第九十九話 天使の力
このままだと、串刺しの二人の命が危ない。
どうやらさっきのD班も後ろで治療を受けているけど、かなり危険な状態のようだ。
「何か他に魔法は無い?」
「あとは、メールの水塊とかウィントの盾とか」
「まだ使ってないのはブリクスムの雷鳴ですわね」
「それみんなどういう魔法なの?」
「水塊は水の塊を撃ち出すもので、盾は風で出来た盾です。雷鳴はそのまま雷を撃ち込みます」
名前の通りか。
水は勢いよくぶつければダメージを与えられるかもしれないけど、あの二人を盾に使われるとマズイ。
風の盾にボクを守らせて、突っ込むか?
それも、あの二人で攻撃される事を考えると嫌だな。
雷なら盾にして防ぐとかは出来なさそうだしいけるか?
「その雷鳴なら、うまくあの二人を避けて当てられそうかな?」
「普通のサイズなら、当てるのは出来ると思います。でも、リーンハルトくんの魔法はちょっと違う魔法みたいに強力になるので、範囲が広くなりそうです。そうするとあの二人も攻撃を受けてしまうかも」
ああ、もう!
他の人に弱めに撃ってもらうか?
でも、そのくらいで少しずつダメージを与えていたら二人の命が先に尽きてしまう。
「リーンハルト!宰相のクラウゼンから話を聞きましたが、あなたを刺したあの女子の体に入っていたのですよね」
「え?フリーデ王女?なんの話?」
「いいから。話によるとその時にはあなたは天使の魔法を使いこなしていたらしいですわ。今も使えるのではないの?」
「天使の魔法?なんだか凄いな。その名前はわかる?」
「あ、ごめんなさい。そこまで分からないわ」
ダメか。天使の魔法というのであれば、何か凄い事が出来そうだったのに。
「そのお話はもしかして、トリーアの聖女の事ではありませんか?」
「レクシーさん?聖女って、ボクは男ですよ?」
「リーンハルトくん。ですから、今まで女の子の姿で過ごしてたんですって」
「リーカ?え?ボク、女装してたの?」
「違いますよ。茶色の長い髪にスカイブルーの瞳のとても美しい女の子です。背の高さはリーンハルトくんくらいでした」
リーカは見た事があるのか。
そう言われると、その女の子はボクも見た事がある。
今ストレージとか言うスキルの中にしまってある、あの女の子がそんな見た目だった。
あれが、前のボクの姿だったのか。
「その聖女は熾天使の翼を持ち、人々を癒して回ったと聞きます。熾天使の力といえば代表的なものとしては、セラフの翼、鞘より抜かれし剣、アザレアの杖と水筒、終末の七つのラッパ、これらが伝説として残っています」
「その内の一つの翼を使っていたという訳なんですね」
それを使ってみるしかないか。
「セラフの翼!」
バサァ
何だ?ボクの背中に翼が出たのか!
「て、天使の翼の!?ほ、本物!?」
「本当に、、、まったく、あなたには驚かされますね」
セラフの翼
行使する翼を選択してください
第一の翼 神判代行 嘘を見破る力
第二の翼 命の源泉 生命力回復
第三の翼 空虚反転 損傷や欠損の回復
第四の翼 擬グングニール 雷の投げ槍
第五の翼 戒めの鎖 人や物の座標軸固定
第六の翼 窓を破壊する者 ステータス変更
[セラフの翼を終了する]
おお。何だこれ。
6つの機能があるのか。
丁寧に機能の説明まで付いていて分かりやすい。
「よし、多分武器らしいこれなら!擬グングニール!!」
左の真ん中の翼がバサッと動いたと思ったら、右手に槍の形をした雷が出現する。
先端は三つに分かれて、投げ槍という説明通り、投げやすい長さ、形状をしていた。
でも、これを投げても、人形はあの生徒達で防ごうとするかも。
『ターゲットを指定してください』
音声と文字で、同時に聞かれる。
この声は周りのみんなの反応からすると、普通に聞こえているようだ。
これには声で答えればいいのかな?
「ええっと、、、目の前の人形!」
『ターゲットロック。目標、精霊ウンディーネの抜け殻。擬グングニールを投擲してください』
これで、当たるようになるのか?
ああ、もう時間がない!
えいっ!
擬グングニールを人形目掛けて投げつける。
人形は剣で貫いた生徒をまた盾がわりにしようと槍へと向ける。
ああ!やっぱりダメか!?
