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16.バーベキュー


 それから、二時間後。

 午前八時過ぎ。

 約束通り、ルリアは川沿いでカルキノスのバーベキューを準備していた。


 カルキノス自体は川の冷水にさらしていたため、(いた)まずある程度の新鮮さを保っていたため問題はない。

 調理器具は、倉庫に仕舞われていた鉄板や木炭などのキャンプ用品(恐らくは冒険用品だったもの)を見つけて引っ張り出し、川で埃を洗い流して利用した。


 なお、硬いカニ脚の甲羅を切断するために折れた鉄剣持ち出し、刃部分だけを器用に使い、太いカニ脚を一本だけ切り分けた。それを熱い鉄板に乗せれば、簡易バーベキューの完成である!


「ふええ、カニ脚おっきい……」


 ラファエルは開いた口がふさがらない。

 脚一本が丸々成人男性の身長よりもデカいものだから、ラファエルにとって一本でも見上げるほど大きいし、切り分けたところで鉄板からはみ出してしまうくらい巨大だった。


「なあラファエル、本当な生食も旨いんだが……挑戦してみないか? 」


 鉄板で焼く(かたわ)ら、ルリアはヌメヌメとした生の身を舌で舐めとるように(すす)り食べていた。

 カニの生肉はねっとりとした食感と強い甘みがあり、焼きカニとは全く違う味わいを楽しむことが出来るのだが、ラファエルはブンブンと首を横に振る。


「ボ、ボクは大丈夫だよ。お姉さん、色々と生で食べるの好きだね~……」

「そうか、残念だ。まあ、食べれるものは食べねば生きていけない状況も多かったからな」


 本当に彼女のストイックさには驚かされる。

 口についたカニ汁を親指で拭き取り、川の水を両手で(すく)って口を(ゆす)いだ。


「ぷはっ。……そろそろカニ脚は焼けそうだな。どれ、身をほぐして食べようか」


 金属トングでカニ身を程よいサイズに()いて、紙皿に乗せる。

 ラファエルは、どん! と乗せられたあふれるカニ身を見て目を輝かせた。


「わあい、いただきます! 」


 早速、赤く焼けたカニ身をフォークで突き刺し、 繊維(せんい)を割く。一本の筋をスパゲティのようにクルリと巻いたら、口いっぱいに頬張った。……と、ラファエルの瞳はますます輝いた。


「……お、おいひ(美味し)い~!! 」

「それは良かった。私の時代だとカルキノスは高級食材だったのだが、今もそうなのか? 」

「ん~、あまり食べたことないから、もしかしたらそうだと思うケド……」


 二人はワイワイと談義しながら美味しい朝食を楽しむ。

 すると、そこに予想外な"お客様"が訪れる。


"「おーっ、良い匂いがしているな。これはカルキノスだね! 」"


 聞き覚えのある男性の声。

 ルリアが「もしや」と思って振り返ると、そこには冒険酒場の主アロイス・ミュールが立っていた。


「た、大佐殿ッ!? 」

「大佐? ……あ、そうだった、自分のコトはそう呼ぶと言っていたんでしたね」

「どうしてここにいらっしゃったんですか! 」


 ルリアはカニ身の乗った紙皿を地面に置いて、慌ててアロイスに駆け寄った。

 

「いやー、この辺に自宅があるって聞いてたもので、朝のマラソンがてら顔を出させて貰ったわけです」

「なるほど。大佐は冒険者を引退しても肉体の鍛錬に(おこた)らないという訳ですね。さすがです! 」

「ハハハ、そんな大それたものじゃないですけど。ところで、化け蟹はルリアさんが討伐を? 」

「それは私が討伐したのですが……っと、これは気づかず申し訳ありません! 」


 急いで鉄板に戻り、紙皿に焼けたカニ身を乗せてアロイスに手渡した。

 アロイスは「そんなつもりでは」と言いつつも、折角用意してくれた手前、フォークでそれを食した。


「おお、これは美味しい。身が詰まっていて、良いカニ肉だ」

「お口に合ったなら嬉しく思います」

「ええ、大変美味しいです。しかし、あのサイズを討伐するのは大変だったでしょう」


 川辺に冷やしてある巨大な蟹の半身を見ながら言う。

 

