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第九十八話 団体戦

「この精霊は妖魔が纏わり付いていましたわ」

「妖魔が体を動かして、攻撃は反射的に動いていたように見えましたね」

「地方の町では、近づくと攻撃をする人形が多数現れたという話を聞きました。その人形を妖魔が動かしていたのでしょう」


 動かないはずの精霊の抜け殻が、自由に動き回るようになった事で、より危険性が高まった。

 妖魔とやらは火に弱いらしいから、今みたいに触手の攻撃さえ抑えられれば倒す事はできそうだ。


「リーンハルトさん!ご無事ですか?」

「ああ、生徒会長さん。戻ってこられたのですか?」


 帰ったはずの生徒会長さん達が走って近づいてくる。

 でも、生徒会長さんはぷくぅっと頬を膨らませている。

 こんな表情もする人なんだ。


「んー。そんな他人行儀な呼び方しないでください!わたしの事はレクシーって呼んでくれなければお返事しません!」


 学年も上っぽいし、生徒会長さんなのにいいのだろうか。

 そういう仲だったって事なのかな。

 皆んなが注目している中で呼ぶのは少し恥ずかしい。


「レ、レクシーさん」

「はい!笛が聞こえたので急いで戻ってまいりました。リーンハルトさんの変わった魔法で精霊の動きが遅くなった所は見えていたのですが、ここまで来る前に戦闘が終わってしまい、間に合いませんでした。ごめんなさい」

「いえいえ!だ、大丈夫ですよ。皆んな連携して倒せましたから」

「ええ。とても素晴らしかったです。でも、あの魔法は一体なんだったのですか?魔法名も聞いたことのない発音でしたが」

「あれは魔法では無くて、術式と言います。あ、でも、それより魔法と言うものの方が素晴らしいじゃないですか!なにせ火がいきなり飛び出してくるんですから!」


 はあ、と、レクシーさんが頷くけど、何か腑に落ちないと言った表情だ。


「リーンハルトさんも魔法が使えたではないですか?お一人で様々な魔法やスキルを使いこなしていて、呪文も唱えずに、、、まるで王宮魔導師様のようでした」

「そう、でしたっけ。あはは、、、。あの、、、実はボクは今記憶が」


 ピィーピィー!!


 また笛がなる。またいたか!

 皆んな急いで音のした方へ向かう。


 今度は3対の人形がいた。

 移動速度は歩く程の速さだから、追いつかれる事は無さそうだけど、倒そうと近づくと触手に阻まれて攻撃出来ないているようだった。


 また、押さえつけておいて、周りから火の魔法を撃ち込んでもらおうか。

 そうだ、レクシーさんがボクも魔法を使っていたって言ってたっけ。

 忘れてるけど、今のボクも使える筈だよな。

 ちょっとやってみよう。


「えっと、確か、ファッケルの火」


 手を一体の人形に向けて、魔法名を唱える。

 おお、何だかカッコいいぞ!

 掌から卵くらいの大きさの青白い炎の塊が現れ、ヒュッと人形に向かって飛び出す。

 皆んなのとちょっと違う。

 名前間違えたか?


