11.血だらけ!
(……うう、どうなっても、知らない! )
ラファエルは覚悟を決めて蛇肉に噛み付き、口の中で砕く。
……だが、その食感と味わいは、意外にも。
「あ、あれ。美味しい……」
「ハハハ、どうだ! 」
「もちもちした歯ごたえで、美味しい! 味は少し塩っぽい! 」
「今まで食べたことない味で不思議だろう」
普通、サバイバル食する蛇の食感や味を鶏肉と比喩することが多い。
確かに蛇の種類によっては食べた感触は鶏肉に近いが、基本的に蛇は蛇である。どちらかというと、弾力ある肉に味は淡泊気味で、焼き上げた蛇肉は噛むと想像以上の旨味が溢れ出る。故に、蛇は肉としての商品価値は意外にも高い。
「お姉さん、食わず嫌いでゴメンなさい。こんなに美味しいって知らなかったから……」
「あらゆる経験は人生を豊かなものにする。男の子なら、何事にも勇気をもって接するものだ」
「うん。これからは色々と怖がらずに挑戦してみる! 」
「その意気だ。それでは、私も頂こう」
ルリアも、枝先で拾った蛇肉に先端からかぶりつく。アツアツの肉汁を垂らしながら大口で食らってガブガブと食した。
「お姉さん、豪快な食べ方! 」
「肉厚ヒュドラだから出来る旨い食べ方だ。うん、素材の味が活きていて美味だ! 」
「ボクもかぶりつく! 」
感化されたラファエルも、あれほど臆していた蛇肉をガツガツ食べる。そして、お腹が空いていたこともあって、あっという間にヒュドラを平らげると、満足そうに岩場に転がった。
「ふうーっ、もう食べれないや」
蛇の半身とはいえ相当なサイズだったこともあって、久しぶりにお腹いっぱい食べた満足感に浸る幸せの瞬間だった。
「お姉さん、本当にありがとう。ボク、こんな食事したのしばらくぶり……で……、って、なにしてるの? 」
ラファエルが起き上がって彼女に目を向けると、ルリアは岩場の陰でこちらに背を向けゴソゴソと小刻みに動いていた。
「んっ。ああ、いや……」
ルリアは「なんでも無い」と言いながら、笑顔でこちらを振り向く。
だが、彼女の口元からはおびただしいほどの血が滴り落ち、唇の隙間には細長く気持ちの悪い"何か"がウネウネと動いていた。
「ギャーーーーッ!!! 」
思わずラファエルは怒号の勢いで悲鳴を上げた。
「お、おおっ、なんだラファエル、そんなに驚いて」
「ななな、何しているのさ、お姉さんっ!! 口からなんか、ウネウネ……ひいい! 」
「ん……。ああ、コレか」
歯に詰まったイカを取るようにソレを指先で摘まみ、ペッ、と吐き捨てる。
吐いたソレは赤く血に濡れた小さな管のようなもので、地面でぐにぐにと揺れ動く。
「ヒュドラの内臓だ。殺したばかりだから生でもイケるからな。栄養満点だし酒のアテにもなる」
「そ、そう。美味しそう……だね……」
「……ああ、苦手かと思ったがそうでもないのか」
「へっ? 」
「美味しい部位をやろう。ほら、肝臓だ」
ズイッ、と出された肝臓は赤みを帯びてドクンドクンと唸る。
「え、あ、いや、待って、お姉さん」
「遠慮をするな。ほら、ほら。さあ、ほら」
「あ、いや、いや……いや、いやああ、嫌あああああっ!! 」
後にラファエルは語る。
あの時ばかりは、美しいルリアが地獄の使者に見えてしまった、と。
………
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