そう思ったけど、生徒達に槍が当たるがそのまますり抜けてしまう。
槍は人形本体に当たり突き刺さると、そこで放電が始まる。
生徒達には雷の効果が届かないみたいだ。
バリバリバリバリ
雷鳴が鳴り響き、人形は煙をあげて焦げていく。
ズルズルと人形は崩れ落ち、最後には手や足の部品がバラバラになって壊れてしまった。
「よし倒した!あの二人を助けないと!」
近くに駆け寄り、二人の生徒の容体を見る。
「こ、これは、、、。残念ですが。もう、、、」
「くっ、間に合わなかったか。、、、いや!まだだ!窓を破壊する者!」
ステータス変更ができるなら、まだ何とかならないだろうか。
左の一番下の翼がバサバサと動く。
『対象を選択してください』
「名前分かんないけど、この人!」
寝かせられた女の子の肩を掴んでそう叫ぶ。
『対象、アデリナ・バーレ』
この子のステータスが見えた!
生命力 0/528
状態 生命活動停止
生命力と状況を見るとこうなっていた。
も、もう間に合わないか!
でも、まだ死んでいるのとは違うようにも見える。
それにステータスの機能が動いているんだから、まだ間に合うかもしれない。
「リーンハルトさん。その、、、残念ですが、死んでしまった方はどんな魔法でも治りません。蘇生魔法というのは無いのです」
いや!まだ死んだわけじゃないんだ!状態が「死亡」じゃないんならまだいけるはず!
「生命活動停止」と書かれている部分を触り、「正常」と書き換える。
生命力 1/528
状態 瀕死/身体損傷/腕欠損
すると、すぐにこう変化した。
よし!何とかなる。
「空虚反転!命の源泉!対象、アデリナ・バーレ!」
左上と右の真ん中の翼がバッサバサと羽ばたく。
アデリナさんの体がキラキラと輝き出し、傷や失っていた腕などが元通りになっていく。
生命力 528/528
状態 正常
これで、生き返った筈だ。
「う、、、ううん、、、あ、あれ、私は、、、生きてる?!」
見ていた人たちから歓声が上がる。
「生き返らせたのですか?凄いお方だとは思っていましたが、天使の力を使い、亡くなった方を蘇らせてしまうなんて、、、、もう言葉が出てこないです」
「うまくいってよかった、、、。まだだ!こっちの人も蘇生させないと!」
もう一人、一緒に串刺しになった男子生徒も同じように復活させる。
こっちも間に合った。
生命力も状態も良好だ。
「あ、、、何で俺は、生きているんだ、、、」
「よ、良かった。助かったのよ!」
さっき蘇生した女の子と抱き合って喜んでいる。
良かった。
「うっ」
ガクッと力が抜けていく。
目眩がして、立っていられないくらい、手足に力が入らない。
「リーンハルトくん!大丈夫ですか!?」
「た、大変!マナ枯渇になっています!早く回復をしないと!」
一人目でかなりマナが減ったのは分かってはいたけど、こんなに足りなくなるとは予測を間違えた。
「こっちの二人ももう息をしていないんだ!さっきの魔法でこの二人も復活させてくれないか!」
「いけません!もうリーンハルトさんはマナが殆どない状態で大変危険なのです!この上まだ二人の蘇生はとても無理です!」
「だ、だれかマナポーションは持っていませんか!」
ううっ。
目が霞む。
かなりマズイかもしれない。
「リーンハルトさん!わたしのマナを渡します!受け取れますか!」
レクシーさんがボクにぎゅうっと抱きついてきた。
ああ!もっと元気なら嬉しい状況なのに、今は意識が朦朧としてきて、よく分からない。
でも、レクシーさんからマナが流れ込んで来るのが分かる。
暖かくて、優しいマナだ。
だけど、レクシーさんのマナは暖かさを感じるけどボクの物になる訳ではなく、時間が経つと霧散してしまう。
どうにかして体内に取り入れなければマナ枯渇は解消しないようだ。
「お願い!マナを!受け取って!」
「リーンハルトくん!何かいつもみたいに凄い事をパッと出来ませんか!」
リーカは無茶を言うなあ。
前からそうだったんだろうか。
そうは言っても気合だけじゃどうにもならないし、、、。
『マナの供給を感知しました。充マナを開始しますか?』
「え?えっと、、、は、はい」
『充マナを開始します。現在の充マナ率1%』
あ、少し楽になった。
レクシーさんのマナを取り込んで枯渇状態から抜け出したんだ。
「あ!顔色が良くなって来ましたよ!」
「ああ!リーンハルトさん!良かった!受け入れてくださったのですね!」
充マナ率3%まで回復すると、だいぶ楽になる。
「はあはあ。ど、どうでしょうか。わたしのマナの大部分をお渡ししました。こ、これで、あの方達の蘇生は出来ますでしょうか」
「あの、レクシーさん、とても助かったのですけど、二人の蘇生にはまだ、今の4、50倍は必要そうです」
「そんなに?!マナのキャパシティが桁違いですね」
だけど、どうにかしてマナを回復しなければあのD班の二人は助からない。
「リーンハルトくん自身の回復って出来ないのですか?」
え?どうだろう。この翼の説明からすると、マナを回復する物は無さそうだし、あと3%なのに迂闊に使って、うっかり0%にでもなってしまったら死んでしまうかもしれない。
あとは、他の熾天使の力か。
剣とか終末とかが名前に付いているのは違うだろう。
残りはアザレアの杖と水筒というものだ。
さっきのセラフの翼のように、一度説明が出てくれれば、何か使えるものがないかわかるはず。
「アザレアの杖と水筒」
『警告。アザレアの杖と水筒はインストールされていません。ご使用になるにはインストールが必要です。インストールを実行しますか?』
な、なんだろう。でも、それを実行しないといけないんだろう?なら答えは決まっている。
「はい!」
『ルート権限にてアザレアの杖と水筒のインストールを開始します。ソースファイルをダウンロード中』
これは、時間がかかるのか?