 炎の卵は人形に当たると、一気に炎が広がり、人形をすっぽり包む程のサイズになる。

 そのまま、火柱のように炎が上へと伸び、天に届くかと思うくらいの高さまでの大きさになる。


 熱い!離れた場所から撃ったのに、熱がここまで来る。


 ゴオオオオォと炎自体が音を立てて熱と光を放ちながら人形を焼いていく。

 魔法の効果が切れたのか、急に炎が消え、何事もなかったかのように、熱さも青白い光も無くなった。

 ただ跡に残った焦げ跡だけがそこに人形が居たことを示していた。

 ドロドロどころか、人形の燃えかすさえ見当たらない。


 超高音の炎で何も残さず燃やし尽くしてしまったらしい。


「あれえ。なんか変だな」

「ファッケルの火であの熱量を出すなんて、流石リーンハルトさんですね。お一人で戦術級魔法に匹敵する火力を軽々と操れる方は王宮にも居ないと思います」

「や、やだなあ。レクシーさん。持ち上げ過ぎですよ」

「いいえ!わたしはあなたが将来王宮魔導師、いえ、国王にさえなれる器だと信じております!」


 レクシーさんの熱弁に周りもざわざわと騒いでいる。

 まあ、実際に王様になれとか今の王様には言われてる訳なんだけども、あれも何かの間違いなんじゃないかなって気がしている。

 クリス大魔王を見て王様がやけになってるだけだったりして。


 あとの二体の人形も今の魔法でやっつけてしまおうかとも思ったけど、他のグループの人達が剣で応酬していて、あの火力だと危なすぎた。


 援護しようと剣を抜いて触手を弾こうとするけど、他のグループの子が間に入ってくる。


「邪魔しないで!私達だけで倒せるんだから!」

「お前らは王立学園だろう。こっちの手柄を横取りするんじゃねえよ!」


 制服が違うなあと思っていたけど、別の学校の生徒だったらしい。

 手柄とか気にしてる場合じゃないような気もするけど仕方ないか。

 もう一体の方も同じ制服の生徒が囲んでいるので、二つのグループは同じ学校なのだろう。


「少し退がって様子を見ましょう。危なそうになったら無理にでも援護する準備だけしておきましょう」

「はい。レクシーさん」


 生徒会の人達と僕達のチームは距離を開けて、戦いを見守ることにした。

 でも、それなら何で笛を吹いたんだよ、と思ったけど更に別の学校の生徒もいたらしい。

 その人達が先に居て笛を吹いたようだけど、人形にやられて今は後方に退がって治療を受けていた。


 二体を相手にしている生徒達は、連携がうまく二人一組になって、防御をする人と攻撃をする人が交互に切り替わり、それぞれの負担が軽くなるようにしていた。

 しかも、体力が無くなったペアは後ろに抜けて治療班が回復をするようにフォーメーションが組まれていた。


 二体の真ん中に一人指揮官がいるらしく、全体の状況を見ながら指示を出していた。


「D班もう少し退がれ。近付き過ぎだ。F班は回復に戻れ。A班はB班に攻撃が集中しているからカバーだ」


 よく見ているものだ。

 各班もその指示を聞いて瞬時に従っている。

 信頼関係もよく築けているようだ。

 これなら、人形の攻撃を受け止めつつも、少しずつだけど相手の生命力を削っていけそうだ。


「さあ!もう一踏ん張りだ!一撃で倒そうとするなよ!誘いには乗るな!」

「「「「はい!!」」」」


 二体ともドロドロの部分はだいぶ減ってきて、移動はできなくなった。

 後は人形の触手だけど、どちらも3本かたまに4本くらいになるだけで、さっきのように10本とかは出ていないようだ。

 前衛が触手を捌くのに集中している間に、後衛からの中距離攻撃や魔法攻撃を当てていくというパターンがうまくハマっていた。


「イケるぞ!もう少しだ!」



 この人形もさっき僕が剣で戦った人形と同じくらいのマナ量だとしたら、最初のマナ量の3割を割り込んだと思う。

 順調に減ってきている。あと少しだ。


 一瞬人形の動きが二体とも止まる。

 何だ?倒したのか?

 そう思ったけど、人形から触手が、、、いや腕が生えてきた?!

 関節がいくつもあって気持ち悪い。

 腕の先には当然手が付いているけど、その先には剣を持っていた。

 多分触手と同じ物なんだろうけど、剣も掌も触手が形を真似ているだけだと思う。

 その腕が、人形の体の至る所から生えてきている。


 目とか耳からも細い腕が出てきている。

 キモいなあ。


 マナが減ってきた事で、第二段階になったという感じかな。


 触手と違ってこの腕には人間と同じで骨と筋肉があるらしく、さっとは桁違いに力強くなっていた。

 しなるような攻撃から力まかせの攻撃に変わった。

 生徒達はそれを受け止める事が難しくなってきて、ダメージを受ける回数が増えてきた。


「G班退がれ!回復だ!A班!もう少し耐えるんだ!後方にまで攻撃が通ってきているぞ!」


 ダメそうかな。

 攻撃を捌き切れなくなってきている。


「加勢しますよ!」

「ダメだ!我々だけで、対処できる!退がっていてくれ!」

「いや、でも、もう戦形を保てなくなっていますよ」

「まだだ!回復急げ!」


 もうダメだ。

 人形の腕を捌いている人数より腕の数の方が多くなってきている。

 後方支援の役割をしている人にも攻撃が当たってきている。

 指揮官のひとにはダメだと言われているけど、もう援護しないとマズイことになる。


「ぐああああ!!」

「ダメええ!!保たない!!」


 1組のペアの所が崩されてしまう。

 そこに人形の腕が集中する。

 防御できなくなった生徒はなされるがままに何本もの剣に刺される。


「マズイ!D班の場所にA班が入れ!体勢を立て直すんだ!」


 A班と呼ばれたペアは負担が大きかったらしく、今やられたD班の穴埋めに入るけど、集中した腕には抵抗らしい抵抗も出来ず、切り裂かれていく。


 しまった。ためらっている場合じゃなかった。


「レクシーさん!行きます!」

「ええ!皆さん!二手に分かれて、まずは攻撃を押さえつけて!」

「「「「はい!!」」」」


 今まで戦ってきていた生徒達に代わってウチの学校の生徒が人形の攻撃を防いでいく。


「くっ、す、すまない」

「いいから!負傷者は退がって!」


 下手に前に居られると攻撃も出来ないし護らないといけないから、邪魔でしょうがない。


 少しでも動きが鈍った人は首根っこを引っ張って後方に投げ飛ばす。


「うわあっ」

「きゃああっ」


 文句は後で聞く!

 今は人形を倒しきる!


