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夢見る時計と黒猫咲夜  作者: しきまゆ
第一章
2/29

存在しない学校

あの日、少女と出会ってから一週間が過ぎた。

正確には時間の進まない空間での一週間なので、現実の時は進んでいない。


時間の止まったあの学校にて、僕は異能を発動させる夢見時計の使い方を学び、その合間にて、戦いを生き残るための戦略を練った。


あの空間に存在した学校は「博台学院」という名前の学校であった。

ゲーム開始と共に、博台学院は現実世界に現れ、本来存在していた夕月市内の高校は消える。夕月市内の高校生全員と儀式の参加者はその学校の生徒となるように世界が書き換わるとのことだ。


儀の参加者に年齢制限は無いと少女は言っていたが、高校の生徒となり過ごす以上は、おそらく、年齢にブレがあっても下は中学生、上は大学生くらいだと予想している。


儀の開始は2月22日の月曜日、博台学院の朝礼終了を合図にペンダントが使えるようになり、儀が始まる。


現在は2月22日、朝の6時。儀式まで3時間ほど余裕がある。

ペンダントの能力、学校の構造。戦いに有利な場所、不利な場所、逃走ルート。

一週間というリミットの中、万全とはいかないが準備してきた。


これで死ぬなら、そういう運命だと受け入れる他ない。

頭の中で儀式のことをあれこれと考えていたところ、家のチャイムが鳴り、現実へと引き戻される。


リビングを抜け、玄関へと向かう。こんな時間にやって来る人間は一人しかいない。

玄関を開けた先には、制服姿の女性が一人。


女性は眠そうに目を細めていて、咲夜はどことなく睨まれているような気もした。

彼女の名前は「雲荷京子」、小学校からの幼馴染だ。


左右を黒いリボンで結ばれた金髪。雪のような白肌の彼女は、どこか哀愁を漂わせており。

生気のない細面は、幽霊と見間違えるほど、淡く透き通っている。


京子はありがたいことに朝食を毎日作りに来てくれている。


「おはよう咲夜くん。あれ……、今日はどうしたの?」


京子を玄関で迎えるとき、普段なら僕はまだパジャマの姿だが、今日は儀式のこともあるため、早起きして既に制服に着替えている。そのことに京子は驚いているようだ。


「あぁ、昨日早く寝ちゃったせいか、早く目が覚めたんだ」

「ふーん、なんか怪しい……。浮気とか……してないよね?」


京子はあからさまに睨みつける。

「朝から何怒っているのさ……、早起きしただけで何もしてないでしょ」


儀式があるから早く起きただけで、それ以外に理由はない。

浮気だなんて事実無根だし、そもそも僕と京子は付き合っていない。


京子はとりあえず保留とでも言いたそうな顔でキッチンへと向かう。

今日の朝食は食パン一枚かな……。


京子の作る朝食は必ずといっていいほど、その日の機嫌が料理に反映される。

機嫌の良い日は、おかずが10品目あったり、機嫌が悪い日は、丸皿に食パン一枚が乗っているだけ……そんな感じだ。


しかし、テーブルに並べられたのは、ごはん、卵焼き、味噌汁。予想よりもまぁまぁ普通であった。

朝食に関して、咲夜の予想が外れることは珍しい。


そもそも、なぜ機嫌が悪いのかもわからないし、京子の調子が読めない。

「京子、何かあった?」

スズメバチの巣をつつくかのように、恐る恐る質問する。

「何もない」

京子がそう答えると、二人の間に沈黙が流れる。


絶対に何かあったやつじゃないか……。

目の前で黙々と食事をする幼馴染を尻目に、小さくため息をつく。



AM 7:50


京子と二人で博台学院へと続く歩道を歩いている。

僕と京子が通うのは「博台学院」

儀式のために生成された学校だ。


それまで存在していた、夕月市内11校の高校は消え、市内唯一の高校となった。

市内高校生は全員が、博台高等学校の生徒となっているらしく、生徒数は4000人を超えている

だが、その異変を認識できるのは、儀式の参加者のみで、他の人は認識していない。

以前通っていた高校の制服が消滅したことから、世界に矛盾が残らないように、物や記憶が改変されていると考えられる。


しかし、記憶を改変されていない儀式の参加者は博台学院の記憶を持たない。

物までもが都合よく書き換えられているので、学校で配られたプリント用紙やネットを使い、博台学院について必要な情報は得ることができた。


だから、学校の場所はもちろん、自分のクラスや、クラスメイトも把握出来ている。


「なんか、咲夜くん、ぼーっとしてない……?」

「え…あぁ大丈夫だよ……」


いつも通りを装っているつもりだが、ダメみたいだ。

京子とは長い付き合いだから、小さな変化にも気が付いてしまうのだろう。


僕が気になっているのは、さっきから視界に入っている博台学院だ。

まだ、学校まで距離があるのにハッキリと見えるほど、その学校は大きい。


市内の高校生全員が博台学院に飲まれたことを考えれば、学校が大きいことは当然のことなのだろう。

学校へと近づくにつれ、心臓の鼓動が速くなる。


儀式の参加者は全員が、この学校に通う。

つまり、学校は最も危険な戦場の中心だということだ。


朝礼が終わり、儀式が開始した瞬間に学校が血の海に……そんなこともありえる。

一週間の準備期間で、この夢見時計の殺傷能力は痛いほど理解できた。


制服姿の学生がちらほら目に入る。学校まで後少しだ・・そんなことを考えているうちに、博台学院の入り口、400メートルほどある長い長い坂道が見えてきた。


この長い坂も含めて学校の敷地だ。坂道へと続く入り口こそが校門ということになる。

これ……上るの面倒だなぁ……。


咲夜のため息を京子は見逃さなかった。

「何?私といて退屈?」


これで、火に油を注ぐの何度目だろう……。


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