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第九十一話 奴隷解放

 職業欄から奴隷を消した後、奴隷の首輪はパキッと音を立てて割れてしまった。

 それから、元奴隷の男子は大喜びで出ていった。

 祖国ノルドに何とかして帰るんだそうだ。


「奴隷から解放させるなんて、本当、天使の御業よね」

「でも、勝手にやっちゃって良かったのかな?」

「あの男の子を助けたんだからいいんじゃないの?」

「そう、、、なんだけど、、、」


 例えば、僕とラナの主従契約を誰かが勝手に解除したら、怒るよな。特にラナが。

 あの男の子は嫌がってたんだから、これで良かったんだと思いたいけど。



 だけど、これだけで終わるはずが無かった。

 今度は次から次へと、奴隷から解放して欲しいという人が訪れ始める。

 腰痛とか冷え性を治すのとは違って、あまり大っぴらには出来る訳ではない。

 こっそりと如何にも腰が痛いですというのを装ってやって来る。

 三日の間、僕もやっていいのか悪いのか分からないまま、来る人来る人、全員を解放してしまった。

 今日なんてまだ朝のうちなのに数十人の人達を解放していた。


「レリア。もうやめた方が良くないかな?」

「そ、そうね、流石にこの量の奴隷解放は何か問題になりそうな気もするわ」


 何かの義務でやってる訳でもないし、ちょっと腰の痛い人を治して、喜んで貰えるのが楽しかっただけなんだから、もうこの辺で終わりにしてしまおう。




「ここに、許可もなく奴隷解放をしている輩がいると、通報があった。そこの女達か!大人しくお縄に付け!」

「え?え?またかよ、、、」


 お店に憲兵さん達がなだれ込んでくる。

 うわ、まずいな。ここで奴隷解放しているのが、バレてしまった。

 レリアは無理やり手伝わせたってことにして、僕だけが捕まるようにしないと。


「ま、待ってください!私はリヴォニア騎士団第2部隊、ヴァレーリア・アウグステンブルク7段騎士です!このお方は、我が騎士団が丁重にお迎えするよう仰せつかったお客人です。このお方は今ここで市民の皆様を治療なさっていました。主に腰痛や関節痛などのお年寄りの悩みの種を解消していたのです」

「お、、、おう、そ、そうなのか?」


 すばらしい!レリアの一気にまくし立てるセリフに、突入してきた憲兵さんは押され気味だ。


「し、しかしだな、現に奴隷を勝手に解放しているという噂もたっておってだな」

「ただの噂と、我が王国の貴賓とを比較なさるおつもりか?」

「い、いや、そのようなつもりは、無いのだが、、、」


 レリア凄いぞ!

 頑張れー!レリアー!