「リーカ!」

「はい!」

「皆んなに攻撃が当たらないで、敵にだけうまくダメージを与えられる魔法ってない?さっきの炎みたいに普通より大きくなってる前提で!」


 多分ボクが魔法を放つと、他の人よりほんのちょっとだけ大きめになるみたいだ。

 いやホント、ちょっとだけだよ?

 だから、さっきのみたいな周りにも被害が出そうな魔法だとこの密集戦形では使えない。

 何かこの場面でも被害が少なく、効果的な魔法が欲しい。


「え、えっと。エイスの氷槍だとどうでしょうか!氷の槍を狙った所に当てられますし、一本だけとかだせるので!」

「よし、それでやる!エイスの氷槍!」


 一本だけ出すイメージで魔法名を唱えると、空中に足の太さくらいある一条の氷の槍が浮かび上がる。

 人形に狙いを定めて、槍を射出する。

 動いて避けることのできない人形は何本もある腕で防御しようとするけど、全て突き抜けて人形の体にまで到達する。


 ドッ


 低く鈍い音がして、人形に氷の槍が突き刺さる。

 槍は止まった瞬間にパリンと割れて粉々になってしまうけど、そこには大きな穴がぽっかりと空いていた。


 向こうが見えるほどの大穴だけど、それでも人形はまだ動き続けている。


 でも、今のでコツを掴んだぞ。


「エイスの氷槍!」


 今度は3本出してみる。

 狙いの付け方は大体分かった。

 生徒達に当たらないように気をつけながら、全て射出する。


 ドドドッ


 3本とも命中!

 顔、肩、脚、それぞれに大穴が開く。

 腕の動きも鈍ってきて、皆んなも攻撃が当たるようになってくる。


「エイスの氷槍!」


 今度は細い槍を五十本、出してみる。


「皆んな後ろに飛んで!」


 一斉にバックステップで退がる。

 ペンサイズの槍が人形目掛けて突き刺さる。

 流石に腕に遮られる物もあるけど、半分は体本体に当たる。

 小さな穴だらけになった人形は、、、、見た目気持ち悪い、、、まあ、それはいいとして、、、、人形はガタタッと崩れ落ちる。

 これで、倒せたようだ。


「穴だらけでキモイ、、、、」

「うっ。ごめんよ、こうなるとは思わなかったんだよ。ファッケルの火」


 見るに耐えないからさっきの青白い炎で焼き尽くしてしまう。

 ふぅ。これで良し。


 もう一体を見ると、レクシーさん達生徒会メンバーが苦戦していた。


「リーカ。もうちょっとキモくないの無いかな?」

「別に氷槍ってキモイ魔法じゃ無いんですけどね。あんなに大量にブスブス刺すからですよ!他の魔法かあ、なんだろう。周りに無害そうなのはアールデの壁とかですかね」

「それやってみよう。アールデの壁!」


 人形の周りの地面から土の壁がにょきにょきと生えてくる。壁に囲まれた人形は腕を振り回して、土の壁を壊そうとしている。

 でも、崩したそばから次の壁が出て来る。

 腕の攻撃は壁の外には出なくなった。


 壁に閉じ込めた事にはなるけど、このままという訳にはいかない。

 壁の隙間から剣をぐさぐさ刺してみるけど、これじゃあ、とても倒すまで刺していられない。


 うーむ、どうするか。


「土の壁で囲っているなら炎で焼いても平気じゃ無いですか?」

「おお。そう言われればそうかも。ちょっと調節、、、。アールデの壁!」


 少しだけ大きめの土の壁を作る。

 最初のは人形を抑えつけておくもの。

 次のは炎が外に漏れないためのもの。


「へへ。これなら、いけるでしょ!ファッケルの火」


 青白い炎が上がるけど、壁に阻まれているように見える。

 むしろ壁が人形を守ってしまった。


「リ、リーカぁ。あの壁ってやっぱやめたって出来ない?」

「え、ええ?ああいう維持系はマナが繋がっているので、やめたって念じれば崩れるんじゃ無いですかね」

「うん。よし。やってみる。むむむ、中の壁だけ崩れろ!」


 失敗した。中も外も全部の壁が崩れてしまった。

 炎が漏れ出してくるか、とも思ったけど、結局時間切れで炎の魔法も終わってしまった。


 人形は焦げていたけど、さっきみたいに消え去ってはいなかった。

 やっぱり中の壁が人形を守ってしまっていた。

 蒸し焼き精霊が出来上がっただけだったよ。


「うわあああ!ニコラの仇!!」

「やってやる!!俺達がやられる訳にはいかないんだ!」


 後ろから二人の生徒が飛び出す。

 さっきの別の学校の生徒だ。


「待って!まだソイツ動く!」


 ドスッ ドスッ


 人形に近付いた二人の背中から剣が生える。

 まだ動ける人形の腕に串刺しにされてしまった。


 二人とも力が抜けだらんとしている。

 マズイ。

 あのままだと死んでしまう。

 剣を抜いて助けようとするけど、人形はその二人を盾代わりにしてこっちの攻撃を防ごうとする。

 ぐっ。これじゃあ手出しできないじゃ無いか!


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