『ダウンロード完了。解凍中……解凍完了。コンフィギュア……メイク……メイク インストール………………』
何かは進んでいるんだろうけど、いつまで続くのか分からない。
早くしてくれ。
『サービス 魔法デーモン リスタート』
え?何?
魔法の悪魔?一体これは何をしてるんだ?
えっと。何も表示されなくなったな。
え?これ、終わったのかな。
終わったんなら終わったって言ってよ。
もう一度起動が必要?
「アザレアの杖と水筒!」
アザレアの杖と水筒
使用する機能を選択してください。
杖 スキル作成スキルにより解析中…
水筒 スキル作成スキルにより解析中…
リュック スキル作成スキルにより解析中…
おお!使えたぞ!
あれ?でも説明のところが解析中ってなっている。
スキル作成スキルというのが説明文を作っているという事なのか。
さっきも説明が付いていて分かりやすいと思ったらそう言った仕掛けが働いていたんだな。
少し待つと説明文が表示された。
アザレアの杖と水筒
使用する機能を選択してください。
杖 アザレアの杖 怪我、病気の治療
水筒 アザレアの水筒 マナの回復
リュック アザレアのリュック 薬やポーションを出す
[アザレアの杖と水筒を終了する]
あったあった。
名前、大した意味ないな、そのままって感じだ。
そう言えばさっきは終了のボタンはなかったけど、説明が出てくるのと同時にこのボタンも現れた。
これもスキル作成スキルが出してくれているのだろう。
「アザレアの水筒!!」
『対象を指定してください』
「えっと、ボク?」
『ご自身の回復はできません』
何ぃ!?
そんなあ、、、。
「じゃあ、レクシーさん」
『対象、アレクシア・ツヴァイク。マナの回復を開始します。水筒の水をお飲みください。現在の充マナ率6%』
こう見ると結構ギリギリまでレクシーさんはボクにマナを分けてくれていたんだ。
レクシーさんの手の中に水筒が現れる。
これをボクが飲んだらダメなのかな。
「ちょっとそれを貸してもらえますか?」
「え、ええ。どうぞ、、、あら。手から離れませんね。それではこのままどうぞ?」
レクシーさんが両手で水筒を持っているから、少し変な体勢になる。
あ、ちょっと近い。
もう、ドキドキしてる場合じゃ無いんだから!
あれ?水が入っていない。
やっぱりボクだと飲めないのか。
「ダメみたいですね。やっぱりレクシーさんが飲んで貰えますか?」
「そうですか、、、。ちょっとドキドキしたんですけどね?それならわたしが、、、、はあ、美味しいですね。あ、、、マナが回復していきます。リーンハルトさんは回復出来ないのですね?」
「はい。ボク自身は回復出来ないみたいです」
『マナを全回復しました』
早いな、もう100%になったんだ。
「すみませんが、さっきのマナを受け渡すのをまたやって貰えますか?皆んなもお願いできるかな?」
「ええ、分かりました。同じくらいまでいきますね」
「あまり無理しなくていいですよ。また、今のですぐマナを補充しますから」
皆んなに囲まれてマナを一斉に流してもらう。
一人からは4%くらいは貰えていたから、ここにいる人達皆んなから2周ずつ貰ってボクの充マナ率は98%にまでなった。
これで、二人を蘇生できる筈。
まずは二人とも「生命活動停止」から一度「正常」に書き換えてしまう。
瀕死にはなったけど、これで治療とか回復をしたら、またマナ枯渇になりそうだよね。
今って、どれくらいのマナなんだろう。
「ステータスウィンドウ!」
ん?出ないな。なんでだ?
「ステータスウィンドウ!!!」
(あの、、、リーンハルトくん?リーンハルトくんはステータスウィンドウ使えないですよ?)
え?、、、どういう事?ボクって窓無しだったの?!




