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夢見る時計と黒猫咲夜  作者: しきまゆ
第一章
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仲間

深夜2時ごろ。

咲夜は、ロボットからの「手を組みましょう」という提案を受け入れることにした。

そのために、ロボットの部屋へと向かっている途中だ。


指定された部屋の場所は、高級タワーマンションの一室。

夕月駅前――商店街や大型商業施設が広がる、まさに街の中心部。

市に訪れる者のほとんどが、この夕月駅で降りる――市の入り口、玄関のような場所だ。


駅から3分の高級マンションって、どんだけ金持ちの家なんだ……。

そんなやつ生徒数4000人の博台学院にも早々いないはずだ。これから直接会って話さなくても、相手を特定できそうな気さえする。


今、咲夜は人間の姿である。セキュリティの関係で、部屋に行くにはエントランスを通る他ない。猫の姿でも入り口で番号を入力することは可能だが、余計な騒ぎを起こしたくない。なので、人の姿で部屋番号を入力し、ロックを解除してもらう。


エントランスを抜け、エレベーターを使い12階へ上る。

部屋の前までたどり着き、震える指でチャイムに指をあてる。


緊張はしてない……。いや、ありえないが、緊張をしていると仮定しよう。

理由はなんだ?戦いになる可能性があるからだ。

深夜に、知らない女性の自宅に行くくらいで心が波立つわけが……ないはず……多分。


ドアの前で棒立ちして一分経過。


「……」

自分の情けなさに頭を痛める。

何かを失ったわけでもないのに、失墜感に襲われる。

知らなかったのだ。自分がこんな臆病な人間だとは……。


しなびたキノコのように打ち沈んでいると、目の前の扉が開いた。

「え……あなたは何をしているのかしら……?」

ドアの前で萎れた咲夜を見て、彼女は困惑する。


「何もしていませんが、君がここに呼んだんだろ?」

「呼びましたけど、チャイム押しなさいよ……」

「……」

「まぁいいわ、中に入りなさい」

「……はい、お邪魔します」


玄関へと入り、リビングまで案内してもらう。

さすが高級マンションだ。目を見張るほど上質な空間となっており、窓から見下ろす街の光は美しく、初めて見る夕月市の光景に目をうばわれる。


「うわ……こんな風に見えるんだ……」

「ちょっと見とれていないで、座りなさいよ」

彼女はテーブルに腰かけ、腕を組んでいる。


「あぁ、すまない。少しはしゃいでしまった。でも、ひとつ疑問が解けたよ」

「疑問って何かしら?」


「リスクがあるにも関わらず、いとも簡単に自宅を紹介した理由だよ。この部屋は別荘なんだろう?物が少なくて部屋は片付いているけど、ほこりは溜まっていて、あまり生活感があるとは言えないかな」

「えぇ、その通りよ。ただ、儀式のために新しく買った部屋ではないわ。元々あった部屋を活用しているの」

彼女はニヤニヤと笑みを浮かべている。


僕は、彼女の正面の席に座る。

「それじゃあ早速だけど、時計の針を見せてくれ」

彼女の針は3本。そう聞いたからこそペアになろうと思い、ここに来た。

「あら、それよりも自己紹介が先じゃないかしら?」

「時計の針が先だ」

「はいはい」

やれやれといった顔で彼女は「現出」を発動させる。


彼女の胸に浮かび上がった夢見時計は赤色であった。

針の数は……確かに3本ある。

「よし、ペアになろう」

「あなたって現金な人ね」

「生き残るために徹底しているだけだよ」


お互いに「契約」を発動させる。

これは、ペアとなるために必要な過程であり、お互いが直接会っているときに「契約」を発動することで、正式に仲間となることができる。


ペアを組むメリットは複数ある。

① 協力して生存確率を上げられること

② 儀式に生き残れるのは1名ではなく、1組。つまり、ペアとは一緒に儀式を抜けられる。

③ 夢見時計を通して、お互いがどこにいても会話することができるようになる。それも、心で繋がり、音を使わずに会話できるため、盗聴の危険がない。


強力な制度であるがゆえに、その使用には制限がある。

① 互いの合意でペアを解消したとき、その二人は、その後4か月間、誰ともペアを組むことができない。

② どちらか一方の意思のみでペアが解消されたとき、その二人は、その後6か月間、誰ともペアを組むことができない。

③ ペアが死亡したとき、残された者は1年間、誰ともペアを組むことができない。


最後の制限は、二人を一蓮托生とさせるためのものだ。ペアが死亡することで残された者は絶大なダメージを負う。だからこそ、裏切りの抑止力となり、自分の命を担保する盾として機能する。


「契約」が成立した。

これで、僕と彼女は仲間だ。

「よし、帰ろう」

要件が済んだので席を立つと――


「ちょっと、あなた待ちなさい」

彼女はこめかみに青筋を立てている。

「何?僕、眠いから早く帰りたいんだけど……」

僕は、あからさまに嫌そうな表情を浮かべる。


「私、あなたの名前すら知らないんですけどぉ?」

「時計を使っていつでも話せるんだから、別に今じゃなくてもいいだろ……」

事実だ。今では授業中にでも情報共有ができる。

「せっかく、顔と向かって話しているんだから、今よ!さぁ、席に戻りなさい!」

今、何時だと思っているんだ……もう深夜の2時半だぞ……。


――苦虫を潰したような顔で自己紹介をした。


毎日更新していきます

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