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君の幸せを祈る  作者: 田中もぐ
1/5

prologue

連載はじめます。

誤字脱字のご指摘よろしくお願いいたします。

―――――――大国サングスベルトの中で王家に次ぐ優秀な血筋と謳われるサングステイル侯爵の豪奢な屋敷の一部屋にて、一人の華奢で儚い印象を与える美しい少年のその存在がこの世から消えようとしていた。そう、文字通り日付けが変わるその前に存在が消えるのだ。




一人部屋にしては十分すぎる広さの、柔らかな赤いカーペットが轢かれた部屋の巨大な窓の側には重厚感のあるベッドが一つ。目立つものといえばシンプルながら職人による丁寧な作業を感じさせるベッドだけだが、そこに横たわる人物がいることにより空間が高貴なものとなる。



密やかな月の光に照らされる鎖骨ほどで整えられた髪の毛は神秘的な紫がかった銀髪で、長い銀色の睫毛で縁取られた大きな瞳は吸い込まれるような深い菫色。つん、と軽く上向きの小ぶりな鼻に淡い桃色で染めたような艶やかな唇。肌は透けてしまいそうなほど白く少し普段より血の気がないように見える。そんな容姿と折れてしまいそうな華奢な骨格と相まってその横たえられた人物は瞬きをすれば消えてしまう幻のような印象を与える。


それを取り囲むのはサングステイル侯爵、侯爵夫人、侯爵家の次男の三人だけ。少年と同色の瞳をもつ公爵が、いつものように無表情を湛えようとしながら口を開いた。


「もう、そろそろか」


語尾が少し震えたが芯のある声が部屋を満たす。冷血の騎士団と言われる魔法騎士団を率いる家長の今の打ちひしがれたような姿は普段では滅多に目にすることなどできないだろう。


「ええ、そのようですね父上」


次にうって変わって繊細な、柔らかな言葉が横たわる少年から紡がれる。柔らかく、どこまでも安らかに美貌を晒す。


「サード、サード!もっとあなたとやりたいことがあったのに、、、っ!あなたがいなくなってしまったら私、、、」


豊かな色素の薄い茶色い髪の毛の侯爵夫人が涙ながらに、少し取り乱しながらサード、と呼ばれた少年の手を握る。少年も、しょうがないですね母上は。なんてこぼしながらつられたように目を潤ませた。社交界でお手本とされる作法など今はどうだっていい。最愛の、まだ十二歳の息子がこの手から離れようとしているのだ。


「、、、愛してる、ずっと」


いつもは無口で冷たい雰囲気のサードの次兄までもが感傷的に呟いた。しかし、その一言がすべてだった。


「私も。皆さんのことを愛しています。ずっと、ずっと」


サードが家族一人一人の顔をしっかりと時間をかけて見つめ、出来る限りの笑顔を浮かべた。感謝と愛をしっかり注ぎ込んで、それから愛しそうに部屋を見渡し、そしてゆっくりと満足気に息を吐いた。

サードの未練はもうない。強いていうならば、王宮騎士団の騎士として勤める長兄を一目見たかった。それだけ。



「――――――――――、、、」




口のなかで小さく言葉を唱えたその瞬間、部屋に立っているのも厳しいほどの魔力が満ちた。少年は巨大な魔方陣に囲まれてまばゆい黄金の光に包まれ、ベッドの上から消えた。

実にあっけなく彼の実体は家族の元から消え去ったのだ。




部屋は空虚な空間となり、夫人のすすり泣く声だけが響く。今さっきまで自分の腕の中にいた暖かく弱々しい愛しい存在が一秒にも満たない時間の内に消し去られた哀しみだけが彼女を支配する。



「、、、サード・サングステイルは死んだ。私たちの息子、お前の弟は今この瞬間に死んだ。もう、会うことは、、、」



侯爵の震える頼りない言葉に二人がうなずく。


こうしてひっそりと雲一つない満月の晩にサングステイル家の大切な三男“サード・サングステイル”はこの世から存在を消し去った。



サングルテイル領で育ち、周りから愛されて育ったはにかみ屋の美貌の少年はもう、いない。



「ソフィー、約束を最後まで守れなかったな。すまない、、、」




夜の唄を歌う精霊すら沈黙する、哀しい、夜だった。



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