「くっ。ならコイツのことはどう説明をつける」


 そう言って他の憲兵さんが外から男の子を連れて入ってくる。

 あの最初に奴隷から解放した男の子だった。


「コイツは町一番の大富豪ゾイゼさんの所にいた奴隷だ!奴隷の首輪が外れたコイツが大喜びで町を出ようとしていたから、不審に思った衛兵が尋問したのだ」

「うう。首輪が無ければ町の外に出られるかと思ったのに」

「ゾイゼさんはこの町じゃあ、有名だからな。奴隷だって顔くらいは知られている」


 それで、この場所が知られた訳か。

 もうどうにもならないか。


「この女の子は私が無理やり手伝わせただけです。私だけがした事ですので、捕まえるなら私だけにしてください」

「リン?!何言っているのよ!」

「よし、この女だけひっ捕らえろ!」

「は!」

「ちょっと、待ちなさいよ!聞いてなかったの?騎士団を敵に回す気?」

「騎士団の客人だろうと、犯罪者なら関係ない!抵抗するなら貴様も捉えるぞ!」

「上等じゃない!構えられるならやってみなさいよ!」

「レリア?!ダメだよ!我慢して!」


 やっぱりもっとよく考えるべきだった。

 せめてレリアだけでも逃さないと。


「待ちなさい。そのお方から手を離すのです」


 また誰か入ってきた。

 今日はこのお店は商売上がったりだな。


「なんだ貴様は?今はこの犯罪者をひっ捕らえているのだ。邪魔立てをするな!」

「そのお方を捕まえるなどあってはならない事です。私の言葉に従えないと言うのですか?」

「何だ?は!もしや、あ、あなた様は、、、」


 皆んな背が高いからお店の入り口の方で何か話してるけど、よく見えない。

 この隙に逃げちゃおうかな。

 お?さっき入ってきた人がこっちに来た。


「あ、クラウゼンさん」

「おお。あなた様がアリア様でいらっしゃいますね。わたくしなどの名前を覚えていただいて光栄でございます」


 ざわざわ


「え?あのマルセル・クラウゼン宰相殿?ほ、本物?み、皆!控えろ!このお方に従うのだ!」


 ザザーッと憲兵さん達がうしろに退がり、僕とクラウゼンさんの周りに空間が出来る。


「憲兵の皆さん。お仕事を忠実にこなされている事は重々承知しておりますよ。ですが、今回は如何なる理由においても、わたくしの指示に従っていただきます」

「は、ははあ!」


 なんだか演劇観てるみたいになってきたな。

 ちょっと楽しい。


「あ、あの、この女、、、こちらの女性は、一体どのような、、、、」

「世の中知らない方が幸せだという事もあるものですよ?それとも、あなたは知る覚悟がお有りかな?」

「いいいいい、いえいえいえいえ!!滅相もありません!わ、我々は何も見ておらず、何も聞いておりません!」

「ええ。それが懸命かと思いますよ?」

「で、では、この店も全く問題がなかったようなので、我々は町の巡回に戻ります!」

「はい。ご苦労様です」


 物凄い勢いで憲兵さん達がお店から出て行く。

 ああ、お店のおじさんホントごめんね。

 お客さんも皆んなごめんなさい。


「では、参りましょうか、アリア様」

「え?ど、どこに?」


 だいたいなんで王都でも無いこんな端っこの町にクラウゼンさんがいるんだ?

 それに、なんで、アリアの事を知ってるんだ?


「アリア様の事は南部方面隊隊長のアーブラハム・バッケスホーフ8段王宮騎士殿から通信魔法にて詳しくお聞きしております。まったく、あの方は、言いたい事を言ったら、後の始末は全部わたくしに丸投げしてきたんですよ?お陰で軍用高速馬車でこの町まで急いで来たんですから」

「ああ、あの人が。なんだかすみません。僕の為に」

「いえいえ、良いんですよ」


 お店のおじさんにお礼とお詫びを言うと、クラウゼンさんもお詫びの印として何かをおじさんに渡していた。

 おじさんは凄く恐縮してたけど、ホント色々騒がしくしちゃってごめんね。


 お店を出ると、王宮の人っぽい服装の人とか、、、あれ?あの人達は確かノインの冠とか言われているこの国で最も強い9人じゃなかったっけ。

 全員では無いけど、何人か一緒に来ている。


「お、お父様!」


 ん?レリア?あ、そうか、レリアのお父様もノインの一員だったな。


「うむ。ヴァレーリア。この件は良くやったぞ。流石我が娘だ」

「お、お父様?私はリン、、、アリア様と一緒に居ただけですけども、、、」

「このお方は王国にとって、今、最も重要な存在だ。そのお方をお側でお守りしたのがヴァレーリアであったことを父は誇りに思うぞ!」

「あ、、、ありがとうございます、、、」

「良かったね、レリア。お父様に認められたね」

「リン、、、ありがとう」


 いやしかし、ノインの冠にそこまで言われる程なのか?天使っていう存在は。

 こりゃあ、王都に着いたら、早速あの国王にこき使われそうだな。


 早めに正体を打ち明けて、リーンハルトだって事を分かってもらおう。

 まずは、クラウゼンさんに話をして、味方になってもらわないとだ。


 王宮の軍事用高速馬車は、、、なんだかゴツゴツしていた。

 高級感は全くなくて、馬車は全面鉄板で覆われていたし、色も真っ黒に塗られていた。

 フィアが見たら目をキラキラさせていた事だろう。

 馬車を引く馬も体格の良い元気そうな馬が10頭居た。

 そう、10頭引きの馬車だ。

 こんなの暴走しないの?

