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第七十七話 妖魔退治

「さて、冒険者カードも出来た事だし、さっそくクエストに行きましょ」

「はい」

「おう」


 冒険者カードは一枚だけのカードで冒険者手帳とかは無かった。

 カードには「アリア Lv1 冒険者 クラスG」とだけ書いてあった。

 クラスGというのは、冒険者の分類らしくてクラスGなら、初心者用のクエストしかできないらしい。

 クラスAまであるらしく、上の方ほど受けられるクエストの難易度は上がってくる。

 段とか級とかは無いのかな?


「わたし達はここの範囲ね」


 アニエスがそういうのは、クラスGとFのクエストボードだ。


「これなんてどうかな?クロモリウサギの討伐。1匹ブラン銀貨1枚ですって」

「あ!あの、魔物退治はその、、、」

「ああそうね、こういうのは無理か。じゃあ、この薬草採取とかがいいわね。でも、1株50ブランよ?あまり儲からなさそう」


 うう、魔物はもう知り合いが出来てしまったから、倒すのは気がひける。

 いくら知らない魔物だからと言って、あれだけ仲良くなってしまうと、もう、人族相手と同じ気持ちになる。


 だからと言って、薬草採取は時間がかかる割に稼げないと思う。

 何かいいの無いかな。


「あ、これって何でしょう。妖魔?退治、1匹銀貨5枚ですよ」


 5,000フォルク、、、じゃなかった5,000ブランだ。

 この国の通貨はブラン貨といって、1ブランはだいたい2.23フォルクくらいで取引されている。

 5,000ブランは11,150フォルクだ。なかなかの稼ぎになる。


「ああ、これね。最近この町にも増えてるのよ。嫌よね。いつのまにか巣ができているし、気付いたら増えてるのよ」

「え?巣?どういう生き物なのですか?」


 ちょっと前から思っていたけど、どうやらこのアバターだと母さんから受け継いだ真実の書の知識も無くなってしまっているようだった。

 なんだか、もう、リーンハルトの頃の記憶があるだけで、それ以外は別人になってしまったみたいだな。

 僕が僕たらしめているのは、何処までになるんだろう。

 記憶?スキル?ステータス?今は体すら別になって、記憶以外全て失って、これで僕って言えるんだろうか。


 皆んなに会って僕だよって言っても誰もリーンハルト・フォルトナーと認めてくれなかったら嫌だな。


 ロックされているスキルとかを解除出来ればもう少し僕らしくなるんだろうか。


「っていうものなの。アリア?聞いてる?」


 今は早くお金を稼いで皆んなのもとに行かないとだね。


「アリア?ア〜リア〜。おーいアリア!」

「あ!はい!私の名前はアリアです!」

「知ってる」

「ああああ、ごめんなさい。ちょっとぼうっとしちゃって」

「自分で質問しておいて聞かないなんて、アリアは悪い子だったんだね」

「あ、ああ、ごめんなさい!ごめんなさい!ちゃんと次は聞きます!」

「ぷふっ。もう、慌て過ぎ。怒ってないよ。妖魔の話、もう一度聞く?」

「聞きます!ちゃんと聞きます!」


 アニエスの話によると、妖魔というのは生態はよく分かっていないらしいけど、どうやら知性のある生き物ではないのだと言う。

 生命活動のような動きはしているのは確認されている。

 ただ、人を見ると殆ど反射的に襲うか、逃げるかをする。

 体全体は半透明でブヨブヨしたゼリーのようなものらしい。

 人程の大きさを持ち、人に覆い被さって、体内に引きずり込んだ後、ゆっくり吸収するのだそうだ。


 倒すには剣のような鋭利なもので切り刻むか、透けて見えている臓器らしき物を破壊すればいいようだ。


 これなら魔物じゃないし、生き物っぽくないし大丈夫だろうか。


「これが、家の軒先とか庭の垣根とかに巣を作って、増殖するらしいわ。巣で2つに分裂するだけみたいだけど、放っておくと倍々になるから、見つけ次第倒さないと街中がこいつだらけになってしまうわ」


