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20.山小屋


「よし、進むぞ。ラファエル、キミは基本的に私の足跡を踏むように歩いてくれ」

「う、うんっ」


 もちろん先行するのはルリア。

 おどろおどろしい雰囲気にも関わらず、臆すこと無く一歩を踏み出した。


「……茂みが深いな。葉っぱで手を切らないように注意するんだ」

「うん、分かった。ここまで奥に来たことないから、なんだか緊張してきた……」

「もしかしたら、お宝があるかもしれないぞ。私としては、廃坑が見つかってくれると嬉しいのだが」

「閉鎖した鉱山の事だよね。この辺はそういうの多いから、きっと見つかるよ」

「ほう。やはり廃坑があちこちにあるのか? 」

「あるってお父さんに教えて貰ったよ」

「それなら、本当に見つかるかもしれないな。……が、ちょっと待て」


 ラファエルの『 教えて貰った 』という言葉に、ある疑問が浮かび、足を止めた。


「今更の質問だが……ラファエル。キミは学校には通っていないのか? 」

「あ、学校は通ってたよ。でも、今年に卒業したから! 」

「……そうか、十歳で初等学校は卒業か。中等部はあるのだろう? 」

「絶対じゃないみたい」

「なるほど、義務教育ではないのか。私の頃は絶対だったが、その辺は時代の差か」

「うん。卒業したあとは、お母さんとお父さんに勉強を教えてもらいながら、お家の手伝いをしてたんだ」


 ……と、いうことは。

 その役目を引き継ぐのは私の役目になるということだ。


(今の私は仮にもラファエルの親代わりにも等しい。だったら、教示するのも必要というもの。孤児院の時代に勉学は嫌というほど叩き込まれたからな。歴史についてはアレだが、理数系……計算や生物学、錬金術基礎は得意だ。明日以降、鍛錬に含めて勉学の時間もつくろう)


 誰かに教えるという事は、自分の為にもなる。

 いい機会だ。

 二千年という時間を経て今の勉学事情がどうなったか自己啓発(じこけいはつ)し、ラファエルにもそれを教示しよう。


「ラファエル。明日以降、時間を見て鍛錬に勉強もやっていこう」

「えっ」


 どうやら勉強は嫌だったのか、ラファエルの表情が分かりやすく(にご)った。


「勉強は大事だ。肉体と一緒で頭も使わねば退化する一方なのだぞ」

「そ、そうなの……」

「そうなのだ。だから、鍛錬に勉強もする。分かったな! 」 

「う~、分かった……」

「聞き分けの良い子は好きだぞ、ラファエル」


 甘い笑顔で微笑んだルリア。

「では、出発するぞ」

 と、再び歩き出す。

 ラファエルも彼女の笑顔を見て嬉しそうに、追って足を動かした。


 ―――……そして。

 他愛ない雑談を交えながら深い山を歩くこと三十分後。

 二人の前に、予想外な展開が現れる。


「む……! 」

「あ、あれって……」


 それは、山奥に突如現れたかなり古風な石造の薄いタイル道。

 土と岩場で形成されていた山道には似つかわしくない、明らかな人工物であった。


「お姉さん、アレって何だろう! 」

「行ってみよう」


 二人はやや駆け足気味にタイル道に近づく。

 地面に埋められたそれ(タイル道)は所々が欠けていたが、道を指し示すように正面の傾斜を登っている。


「この先に何かあるのか? 」


 二人はタイルに沿って山道を進む。

 すると、それから間もなく、二人の前に"ある建築物"が顔を覗かせた。


「あれは……」


 最初、もしかすると廃坑かもしれないという期待感があった。

 しかし、二人の前に現れたのは、それよりも遥かに小さき遺物、変哲のない小さな廃屋であった。


「こんな場所に家があったのか……? 」


 深い山の奥にひっそりと建った平屋建ての建築物。

 窓ガラスは割れ、木造部分は朽ちていたが、玄関の鉄扉や石造りの外壁、屋根、基礎部分はしっかりと建物の姿が残されている。


「お姉さん、これって何だろう。ボク、こんなのがあるって聞いた事ないよ」

「分からない。もしかすると、昔ここに誰か住んでいたのかもしれないな」


 誰が居るわけでもない。

 やや重量感ある鉄扉を押し込み、蜘蛛の巣を払ってズカズカと足を踏み入れた。


「……さほど広くは無いな。家というよりも山小屋の類だろう」


 玄関正面から直ぐに広間があり、おおよそ十二平方メートル程度の部屋が一つばかり。

 床は木造だったようで泥土がひどく露呈(ろてい)している。

 窓が二つあるものの、元々太陽の明かりが届かないためか、かなり薄暗い。 

 また、崩れていたが奥には小さめの薪ストーブが構えてあった。


(ほお、火魔石の利用タイプではない廃材利用のストーブだな。されば、私の時代より更に昔か? いや、そんな太古の建物が未だ残っている訳が無い。……そうだな、ここが"山小屋"だと仮定すれば可能性は(おの)ずと見えるが)


