表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/48

30.技巧


 ―――それから、十分後。

 ラファエルは、ルリアと共に川辺に移動し、二人は水と岸のふちに立っていた。

 まず、ルリアはラファエルを見下ろしながら、簡単な魔法の基礎のついて質問する。

 

「ラファエル。魔法の基本だから知っているだろうが、魔法の基本原則のうち三項を知っているか」


 ルリアが尋ねると、ラファエルは当然のように答えた。


「うん。マナは辺りの属性値を大きく受けるってことだよね」

「正解だ。つまり、この川辺ではどのような影響がある? 」

「えっと、水魔法が強い影響を受ける。火の魔法は比較的弱まるってこと」

「それも正解だ。百点満点の答えだな」


 大気中に漂うマナは、周囲の影響を強く受ける傾向にある。

 水の多い場所では水、火の傍では火を、風が舞えば風の魔力が高まる性質があった。


「だが、大魔法使いと呼ばれる者たちは、どれだけの状況にあっても強い魔力を持っていたために属性に縛られない魔法を使えたと聞く。海の真ん中でも地獄のような火炎を操ったし、炎の中に置いても嵐のような大雨を降らせた……とかな」


 ラファエルは「本で読んだことあるよ」と、頷いて返事する。


「そうか。なら、自分の魔力を強化する方法を知っているか? 」

「……うん。一応、試したことはあるよ」

「そのやり方は」

「属性に逆らう魔法を放出するんだよね。」

「そういう事だ」

「分かった。ここで、火魔法をやれってことだよね……」


 川辺は、水マナの宝庫。

 ここで火魔法を放出することで、魔力細胞は強く活性化して傷がつく。

 それを肉体が自己修復する際、以前よりも僅かながら肥大化する仕組みだ。


「ま、筋トレと一緒の考えだ。激しい筋トレをすれば、筋肉が壊れ、それが修復する際に以前より(たくま)しく成長する。そこで痛みを伴う筋肉痛が発生するらしい。今のキミと一緒だな」


 ルリアはウィンクするように片目を閉じ、指先でちょいちょいとラファエルの全身を差す。


「そうなんだね。でも、筋肉痛の上に魔法でも鍛錬で追い込んで大丈夫なのかな……」

「日分けでやるだけ大丈夫だ。物理訓練、魔法訓練、どちらも休息した勉強日、それを日にちで分けて鍛錬を進める」


 物理的な筋トレ、魔法に扱う体内強化、勉強日は鍛錬をした肉体の休息に伴った肉体修復を試みる。

 いわゆる"超回復理論"に基づいた肉体蘇生及び強化術だ。


「そっか、分かった。だけど、森の探索とかはどうするの? 」

「当分は空いた時間に一人で進める。キミは、肉体が鍛錬に慣れ始め、疲労を残さなくなった頃に再開させるつもりだ」

「そっか。ちなみに、疲労を残さないって、どういうこと……? 」

「肉体は不思議なものでな。筋肉痛も、魔力枯渇による痛みも、日を追って楽になっていくんだ。そのタイミングということだ」


 例えば、普段トレーニングをしていない人間が、一日ばかり激しい筋トレに励んだとする。

 当然、次の日以降には酷い筋肉痛に悩むだろう。

 最初は一週間ほど続く痛みだが、次回から同じようにトレーニングした場合、筋肉痛は五日、更に鍛錬を重ねれば三日、やがては一日と、早いペースで回復していくようになる。


「しかも、僅かではあるが、当初トレーニングをした時よりも、高負荷なトレーニングに耐えられるようになっていく。その時、自分は成長しているんだと実感するぞ」


 千里の道も一歩からというように。

 どれだけ歩幅が狭くとも、その一歩こそ、目標となる千里を踏破するための重要な一歩なのだ。


「……な、なんか凄いやる気が出てきた。そうだよね、一歩が重要だよね! 」

「その通りだ。ラファエルが本気でやる分、私も本気で指南するぞ」

「お願いします、ルリア先生っ! 」

「うむ。それでは、私に目掛けて思い切り火魔法をぶつけてこい」

「火魔法だね。分かった 」

「遠慮なしに、本気でだ」

「もちろんだよ! 」


 彼女の強さならば、自分の魔法攻撃くらい簡単に(さば)いてしまうと分かっている。

 容赦なく、今持てるチカラを振るってぶつけてやろう。


「いくよ、お姉さん! 」


 ラファエルは右腕を伸ばし、人差し指と中指を立てて銃の形をつくり、ルリアに向けた。

 

「火の地に駒を進めよ、精霊の御名に置いて我が力を示さん! 」


 呪文の詠唱を経て、魔力細胞の効果を高め、目いっぱいの火力を込める。、

 そして、立てた指先に赤色の魔力が帯びたと同時、線を描くよう一直線(ビームじょう)状に伸びる細い魔法がルリアに襲い掛かった。


(ハハ、さすがに水辺では非常に細い火炎の射出砲(ビーム)になるな。これくらいなら、私の素手で弾き飛ばせるか)


 最初こそ、ラファエルが考えていた通り、ルリア自身も彼の魔法を避けるのは造作もない事だと踏んでいた。


 ―――……だが。


 彼が放った火炎を弾き飛ばそうとした刹那(せつな)、ルリアは"ある事"に気づく。


「ッ!? 」


 咄嗟に砂を派手に蹴り上げ、右回りに大きく身を回転させて本気で魔法攻撃を避けかわした。

 攻撃を避けたルリアは、咄嗟に火炎魔法の矛先に目を向ける。

 火炎魔法は川の中心に沈んだあとも暫く直進し続けたが、地面にぶつかったところでボォン! と音を立て、激しい水しぶきを跳ね上げ、白い煙と共に消え去ったようだった。

 

「……!! 」


 その時、直感が確信へと変わる。


「ああっ、やっぱり避けられちゃった! ボク、魔法も全然ダメだあ……」


 何もわかっていないラファエルは残念そうに言う。

 しかし、ルリアは神妙な面持ちであった。


(……ち、違う。アレは全然ダメな魔法とは言い難いものだ)


 先ほどまでとは打って変わって余裕のある表情ではなかった理由、それは。

 隠されていたラファエルの"本当の才能"に気づいたためだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