表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見る時計と黒猫咲夜  作者: しきまゆ
第一章
9/29

透明の刺客

ミノタウロスは、右手と左手で、交互に斧を持ち替えながら――こちらの様子を伺っている。


牛野郎の首には時計が着いていない。誰かがどこかから操作しているのだとしたら、命を懸けて倒したところで、徒労に終わるかもしれない。


だが、こいつを倒すことが、このニセモノの空間から脱出する条件だとしたら……戦う価値は十分にある。


時計を出し、「夕立」を発動させ、咲夜の姿が変わる。

白塗りのマスクに、黒いローブ、右手には包丁――「夕立」の姿だ。


牛野郎の手の内はわからないが、こっちから攻めさせてもらう。

咲夜は、静かに、それでいて爆ぜるように踏み込む。


倒れこむほどの前傾姿勢で、敵の足元を捉え、包丁で6箇所斬りつける。

敵の視線が、足元に向かれた隙に、背後を取り――後頭部を狙い、刃を下ろす。


敵は前方へと回避し、頭を狙った攻撃は、背中を切り裂いた。

急所は外したが、咲夜には確かな実感があった。


いける……昨夜の人型スライムは、体に刺さった刀を投射することで、背中からも攻撃が出来、かつ、遠距離でも近距離でも戦える強敵だった。


そいつと比べればなんてことない、牛野郎は動きが遅く、接近戦で後れを取ることはないだろう。


次は正面から心臓を狙わせてもらう。

小細工は必要ない、ただ圧倒的な速度の差が勝敗を決める。


ナイフのように鋭い跳躍で、敵との距離を詰める。

だが、咲夜は慣性の法則を無視するが如く、進行方向を真後ろに変えて――飛ぶ。

それは、敵の姿が一瞬で消えたからだ。


消えた……?

勝てないと判断して能力を解除したのか?


しかし、正面から足音響き――消えたのではなく、透明になったことに気がつく。

「しまったっ!」


敵の斧が風を切る音を聞いた。

刹那、力任せで回避する。無理な体制での緊急回避であったが、軽やかに着地する。


「夕立」の姿は、無機質な殺人鬼みたいな出で立ちであるが、「黒猫」の能力よりも、猫の能力を受け継いでいる。


人間の身体能力をそのままに、猫のような柔軟なバネを持ち、しなやかな動きが可能。

強引なジャンプでも、体をねじり、華麗に着地することが出来るのだ。


「見た目のわりに、姑息な戦いをするんだね」

透明の敵と戦うのは分が悪い、一度引いて、態勢を整えよう。

廊下を疾走し、階段を飛び降り――ミノタウロスから、一度逃げるのであった。



咲夜は「夕立」の姿で、体育倉庫のシャッターを素手で強引に引き上げる。

お目当ての品は、グラウンドにラインを引くための「カラー石灰」。


こいつをぶち当てれば、やつの透明化を無効化出来るはず。

赤色の石灰が詰まった袋を一つ、手に取る。


最初、牛野郎が姿を現したとき、奴は透明ではなかった。

何故だ?透明の状態で近づけば不意打ちが出来るはずなのに。


もしかしたら、透明化になるための条件があるのかもしれない。

敵の能力を知れれば弱点を突けるのだが……。


壊れたシャッターを再び下げて、体育倉庫に籠城する。

「この異空間で長期戦はしたくないのだが、仕方がない……」


「はーい、咲夜くん、美優お姉さんよ~聞こえるぅ?」

時計から美優の声が聞こえる。


「あぁ、聞こえているよ、どうしたんだ?」

「人形でそれらしい奴を見つけたわよ。咲夜くんを攻撃している奴かもしれないわ」

「どんなやつだ?」

「場所は図書室、男性の二人組よ。二人とも首に時計を着けているわ、一人は眠っていて、もう一人はそれを守るようにそばを張っているわ」


僕の命を狙っている奴が二人いると仮定して、一人は僕を架空の学校に転移させた奴、もう一人の寝ている奴が、牛野郎を操っているのかもしれない。


「倒せそうか?」

美優に問いかける。


「可能だけど、私自身が図書室に行く必要があるわ。私の人形は、私から離れれば離れるほど弱く、小さくなるから、敵を倒すなら人形との距離は最長でも5メートル。今、私がいる場所は家だから30分はかかるわよ」

「問題ない。頼んでもいいかな?」


「えぇ、いいわよ。可愛い後輩を守るためよ。デートで手を打ちましょう」

「ん……?」

汗が頬を流れる。


「デートしてくれるなら助けてあげる」

はっきりと聞こえた。


「こんな時にふざけないでくれよ……」

顔を真っ赤に染めて、言い放つ。


「あ!スーパーで半額弁当が売られる時間だわ!急いで行かなくっちゃ!」

電話越しで、彼女の悪魔のような笑顔が浮かんだ。

「君は金持ちなんだから、半額弁当とは無縁だろう?……そもそも、朝の9時に半額弁当とか無いですからね」


「どうする、死ぬ?」

「……わかったから、頼むよ」


「デート決定ね!あと、私のこと『美優先輩』と呼びなさいって何度も言ったわよね?『君』って呼んだ罰、受けてもらうから」

美優は冷たい声でそう言うと、通話を切った。


「……」

まぁ、これで何とかなりそうだ。


通話越しで、彼女が自転車を全力で走らせる音が聞こえた。

きっと、30分以内でことは終わるだろう。


牛野郎と無理に戦うことはない。むしろ、牛を動かしている時間、敵が無防備となるならば、倒さない方が良さそうだ。

「鬼ごっこ……いや、かくれんぼってわけだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