第九十四話 新・新生活
ここにいる人達はみんな共通言語が話せたから、意思疎通が全員と出来るようになった。
なぜ、ボクが一国の王様の所にいたり、レリアさんと婚約の話になっていて、それを王様が阻止しようとしているか、というのはわからないままでいる。
話せるようになったのだから、聞けば良いのだけど、それを聞いてしまったら、何か後戻りが出来なくなりそうだったので聞けないでいる。
「しかし、困ったことになったな。これでは、あの話も進められなくなってしまう」
「回復魔法で治らないか試してみましょう」
「婚約は無しにはさせませぬぞ!ヴァレーリアが家族以外に初めて愛を誓った男だ!例え陛下であっても断固死守する!」
「お、お父様ったら、、、。あと一押しです!」
「ああ、私の天使ちゃん………。もっと撫で回していれば良かった………」
き、きっとこれはカオス魔法とか、そう言った物が使われたに違いない。
この人達はどこかの劇団員か何かなのだろう。
そして、ボクの事を驚かそうとしているのだろう。
そんな虚しい現実逃避をしても、この状況は一向に変わらない。
「み、皆さん!落ち着いてください!慌てても何も良くならないですよ!」
「原因のお前が言うな!」
「す、すみません!でも、王様!ボクのような一般市民なんて放っておいても良いのではないですか?婚約もレリアさんとボクの仲を引き裂く理由が分かりません!」
「ああ!とうとうリンが!私との結婚を認めてくれたわ!」
「おお!これはめでたい!すぐに婚約発表をしなければ!」
何か間違えた?!
前のボクはレリアさんとの結婚を嫌がっていたのか?
こんな可愛い人なのに何で?
「いかん!いかん!赤目の剣姫との婚約は一旦白紙だ!コイツは俺の跡を継ぐのだ!王位継承が終わるまで特定の家との繋がりは持たせん!」
「へ、陛下?!リーンハルトくんが王位継承?!そ、それでは、彼が次期国王になると?」
「ああ、まだ、公にするつもりはなかったが、婚約など勝手にされては困るからな!これで分かっただろう!公爵の家にコイツを入れる訳にはいかん!」
何の話だ?
ボクが王位継承?次期国王?
やはり、劇団員だったか。
どこまでおかしなストーリーにたらバレるか、というのでボクをからかっているのだろう。
「皆さん、もう演技は終わりで良いですよ?ボクにバレましたから。どこかからか、この映像を撮影しているのでしょう?」
「フォルトナーさん?混乱されるのは分かりますが、全て本当の事ですよ。あなたが第一位王位継承権を持つことになり、王女が第二位で、王子が第三位となります。これは、先日の枢機院会議でも決定した事でもあります」
記憶をなくす前のボクは一体何をしたんだ?
王女とか王子がいるなら、そっちに国王を任せれば良いじゃなかろうか。
何故ボクにわざわざ王位を継がせようとするのだろう。
「あ!もしやボクは王様の隠し子!」
「そんな訳あるかー!お前のような奴が俺の子な訳なかろう!」
そんな言い方しなくてもいいのに、、、、。
そんな風に思っているのに王位を継承させようとするのは、隠し子以上に何か理由があるという事だろうか。
「まあ、ここで、色々言っていても仕方ありません。まずは王宮魔導師の中でも回復系が得意な者の所で片っ端から治療してみましょう」
「それが一番か。それ以外の話はその後だな」
「ええ。では、フォルトナーさん、行きましょう」
「我々も付いて行きましょう。護衛が必要でしょう」
「ならん!機を伺って、婚約の話をリーンハルトにしようとするのだろうが、そういかんぞ!公爵!お前意外とセコイ奴だな!」
「何をおっしゃる!我が娘が治療にかこつけて思わず抱きついてしまうハプニングなど、決して画策しておりませぬ!」
「ええい。自ら白状しおって、それでもノインの冠か!やるならもっとうまく隠せ!」
もう、王様もレリアさんのお父さんも訳が分からなくなって、言っていることもおかしくなっているみたいだ。
結局、宰相のクラウゼンさんという方の、うるさい人は連れて行きません!という一言で、ボク1人だけがクラウゼンさんに付いて行く事になった。
ここは王宮という場所らしく、その中にある、治療室という部屋に来た。
ここなら、王宮一治療魔法が得意な王宮魔導師さんがいるらしい。
「お邪魔します。ああ、いたいた。このお方の治療をお願いしたいのですが」
「ええ。どういたしましたかあああっ!!!」
え?え?急に叫んでそちらこそどうしました?!
