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21.狂暴オウルベア


「ラファエル、キミはここに隠れて顔を出すな。分かったか? 」

「……うんっ」


 ラファエルは小さく頷いた。

 ルリアは「では」と呟き、背負っていたリュックを下ろす。

 そして剣を抜くと、壊れた窓から身を乗り出して外に飛び出した。

 同時に、物音を察したオウルベアが、ドカドカと足音を鳴らしてルリアの前に姿を現す。


「ケェェエエッ!!! 」


 ルリアを見たオウルベアは、頭部のフクロウ顔を激しく動かして薄気味悪い叫び声を上げる。

 また、大きな翼を高々と振り上げ、バサバサと激しく動かした。


(……ほう)


 だが、ルリアは怯まずに冷静に分析する。


(私に対して威嚇(いかく)するか。と、なれば……オウルベアは私たちを捕食対象には"まだ"見ていない。私との力の差を(はか)っているのだな)


 加えてヤツは自分に対して慎重になっている、ということが少なからず分かる。


(そのような狂暴な容姿をして臆病なことだ。されば、弱気なことが命取り。その命は私が貰い受ける)


 退くことなく、鋭利な剣先をオウルベアに突きつけた。

 するとオウルベアは、

 「 ! 」

 一瞬ばかり驚いたようだが、より翼をバサバサと激しく(なび)かせ、臨戦態勢を取った。


「私から先に行くぞ」


 姿勢を低くして、即座にオウルベアに向けて突進する。

 その速さは風の如く、一気に相手の下部に陣取った。


「その肉体、切り裂くッ!! 」


 左下から右上に突き抜ける、光の一閃。

 間合いは充分、腕力と技術を用いた電光石火の斬撃だった。

 ―――が、しかし。


「クエエエェェエエッ!! 」

「うッ!? 」


 オウルベアは柔らかく上体を逸らして、光の一閃を(かわ)したのだ。

 いや、正確にいえば(かわ)したのではない。

 皮一枚だけは切り裂き、オウルベアの胸筋には一筋の赤い血線が走る。

 だが、それでも。


(こ、こいつも二千年を経て私の常識以上に強さを持っているのか)


 本来、オウルベアはこれほどの柔軟性と反射性を持っている存在ではなかった。

 カルキノスと同様に、オウルベアもまた二千年という時代に進化をしたらしい。


(―――だがッ!! )


 それも想定の範囲内であった。

 外した一閃の刃だが、そのまま右側に振り抜き、右脚を軸にそのまま激しく右に右に回転する。

 見た目はコマのように回り込み、更に深く踏み込み、再び一閃を繰り出した。


「|パイル・ブランディッシュ《二閃》ッ!! 」


 間髪入れずに放たれる二度目の一閃に、ルリアの叫びが木霊(こだま)した。

 そして、立て続けの浴びせた光の一撃は、さすがのオウルベアも回避することは敵わず、その胸にハッキリと閃光を受けた。


「ケエェェェエッ!!! 」


 オウルベアの胸に深い斬撃が線をつくる。

 一直線に伸びた傷跡からビシャリと鮮血を撒き散らし、地面を真っ赤に濡らした。


「ク……ケ……! 」


 重い一撃に片翼で胸を押さえるオウルベア。

 血走った瞳でルリアを睨みつけた。


「その程度か。次で終わりにする。休む暇など与えないッ! 」


 追撃の手は緩めない。

 再び一歩踏み込み、その胸に剣先をスラスト(突き入れ)する。


 ―――ところが。


 オウルベアは両翼を交差して魔力を集中、身を岩のように固める。

 ルリアの突き入れは金属に打ち付けたかのような"ギン!"という音と共に、弾き返されてしまった。


「ぬくっ、筋力硬化だと!? 」

「ケェェエッ!! 」


 グラついたルリア。

 オウルベアは叫びを上げ、グラついたルリアの脇腹目掛けて右蹴りを放った。


「……これしきっ! 」


 奥歯を強く噛み、蹴りが届く寸前に肘を下ろして骨部で蹴りを受け止める。


 ……ドゴォン!!


 空気を震わす一撃が爆音を生むほどの威力。


「くあっ……! 」


 ミシミシと骨は唸り、ビリビリと肉が痛む。

 だが、それでも致命傷は避けられた。


「甘いぞオウルベア。ここは私の間合いだぁっ! 」


 左腕は痺れて使い物にならない。

 剣を即座に持ち替え、右手だけで強く握りしめる。

 そして、真下から真上に伸びる突き上げるアッパーの斬撃を射出した。

 鋭い斬撃はオウルベアの片翼に届き、腕の根元からブツリと切り落とす。


「ク、クゲェェェエエッ!! 」


 激痛に悶絶(もんぜつ)するオウルベア。

 大ぶりな足取りで一歩、二歩と後退する。

 そこへ、今度は両手で剣を握り締めたルリアの剣撃が忍び寄る。

 真横に切り払うスライスに、オウルベアの太い両脚(りょうあし)を深く切り崩す。


「カッ……!! 」


 脚力を失ったオウルベアは、そのまま前のめりに崩れ落ちる。


「これで終わりだ」


 最後の斬撃は、柔らかで緩やかな一閃。

 しかし、容赦はない。

 倒れ込むオウルベアと交差するようにして、首筋を斬り抜く斬撃を浴びせたのだ。

 頸動脈(けいどうみゃく)を割かれ、(おびただ)しい血を巻き散らすオウルベアは、そのまま暗闇という意識の闇に倒れ、絶命したのだった。


「……終わってみれば呆気ない。ま、この程度のものか」


 完全に命断ったオウルベアを見下ろしながら、剣に付着した鮮血を振り払う。

 鉄鋼剣を鞘に仕舞ったあとで、山小屋に隠れていたラファエルを呼んだ。


「おーい、ラファエル。終わったぞ、出てきても構わん」


 こちらを覗いていたラファエルは、呼ばれた声に窓を乗り越え、足早にルリアの傍に駆け寄った。


「終わったんだよね……? 」

「ああ、とりあえずこれで一安心だ」

「す、凄いや……」

「うん? 」

「凄いなって……。凄いなって思って。凄かったよ、お姉さんっ! 」


 ラファエルは瞳の奥にキラキラと星を浮かべ、羨望(せんぼう)眼差(まなざ)しで叫んだ。


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