 それは嫌だな。

 この妖魔とやらなら倒せそうだ。

 これを倒してお金を増やそう。


「アニエス、アリア、これでいいな。じゃあ受け付けちまおう」

「あれ?4桁の数字が無いですね。申し込み用紙も無いみたいですし」

「何の話?アリアはたまに変な事を言うわよね。お嬢様が常識知らずなのは仕方ないけど、この先が思いやられるわね」


 そういうと、アニエスはクエストが書かれた紙をビリッと破り取ってカウンターに持って行った。

 ああ、そういうやり方なのね。

 そう言えば王都冒険者村もこんな方式だった。

 受け付けの人も話し方が似ていたな。

 あそこはこっちのギルドを真似してるのだろうか。




「クエストに書いてあるのはこの辺りだと思うんだけど、、、」


 僕達はクエストに書かれた妖魔の出現ポイントに来ていた。

 と言っても普通の住宅街といったような所だ。

 クエストの紙によると、ここの一軒の住宅の庭先に妖魔が巣を作っているのが見つかったので、ギルドに討伐依頼を出したのだそうだ。


「ここだな。家主を呼んでみよう」


 クロードがドアノッカーを鳴らして家の人を呼ぶ。


「ごめんください」

「はーい。あら、どうなさったの?道に迷ったのかしら?」

「あ、いえ、おれ、、、私達は冒険者ギルドから派遣されて、ご依頼の妖魔退治に来ました」

「あらあら、そうでしたの。まあまあ、可愛い冒険者さんもいるのね」


 うう。僕の方を見てそう言ってくるのは、白髪の混じったお婆ちゃんだ。


「こ、こんにちは」

「ええ、こんにちは。裏庭に巣はあるの。見てくれる?」

「はい。さっそく見せていただきます」


 受け答えは全てクロードがやってくれる。

 だけど、お婆ちゃんの視線は僕の方だ。

 ニコニコして、微笑ましそうに見てくる。

 おかしいな、クロードもアニエスも同じくらいの歳だと思うんだけど、どうも僕だけ小さい子だと思われてるような。

 そりゃあ、背は小さいし、アニエスから借りた胸当ても大き過ぎてブカブカだから、まあ、僕が見ても1人だけお子様が付いてきている感がする。


 あの後、アニエスから胸当てとダグを借りに一度家に取りに行っていた。

 ダグというのはナイフ程の長さの短剣で、フォルクヴァルツではドルヒと呼ばれている。国によってはダガーと呼ぶ所もある。

 諸刃だけど、片方はギザギザの刃になっていて、力が無くても楽に斬る事が出来る。


 お婆ちゃんに案内されて裏庭に行くと、大きな木と木の間にネバネバしたゼリー状の物体が挟まっていた。

 半透明のそのゼリーの中に内臓?だかなんだか分からないものが見えている。

 うう、気持ち悪くて凝視できない。


「これなのよ。危なくて裏庭に出れなくて困っているの。退治出来るかしら」

「はい。お任せください。これ、4体くらいが固まっていますね。退治後に呼びますので家の中に避難していてください」


 お婆ちゃんに襲いかかられないように、家に入っていてもらう。

 あ、窓から顔だけ出して見ている。ふふ、かわいい。


 僕を真ん中にして左右にアニエスとクロードが立つ。

 アニエスはクレイモアと呼ばれる両手持ちの大剣だ。

 こんな大きな剣をよく振り回せるものだ。

 見かけによらず力持ちさんなんだな。

 クロードはファルシオンという幅広の片刃の剣だ。


「あの。最初にぼ、、私が最初に攻撃してみていいですか?」

「え?大丈夫?まあ、危なかったらフォローするけど」

「ああ、何かあったら後ろに引っ張ってやる」


 このアバターで何処までやれるか試してみたい。

 レベル1だからかなり弱いと思うけど、今後の事を考えたら、出来るだけ経験値を稼いで早くレベルアップしておきたいというのもある。


 ああ、前は経験値増加スキルがあったから、一気に上げられたんだよな。


「では、、、行きます!」


 ダグを鞘から引き抜いて、両手で掴む。

 じわじわと妖魔の巣に近づいて行く。

 このまま、動いてくれなければダグを突き刺して倒せそうに見えたけど、こちらの間合いが分かるのか、ダグが届きそうな少し手前で1匹の妖魔がぐにぐにと動き出す。


「来るぞ!」


 クロードの声と共に妖魔が僕を目掛けて、飛び込んで来る。

 バックステップでかわしながら、ゼリーの先端にダグを当てて一気に横へ薙ぐ。

 ジュパッという音を立てて、妖魔の端っこが切れ落ちる。

 よし、アバターのレベルは低いから動きは遅いし、力は入らないけど、剣の使い方は覚えているもんだ。


「へぇ、うまく斬るのね」

「ああ、大した剣さばきだぞ」

「えへへ。褒められた」


 妖魔は何も考えず動くらしい。

 切られた事には気付いていないかのように、まだ僕を狙って動いてくる。

 でも、まだ、僕も後ろに下がり続けている。

 アニエスとクロードが僕を助けようと構えるけど、それよりも早く僕の小さな体をさらに小さく屈めて、妖魔の下に潜り込む。

 うへえ。これ乗り掛かられたら、食べられちゃうな。


 妖魔の腹?の辺りにダグを突き、体全体を捻って横に斬る。

 妖魔か乗っかった重みも使っているから、力は無くても内臓までダグ刺さって、中身を傷付けながらゼリーを切り裂く。

 妖魔の体が落ちてくる前にごろごろ転がって横に避ける。


 お。しゅわしゅわ言って妖魔のゼリー部分が溶け始めた。

 これで倒したのかな?