「昨晩、山に探索入りしたのですが、渓流からつけられていたようです。幸い、ラファエルの父親が遺した鉄剣を使って討伐はしたものの……」


 地面に置かれた折れた鉄剣。

 アロイスは「あ~」と、それで察した。


「鉄剣ではカルキノスの甲羅は斬るのは難しいですからね。それでも倒してしまうとは……」

「これでも戦争時代に生きる女騎士ですから。でも、遺品を壊してしまうのは自己嫌悪です」


 ルリアはがっくりと肩を落として、どんよりと紫色の嫌悪なオーラをかもし出した。それを見たラファエルは、ルリアの肩を叩く。


「お、お姉さん、もう気にしないでって言ったでしょ。もう大丈夫だから! 」

「ラファエル、そう言って貰えると本当に心が休まる。ありがとう……」

「元気のないお姉さんは見たくないもん! 」


 二人のやり取りを見るアロイスは「ふむ」と唸る。

 どうやら鉄剣を追ってひと悶着(もんちゃく)あったのだと理解した。

 それを踏まえ、ルリアに嬉しい提案をする。


「ルリアさん、もしや鉄剣を元に戻せるとしたら……戻します? 」


 右手人差し指で(あご)(さす)りながら言った。


「……まさか、出来るのですか!? 」


 嬉しすぎる提案にルリアは目を丸くして叫んだ。


「ええ、戻せますよ。商店街の(はず)れに、かなり腕の立つ鍛冶師がいる工房店があります。私が自信をもって確実な腕を持つ鍛冶師だと紹介出来ます……が、しかし」


 アロイスは、若干言い辛そうにした。


「しかし、何でしょう? 」

「その、ルリアさんにとっては、少々面白くない相手かと思います」

「どういう意味でしょうか」

「古代戦争時代では、ドワーフ族は敵側だったと伝わっていますので」

「……ドワーフ族の工房というですか」


 ルリアは目を閉じ、右手で額を押さえた。


(ドワーフか……)


 ドワーフ族は魔族の人型種。

 男女共に成人であっても平均百四十センチに満たない小柄な種族である。

 だが、そのような見た目とは裏腹に、男女共に強い魔力を帯びた優秀な戦闘種族でもあった。


(あ奴らは騎士団でも、もかなり手こずった相手だった)


 平均寿命は人間と相違ない八十程度。

 しかし、男性は思春期を迎える頃には長い(ヒゲ)をゴウゴウと生やし始め、筋肉の肥大(ひだい)が始まり、(たくま)しく成長する。

 逆に女性の場合はどれだけ成長しても幼い少女の見た目を維持し続けるという、特異な性徴形態(せいちょうけいたい)をしていた。


 ……なお、補足だが。

 彼らは同じ魔族でありながら、高身長で端麗(たんれい)な容姿を持つエルフ族との仲が非常に悪いことでも有名だ。


「……そんなドワーフ族ですが、やはり厳しいでしょうか、ルリアさん」


 アロイスは気まずそうに言う。

 やはりルリアは悩むような様子を見せたが、それも一瞬。

 すぐに顔を上げて「お願いします」と、頭を下げた。


「よろしいのですか? 」

「はい。この時代に生きるには、やはり郷に従うしかありませんから」

「……その勇気を(たた)えさせて下さい」

「とんでもない。これも大佐のアドバイスに従うところですが…でも、一つ心配事がありまして」


 魔族に依頼するという心構えの他に、実は根本的な問題が存在していた。


「鉄剣を修繕(しゅうぜん)するにも、お金がですね……」

「ああ、そういう事でしたか。それなら心配は無用ですよ。丁度良いものがあるじゃないですか」


 アロイスはニコやかに、川辺に冷やされるカルキノスの甲羅と肢体(したい)を見て言った。


「もしかして、今の時代でもカルキノスがお金になるのですか? 」

「ええ、その通りです。高級食材ですし、頑丈な甲羅は様々な用途に使える素材にもなりますので」

「それなら、大佐がコレを買い取ってくれると……」


 アロイスは親指を立てて頷いた。


「この量は食べきれないでしょうし、冷水につけていてもいずれ腐らせてしまう。無駄になる前に、こちらで買い取りますよ。ウチの酒場ならカニ祭り(カニフェア)として振舞える量ですし、甲羅は知り合いの商人にでも買い取って貰いますから、間接的に私が引き取りましょう」


 また、彼の口から聞かされる願ってもない提案。

 ルリアはラファエルと顔を見合わせたあと、二人は頭を下げた。


「―――よろしくお願いします、大佐。本当に感謝致します」

「ありがとうございます、大佐さんっ! 」


 心の底から放たれる二人の厚い御礼(おんれい)


 アロイスは照れたようだが、

「……参ったな」

 と、中々悪い気していないようにも微笑んだ。


 ………

 …

 


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