「おお!神よ!!私に試練を与えたもうたかっ!」
さっき上であった魔導師さんと見た目も挙動もそっくりのお姉さんだ。
「ああ、この方は先程謁見室にいた方の妹なのです。あちらが、美少女好きで、こちらは美少年好き、、、しまったな、ちょっと危険ですね」
さらっと怖いこと言わないでくださいよう。
「だ、大丈夫。一線は超えないから。ルフフフ。ギリギリの線は見極めてるつもりだからっ!」
本気で怖い。
「ルフフ。ル?これは記憶の領域が一部圧縮されているわね。何故こんな、、、。この量は、、、そうね。あまりにも多くの情報が頭に溜まったせいで、破裂しそうになったようね。そこで、生活や生命に関係しているところを優先して、他の比較的使えなくても生きていける部分を圧縮して容量を稼いだようね」
よく分からないけど、記憶の一部が使えない状態になっているから、ボクの記憶が戻らないらしい。
「それは治せるものなのでしょうか?」
「人族の扱える現代魔法では無理でしょうね。神の領域まで手を出せば可能性はありますが、、、私にはそこまでの技術もマナもありません。この子をアレコレといじり回せないのは非常に残念ですが、、、。本当に本当に残念でしかたありませんがっ!!」
ある意味助かったけど、解決には至らない。
もう一度、謁見室に戻っては来たけど、もうやれる事も無いので、一旦家に帰る事になった。
とは言っても、ボクの家がどこにあるのかなんて覚えてないし、親とか兄弟がいるのか、いてもどうやって説明したらいいのか分からない。
「レリアさん。レリアさんのお父様。お願いがあります」
「お、おねだり!リンからのおねだりが!お、お父様!」
「う、うむ!何でも言ってみなさい!何だ?土地か!領地だな!よし!我が領地の半分を君にあげよう!」
「お父様!ステキ!ねぇリン!この領土を私達2人で治めるのね?誰もが羨む素晴らしい所にしましょう!」
うん。やっぱり、ボクが一人で頑張らないといけないみたいだ。
ボクは今までこの二人とどういう付き合いをしてきたんだろうか。
記憶を失う前のボクに小一時間たっぷりと問い正したい。
「お願いというのは、ボクの事はそっとして欲しいという事です。では、ボクはこれで」
「ま、待って?!きっと違うわよね?お願いってそれじゃなかったのよね?」
「そ、そうか、領土ではなかったのだな!はっ!爵位か!うっ。それは流石に、、、いやどうせ私が引退をする時には爵位は譲り渡す事になる。それなら、今渡しても同じか!よし!受け取りたまえ!今日から君がアウグステンブルク公爵だ!」
もうやだ、この親子。
特に親。
「公よ。先程は婚約を白紙にしろと言っておいて何なのだが、公のアプローチの仕方では、ドン引きされると思うぞ?むしろ、嫌われたがっているとさえ思えるくらいだ」
「は?陛下は何をおっしゃっている。記憶を失っている今こそ、有る事無い事吹き込んで、既成事実をでっち上げ、、、あたかもあったかのように仕込めば、リーンハルトくんも逃げ場が無くなるというもの!」
言い直してもあまり変わっていない辺りがもう開き直り感を表している。
仕方ない。やっぱりお願いをしてみようか。
「レリアさん。無理を承知でお願いしたいんですけど、しばらくレリアさんの家に泊まらせて貰えないでしょうか?」
「へ?ウチに?リンが?ど、どうしましょう!私まだ気持ちの準備がっ!!あ、今、準備出来ました!!」
「気持ちの準備という意味はよく分からないのですが、物置でも、廊下でもいいんです!雨風しのげればいいので、どうかおいていただけないでしょうか!」
「ふむ。リーンハルトくん。キミは家には帰りたくないのかね?記憶はないと言っても家族ならば、受け入れ、助けてくれるだろう。クラウゼン宰相も一緒に説明くらいはしてくれる筈だ。何なら私も同席しても構わない」
自分でもそうなんだと思っている。
お父様の言う通り、家族ならこんな時、支えてくれるものだと思う。
でも、とても怖い。
家族の顔も名前も何もかも思い出せない、今、それを家族に知られるのが異様に怖い。
ボクが裏切ってしまった気がして、その事で嫌われるんじゃないかと言う恐怖を感じている。
「リン!あなたは家に帰るのよ!そして、今のこの状況を話して、受け入れてもらうのよ!」
「で、でも、、、」
「私が付いているわ!リンの家に私も住む!だから、大丈夫よ!ねぇ、お父様、いいでしょう?」
「うむ。そうだな、それもありか。リーンハルトくんの気持ちが楽になるのが一番だが、乗り越えなくてはいけない物もある事は確かだ。ヴァレーリアが一緒ならそれも乗り越えられるだろう!よし、ヴァレーリア!リーンハルトくんを支えてあげるのだぞ!」
「はい!!わたくしはリンを一緒支えて参ります!」
途中から方向が狂ってきているような気もするけど、レリアさんが一緒に来てくれるなら心強いかも。
どんな家族か分からないけど、確かに怖がっているだけじゃなくて、乗り越えないといけない、と思う。
レリアさんとお父様。そして、クラウゼンさんと共にボクの家に向かう。
どうやらボクはこの歳で既に屋敷を所有しているらしい。
ホント何をしたんだ、ボクは。
そして、その屋敷にはボク以外に7人の家族が住んでいるらしい。
そんなに家族がいるなんて、兄弟がたくさんいるのだろうか。
歳の離れた兄か姉の家族と一緒に暮らしているのかもしれない。
クラウゼンさんの案内でボクの家に着き、玄関の呼び鈴を鳴らす。
誰かが扉を開ける。
という事はボクの家族の筈だ。
家の中から出てきたのは、蒼い髪に銀の瞳をした元気の良さそうな女の子だった。
「ご主人!元の姿に戻れたのね!」
ど、どういうこと?