 んー。やっぱりこれくらいじゃあレベルアップはしないね。

 それでも、充分闘えるのが分かったからいいや。


「アリアの馬鹿!なんて無茶な事するのよ!怪我無い?ねぇ!食べられちゃって無い?」

「え?は、はい。あ!」

「何!何!ポーション使う?!」

「あ、いえ、転がったから服、汚れちゃったなあって」

「はああああ。もう!服なんてわたしが買ってあげるから!そんな高価そうなのは無理だけど!安いのだけど!でも、だから、もっとアリアは自分の事を大切にして!」

「は、はい。ごめんなさい」

「ああ、俺も今のはびびったよ。食われに行ったのかと思った」


 ああ、そうか。

 そう見えるよね。

 次は気を付けないと。


「もうアリアにはやらせない!クロード!行くわよ!」

「ああ、一体ずついくぞ」


 ええ!?そんなあ。

 もうちょっとダグの扱い方とか試したいんだけどな。

 僕自身は剣は扱い慣れてるけど、このアバター自身が覚えてない動きだから、そのギャップをはやく埋めたい。

 そこがうまく埋まれば、レベル8の剣術をレベル1のアバターで使えるかもしれない。

 速さとか力は無いけど、技なら覚えている。


 アニエス達が再び近づくと、またもう1匹、妖魔が飛び出してくる。

 アニエスの剣は自身の身長くらいある長さだから、妖魔を近づける事なく、ズバッと斬る事ができる。長さの割に細身の剣だし、見た目より軽いのか、振り切ってもすぐに剣を戻す事が出来ている。

 単にアニエスが大人顔負けの怪力って可能性も捨てきれない。


「アリア?今、失礼な事、考えてなかった?」

「い、いえ!?…………ご、ごめんなさい……」

「考えてたんだな。まあ、アニエスはなんでも振り回す馬鹿力だから、仕方ない」

「わたし筋肉女とかじゃ無いわよ!クロードの馬鹿!アリアの馬鹿!」

「ええ!?私も?」

「うわ、黙ってれば良かった」


 2匹目は結局、怒りに任せたアニエスのクレイモアに微塵切りにされてしまった。

 こ、怖い。


 3匹目はクロードの番という事で、アニエスも後ろにやや下がって場所を作ってあげる。

 僕も邪魔にならないように、アニエスの後ろに隠れる。


 3匹目の妖魔が飛び出してくる。

 これ、一度に全部が来ないんだな。

 本当に反射的に近寄った人に襲いかかるようになっているんだ。

 だから、近づく距離をうまく調整すれば、このように1匹ずつ誘い出す事が出来る。


「でああああ!」


 刃の広いファルシオンを器用に振り回し、妖魔を真っ二つにしてしまった。

 おお、凄い。

 一振りで倒してしまった。


「ふっ。どうだアニエス。かっこいいだろ?」

「はいはい。後1匹ね。わたしがやろうか?」

「雑な扱い……」

「あ、あの、かっこ良かったですよ?」

「おお、アリアは良い子だ」

「アリア〜?」

「ご、ごめっ、、、ク、クロードは全然かっこよく無いです!」

「ええ?!そんな〜」


 このまま順調に行けば、4匹も倒せる。

 3人で割っても1人6,666ブランになる。

 なかなかの稼ぎだ。


 最後の1匹はアニエスが担当でクロードが念の為に補助をする。


「来るぞ!」


 クロードの掛け声と同時に妖魔が僕に襲いかかって来る。

 ええ?なんで僕?

 任せるつもりだったからダグも鞘に収めてしまっていた。

 しまった。気を抜き過ぎていた。

 戦闘中なんだから、武器は構えておかないと。


 ダグを鞘から引き抜こうとしたけど、間に合わなかった。

 妖魔が完全に僕に覆い被さる。

 うぐっ、皮膚に触れる部分が熱い!

 消化液が出ているのか、じゅわじゅわ皮膚が溶けてくる。

 じたばた暴れようとしても、ゼリー状の妖魔は手応えが無く身動きが取れない。

 服は溶けないのに、皮膚はどんどん焼けたように溶けて、血も噴き出してくる。


 アニエスとクロードは僕を傷付けないようにしながら、妖魔に斬りつけるけど、妖魔の内臓が僕の近くに寄ってきているから、なかなか致命傷を与えられないでいる。


(アリア!アリアー!!いやああ!)

(くそ!うまく斬れない!)


 ゼリーに阻まれて声がよく聞こえない。

 これまずいかな。

 死んじゃいそう。

 これで、クロの所に帰れるかもしれないけど、アニエスとクロードには嫌な思いをさせてしまう。

 それは嫌だな。

 それに、僕自身もこの2人とここで別れたくないな。


 ポーン

『脅威判定S 生命の危険を察知しました 脅威の排除をしてください 代行神罰 レベルF を緊急解放しました』


 何?何か起きてる?


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