25.心地よく
「肉から溢れる肉汁と一緒に煮込まれていますから、野菜や豆腐も味わい深くなっていますし、美味しく食べることが出来ます。お代わりは出来ますから、たっぷり食べて行って下さい」
ルリアとラファエルは「はい! 」と返事する。
それから二人はオウルベアのすき焼きを食べ続けて、三十分。
久しぶりのご馳走を心行くまで堪能したことで、二人の表情は蕩けるように崩れていた。
「ふう~……。すっかり、食べ過ぎてしまった……」
「本当においしかったね、お姉さん……」
「ああ、満足だ。まるで夢のようだった……」
幸福のあまり呆ける二人に、アロイスは両手に程よく温められたコーヒーを入れたカップを持ち、それぞれの前に置いた。
「美味しく食べて貰えたのなら、満足ですよ。コーヒーも飲んで行って下さいね」
「た、大佐殿……。これほど食べ散らかしましたが、本当に無料で良いんですか? 」
「もちろんです。その代わり今度儲けた暁には、ウチの酒場で豪遊していって下さい」
ハハハ、とアロイスは笑いながら言った。
「そ、それはもう! しかし、この食事のおかげで明日の生きる糧を得ました! 」
「おお、そこまで言って貰えると嬉しい限りです」
「本当の事ですから。……それと、長居してしまいましたが、そろそろ酒場は開店ですよね」
「今日は十九時開店ですから、もう少しですね」
「そうでしたか! では、早めにお暇させて頂きます」
時刻は十九時も近く、これ以上は更に迷惑をかけてしまう。
ルリアとラファエルは急いでコーヒーを飲み干すと、急いで立ち上がった。
「……それでは、大佐殿! 今日も本当にお世話になりました」
「アロイスさん、ありがとうございましたっ! 」
「おっとっと、そんな慌てずとも。とりあえず、また気軽に来て下さいね」
アロイスの優しい言葉に二人は「有難うございました」ともう一度だけ頭を下げて、いそいそと外へと出た。
すると、今日は随分と日が早く傾いたようで、外に出るとすっかり辺りは暗がりに包まれ、空を見上げると数えきれない黄金の星々が輝いていた。
「な、なんて星空だ」
「すごく星がきれいだね……」
「ああ、美しいな。今日は、少しゆっくり歩いて帰ろうか」
「うんっ」
こうして、二人は一日の終わりの帰路につく。
その心の持ちようは、今までに無いくらいに晴れやかで、幸せに満ちていた。
「今度、大佐殿に何かお礼をしないとな。もっとお金を稼いで、いつか酒場でも貸し切ろうか」
「あ、賛成! ボクも頑張ってお姉さんのお手伝いをするから何でも言ってね! 」
「……ほう、何でもか。なら、オウルベアでも倒してきて貰うとするか」
「ええっ!? 」
「ハハハ、冗談だ」
「冗談に聞こえなかった……」
二人は和気あいあいとしながら、ゆっくりと、楽し気に自宅へと戻る。
そして、その夜は、心の底から穏やかに眠りについたのだった……。
…………
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