ボクとあまり歳の変わらなそうな女の子がボクの事をご主人と呼んだ?!
「ど、奴隷?!リン?あなた奴隷主だったの?こ、この歳で、、、。そ、そう、そういう趣味もあったのね。まだ少し覚悟が足りなかったようね」
「ほほう。流石リーンハルトくんだ。私が見込んだだけの事はある」
「お、おほん。フォルトナーさん、、、リーンハルトさんのお姉さまでいらっしゃいますね?わたくしは王宮で宰相を務めておりますクラウゼンと申します。リーンハルトさんの事で少しお話がありまして。少しお時間よろしいでしょうか?」
「は、はい。あ、どうぞ、お入りください」
「すみません。では、お邪魔いたします」
中に入ると、クラウゼンさんから言われていた通り、7人の女性がいた。いや、一人は男の子だった。
「リンくん。元に戻ってる!良かった!」
「対して変わりはないわ。リンはリンだもの」
「それでも違いますよ。リーンハルトくんはやっぱりこうでなくちゃ!」
「オー。やはりオトコの娘より、男子の方がいいデスネ」
年齢は色々のようだし、タイプも違う人だけど、皆んな可愛い人ばかりだ。
一体どういう関係だったんだろう。
皆んな姉か妹?
ボクより小さな男女二人がとことこ側まで来て、ボクの両脇に一緒に座る。
弟と妹なのだろうか。
「ご主人?何か変ね。表情がいつもと違う。でも、どうみても中も外も本人だし、、、。どういうこと?」
「そうね、いつものいやらしい目付きが無いわね」
ちょっと、待って!そっちの全身真っ黒な出で立ちの子は急に何を言い出すの?!
ボクがいつもこの子達をいやらしい目で見てたって事なの?
そうだとしたら、今までのボクがごめんなさい。
「ああ、その辺の事も含めて、わたくしから説明を差し上げますので、皆様お集まりいただけますでしょうか」
ボクの家族と思われる7人と、一緒について来てくれた3人、そして、ボクを合わせた11人がリビングのソファーに座る。
「さて、まずは私達の紹介からでしょうか」
そう言ってクラウゼンさんは、自己紹介から始め、お父様とレリアさんの紹介もしていく。
「フォルトナーさんの、、、リーンハルトさんの今の状況なのですが、実は、記憶がかけた状態となっておりまして、家族の皆さんの事も覚えていらっしゃらないようなのです」
「えっと、、、。はい?、、、ご主人が私の事を忘れている?そ、そんなまさか!?」
「そのまさかなんです。信じられないでしょうけど、このお体に戻る際に何か問題が発生したようなのです」
ううっ、怖いっ。
見た目はどう見ても家族じゃ無いけど、それでも、さっきの会話からはボクはこの人達に家族と認めてもらって生きてきたんだと思う。
血は繋がってはいないのは関係なく、何か別の繋がりがある家族なんだろう。
だから、とても不安で仕方ない。
ボクがみんなの事を覚えていないという事が裏切りに思えてならない。
「そうすると、私と恋人同士だと信じ込ませれば、それが真実になると!!」
「ちょっと待ちなさいよ!私がその手を使うのよ!ラナは諦めてよ!」
「何よ!レティだと恋人って信じ込ませるの大変そうじゃないのよ!それならちょっとでも可能性のある私が!」
そんなに、心配する事なかったかもしれないな。