 鉄板馬車は重そうだから、これくらい馬が必要なんだろう。


「見た目に反して、乗り心地は良いんですよ?」

「へぇ。中は意外と豪華なんですね」


 この馬車にはクラウゼンさんと僕の他はローブを着た女性が一人いるだけだ。

 この人は多分、王宮魔導師のトップクラスの人だと思う。

 つまり、僕のじいちゃんが昔していたのと同じ仕事の人だ。


 レリアやレリアのお父様など、他の人達は別の6頭建ての高速馬車に乗り込んでいた。


 町の入り口に何台もの軍事用馬車が並んでいると圧巻だ。

 皆んな野次馬しにくるのもわかるよ。


「では、出発します」


 騎馬で先導する騎士がそう声を掛けると、騎馬隊が隊列を組みながら動き出す。

 その後ろを馬車が何台も連なって付いていく。

 僕の乗る馬車は隊列の真ん中辺りだ。

 後ろにも騎馬が付いて来ているから、この馬車を護衛するようなフォーメーションになっている。


 天使を迎えるとなると、こんな感じになるんだなあ。

 いやいや、ホント早めに話を付けないと、あとで僕だってバレた時に物凄く国王とかに怒られるよ。

 お前なんかにお金を掛けてしまったじゃないかーとかね。


「あ、あの、クラウゼンさん」

「はい。なんでしょうか。アリア様」

「えっと、その僕の正体の事なんですけど、、、その」

「ああ、この女性は王宮の中でも極秘事項にも触れられる権限を持っていますから、この馬車の中であればどんな話でもしてくださって構いませんよ?」

「あ、良かった。あ、、、あの、護衛の方にも聞かれませんよね?」

「はい。完全防音の魔法が掛かっていますから、中の音は外には漏れません」


 すごいな軍事用馬車。


「えっと、僕の中身なんですけど」

「はい。フォルトナーさんですよね?」

「え?、、、知ってたんですか?」

「ええ。そうでなければ、こうまでして助けに来たりはしませんよ?」


 ええええ、、、。どういう事?

 バッケスホーフさんから天使がいるって話を聞いて、ここまで来たんじゃないの?


「毎月10日は天の啓示があるんですけど、3日前に丁度、神からの啓示がありました」

「そんな、毎月10日は大安売りみたいな感じなんですか?」

「まあ、そんな感じなんですよ。ですが、天啓のお陰でノルドが攻めてくる事が事前に分かったので、市民の避難がスムーズにできたんですよ」


 ああ、それで、あれだけノルド兵に入り込まれたのに、犠牲者が出なかったんだ。


「今月の天啓で、フォルトナーさんの事が出たんですよ。神スファレライトの名で」

「えっと。それは、王宮式冗談とかですか?」

「??冗談では無いですよ?本当の神様から啓示が降りてくるんです。凄いでしょう?」


 ええええ、、、。あのスファレライトが〜?

 なんで?僕の事を助ける訳ないよね。


「あの。その天啓って、どう言ったものだったんですか?」

「ええっと、トリーアの町にフォルトナーさんが、天使アリアの姿で現れて、アリアの名を騙って奴隷達を解放しているから、憲兵に捕まってしまう前に何としても確保する事って言う意味合いでしたね。実際にはもっと仰々しい言い回しだったのですけどね」


 名を騙ってって、、、。まあ、そうなんだけど。

 まったくスファレライトの言い方には悪意が詰まってるなー。


「あ、そう言えば、今月は珍しく、追伸と言うものが付いてましたね」


 追伸?スファレライトは手紙かなんかと間違えてないか?


「ああ、確か、、、アリアたんを早く返せ、少しでも傷付けたら、呪いの人形族を送りつけてやる。でしたね。まったく意味が分からなくて、王宮の中でも解釈が割れているんですよ」

「ああ、それ、意味分かりました………。僕個人絡みの話ですから、王宮とか王国には迷惑掛けない物なので無視しちゃって下さい」

「は、はあ。神様から直接個人宛にメッセージですか、、、。天啓に名前が出た時も驚きましたが、流石フォルトナーさんですね」


 流石でもないです。

 むしろ敵対視されてるだけです。


「ああ、ですが、あの奴隷解放はまずかったですね。枢機院でも問題になっているんですよ。まあ、これも、枢機院の中でも賛否は半分に別れているのですが」

「やっぱりダメでしたよね。ごめんなさい。ごめんなさい」


 やっぱり怒られた。

 いくら奴隷が嫌だと言われても、勝手にやったらダメだったんだよ。


「今回は天使が行っている天罰の一種だという話にして、奴隷の主人達に罪を被せてしまいましたから大丈夫です」

「え?それは、その主人の人達に悪いんじゃないですか?」

「奴隷が逃げ出したくなるような主人が裏で悪事を働いていない訳ないですから、まったく問題ないですよ」


 そう言うものなの?

 今回は助かったけど、やっぱり、調子に乗ってスキルや魔法で人に影響が出ることはするもんじゃないな。


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