 山小屋とは、山岳における避難場所の一つである。

 遭難した場合、この場所に逃げ込み、ストーブ用の火魔石を所持している可能性など(まれ)だ。

 つまり、周りには豊富に木々がある事を考えれば、薪ストーブが置かれている方が自然だった。


「ふむ。ラファエル、この場所は恐らく使われなくなった山小屋の類だな」

「山小屋……。ウチの裏山にそんなものがあったんだ……」

「何故あるかは分からないが、これは面白い収穫だぞ」

「面白いの? 」

「ああ、これは大変面白い。見ろ、この建築の頑丈さを」


 外壁をノックするようにコンコンと叩いた。


「避難小屋は頑丈に造ってある事が多いから、この建物も無事だったんだ。窓ガラスが割れていたり床が無かったりはするが、文字通りこの場所を建て直して、中継地点にしよう」


 裏山の深部で、安全に寝泊まりが出来る場所があれば活動の幅も大きく拡がる。

 これを利用しない手はなかった。


「中継地点! でも、どうやって修復するの? 」

「木材はその辺で採集して床を造る。窓は……ガラスはさすがに造れないな」 

「ガラスって、砂を焼くんだよね」

「よく知ってるな。ケイ砂という砂を使うんだ。しかし、そこまでは無理だな」

「リーフさんのところで造れないかな? 」

「……ふむ。言われてみれば鍛冶屋とガラスの関係性は遠くはないが」

「聞くだけでも聞いてみて良いと思うな」

「ナイスアイディアだ。近いうちに訊きに行こう」

「うんっ」


 中々良い案だとルリアは頷く。

 だが、それを別に考えても、この建物を修復するのはそれなりに骨が折れそうな理由と課題がいくつか浮かぶ。


「木を切る斧も必要だし、木材の置き場の確保も必要になる。この周辺は木々と茂みに囲まれているし、まずは外側からキレイにする必要があるな。だが……」


 伐採には、それなりに労力が必要だ。

 もちろん労力は自分やラファエルに限られるが、イコールで働くためのエネルギーも必須になる。


(所持金は三万ゴールド。これでは満足に何かすることは出来ない。一攫千金(いっかくせんきん)とは言わないが、せめて食事や道具類を(そろ)えるくらいの金額になる魔獣を見つけられれば……)


 何をするにも金が必要だ。

 いっそのこと、渓流沿いを探索して、もう一体のカルキノスでも討伐を狙ってみようか。


(さて、どうしたものだろう)


 うーん……。

 深く頭を悩ませる。


(んっ? )


 ―――と、その時。

 お金が欲しいという願いが、天にでも届いたというのだろうか。


「お姉さん! いま外で何かの音が……」

「ああ、聴こえてた。姿勢も声も低くしろ。窓際に寄って、体を隠すんだ」


 ガサリガサリと、山小屋近くの茂みが激しく揺れる音がした。

 咄嗟にラファエルの頭を押さえて姿勢を低くし、窓付近の壁に吸いつくように移動した。


「な、何だろう。もしかして、魔獣……」

「恐らくは。この物音の大きさや魔力の強さは、それなりに"デカイ"ようだ」


 二人の匂いを感じ取った魔獣が現れたらしい。

 しかし、こちらとしてはあまりにも好都合。

 欲しかった金のなる木が、向こう側からやってきてくれたのだ。


(歩くたびに周辺が揺れている。体格(モノ)が相当な相手だな)


 相手はずしん、ずしん、と重い足音を響かせて山小屋の周囲をグルグルと回る。

 どうやら、こちらの様子を伺っているようだ。


(相手が分からない以上、飛び出すのは得策じゃない。まずは姿を確認せねば)


 窓部分からそっと顔を出す。

 すると、丁度相手はこちらに背中を向けていたところで、ハッキリと姿を目視できた。


(ほう、アイツは……)


 瞳に映った魔獣の背中は、茶色い体毛に覆われた鬼のような筋肉と、両腕に広く伸びる茶色の翼、その先端には鋭い長爪。

 身長は二メートルを優に超しており、強者である雰囲気が手に取るように分かる。

 また、その後ろ姿一つで敵が何者かを知るには充分であった。


「ほう、なるほど。これは好都合な相手かもしれんな」


 薄ら笑いを浮かべ、再び顔を隠して腰を下ろす。

 その右手は既に鉄鋼剣へと伸ばされていた。


「お、お姉さん、相手はどんなヤツだったの? 」

「オウルベアだ。アレは金になるぞ……」


 ―――オウルベア。

 アウルベアとも呼ばれ、人型二足歩行の魔獣の一種である。

 頭部はフクロウ、肉体はヒグマのような屈強な肉体を持つ。

 腕には両翼を生やすが、飛行能力は持ち合わせていない。

 ……が、見た目通り、有り余る筋力(パワー)と強靭な肉体から繰り出される爪甲の一撃は、ひと一人など簡単に真っ二つに切り裂く。

 加えて、乱暴な性格をしており、カルキノス同様に危険種指定される狂暴な魔獣だった。


「相手には不足なし。この新しい剣を試すには、丁度良い相手だ」


 クククッ。

 ルリアは薄ら笑いを浮かべて、剣の柄を強く握りしめた。


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