

 たまには魚料理や、変わった料理を作ってみるなど、バリエーションを増やしたいとも思う。


(これでもラファエルは喜んで食べてくれるのかもしれないが。育ち盛りだからこそ、もっと栄養あるものを食べさせてあげたいと考えたりもする……と……)


 その時。ギシギシと床を軋ませて、ラファエルが目を擦りながらリビングに現れた。


「ふわあ……。お帰り、お姉さん……。すっかり眠っちゃってたよ……」

「おはようラファエル。丁度、晩御飯が出来上がったところだぞ」

「うん、なんか美味しそうな匂いがするな~って思って目が覚めたから……」

「そうか。寝起きでも食べられるか? 」

「もちろん、食べるよ~」

「じゃあ椅子に座ってくれるか。今、テーブルに運ぶから」


 ラファエルは少し寝ぼけながらも、椅子に腰を下ろす。

 だが、ルリアがプレートに乗せられたハンバーガ―を運んだ途端、ラファエルの目が見開いた。


「あれ、ハンバーガー! これ、買ってきたの? 」


 明らかにテンションが上がったラファエルに、ルリアは微笑んで答えた。


「食材は昼間に買って、私が作ってみたんだ。口に合えば良いのだが」

「お姉さんが作ったって……これを? 凄い! 食べてみて良い? 」

「もちろん」

「うん。いただきますっ」


 ラファエルは大きく口を開いて、ハンバーガーにかぶりついた。


「……っ! 」


 新鮮なキャベツのシャキリとした歯ごたえに、赤身肉から溢れ出した旨味たっぷりの肉汁が口いっぱいに拡がっていく。また、後味に訪れるハニー・マスタードの酸味ある甘さが、飲み込んでからの余韻たる旨味を更に引き立たせた。


「美味しい……。お姉さん、これ凄く美味しい! 」

「おお、そうか。それは嬉しいぞ。それじゃ私の分も出来たし、食べてみよう」


 ルリアも椅子に腰を下ろして、自ら作ったハンバーガーを頬張った。


「んっ。これは、我ながら……」


 予想以上の出来だと、思わず笑顔になる。


「お姉さんってば、ハンバーガーをつくっちゃうなんて凄いなあ」

「ハハ、大した事ないさ」

「ううんっ、アロイスさんのに負けてないくらい美味しいと思うよ! 」

「大佐殿の料理と? ふふっ、嬉しい誉め言葉として素直に受け取っておこう」


 食事をしながら楽しく喋り合う二人。

 あっという間にハンバーガーを食べ終えると、ラファエルは満面の笑みでお腹を押さえた。


「ふう~、たくさん食べたあ」

「一個で充分か? 足りないなら、直ぐに二個目も出来るぞ」

「ううん、結構大きかったからお腹いっぱいだよ」

「そうか。なら、食器類を片づけてしまおう」


 ルリアは椅子から立ち上がると、ワンプレートを流し台に運んで洗い始める。

 ラファエルは彼女の後ろ姿をぼんやり眺めながら、小さく言葉を呟いた。


「なんか、お母さんみたい……」


 その言葉に、ルリアは耳を傾けた。


「うん? はは、私がお母さんか」

「あっ、そういう意味じゃなくて! 」

「……慌てなくて良いさ」


 キッチンに立つ女性の後ろ姿に、つい母親を思い出してしまったのだろう。


「ラファエル。キミの母親は、どういう方だったんだ? 」


 ルリアが優しく尋ねる。

 ラファエルはテーブルに肘をつき、とろんだ瞳で静かな口調で返した。


「……料理が美味しかった。あと、いっつも忙しそうにもしてた……」

「ご両親は冒険者だった分、家事は忙しかったのだろうな」

「そうなのかな。でも、今更お父さんたちは凄かったんだな~って分かったんだ」

「どういう事だ? 」

「だって、こんなに大変な訓練をしてたんだって……」

「そうだな。キミのご両親は冒険者として強くあった。きっと血の滲むような鍛錬をしたのだろう」


 現代、時代を越えても魔獣を狩るハンター稼業を含め、冒険者としてダンジョン攻略をするのは容易な話ではない。その上で立派な家を建て、不自由ない生活をしていたというのなら、両親が優秀な冒険者だったのだろう。


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