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第七十三話 1up

 まあ、死んじゃったものは仕方ない。

 一度死んで、生き返れた事がある、というのだって普通じゃないんだから。


 ここで、余生?を暮らせるのかな?

 そうすると、このクロと今後は一緒に住んだりして……。

 なんてね。

 ああ、このクロの見た目に惑わされてるな。

 よく見ると、いや、よく見なくても整った顔立ちしてるよな。

 舞台女優さんとかみたいだよ。


「………人の顔ジロジロ見て………変態」


 グフォッ


 ああ、何だろう。

 今のセリフをもう一度言って貰いたいような、貰いたくないような。

 クロはずるいよ。

 いつもあんな感じの話し方だし、声だけだったし、なんか、こう、もっと、友よ!みたいな感じだったのに。

 それが、ちょっと涙目で、しおしおして、、、まあ、僕を生き返らせてあげられないっていう負い目からなんだろうけどさ。


 いかんいかん。

 もっと明るくならないと、クロらしくないし、僕らしくもない!


「クロ!僕はここでクロと一緒に暮らしてもいいのかな?」

「!!!」


 かあーっ


 えっと、これは恥ずかしくて顔が赤くなっているっていう事なのかな?


「それは、了承って意味でいいのかな?」


 こくんこくん


 おお。良かった。断られなかった。

 ちょっと今は調子が狂ってるけど、慣れてくれば今までみたいな感じで楽しく会話できる筈だ。

 なんだか、楽しくなりそうだな。


 心残りは、あっちの世界に残してきた、家族とか、やり残した事だな。

 こっちからクロがしていたみたいに何か手助けできないものかな。


 ピーンポーン


 ん?なんの音だ?

 クロを見ても知らんぷりをしている。


 ピーンポーン

 ピーンポーン


「ねぇ、クロ」

「知らない」


 ぶんぶん


「え?あ、いや、今の音」

「知らない」


 ぶんぶん


 耳を塞いでしまった。

 あの扉の向こうからだよな。

 ちょっと見てこようかな。

 そう思って立ち上がり扉に向かおうとすると、ズボンをクロに掴まれた。

 あ、そう言えば僕はあっちの世界で着ていた服じゃ無くて、クロの着ている服に似たものを着ていた。

 色は違うしダボダボじゃないけど。


「クロ?離してよ。あっちに行けない」

「そこに座って」

「いや、さっきの音」


 ピーンポーン

 ピーンポーン

 ピーンポーン


「ほら。これって誰かが呼んでるんじゃないの?」

「そんな人居ない」


 そんな訳ないって。

 あ、ちょっと、ズボンを下に下ろそうとしないでよ。

 脱げちゃうでしょ。

 ふんっとズボンを持ってクロの手を振り払うと、ぽてっとクロが倒れる。

 その隙に扉の方まで行く。


 後ろでクロの「ああーそんなご無体な」と声が掛かるけど、無視して扉を開く。

 扉の向こうは廊下だった。

 左右と前にも扉があり、さっきの音は多分真正面から聞こえてきたんだろう。


 廊下を進んで正面の扉を開ける。

 そこには、女神様が居た。



 …………あ、いや、そんな訳ないか。

 女神様なら僕の後ろで、「出なくていいのに〜」と倒れたままで、呟いている。

 でも、僕の目の前には本物の女神様がいる。

 いや、後ろが本物なんだけど!


 それくらいの美少女がそこにはいた。


「ああ!やっと!やっと会えましたね!リンくん!わあああ!感激です!」


 え?あれ?また知り合い?

 というか、クロの他にこの世界の知り合いっていったら、あと2人しかいない。

 もう1人はこんな反応をする筈がないから。


「カル?」

「はい!あなたのカルです!」


 あ、どうも。

 ダイレクトにきたなー。

 僕の顔は今真っ赤だろうな。


「直接会うのは、はじめましてだね。そして、久しぶり。元気だった?」

「はい!はい!はじめまして!お久しぶりです!リンくんに会えたから元気いっぱいです!」


 テンション高いなー。

 しかし、カルもこんな美少女だったんだな。

 クロは少し大人っぽくて、少女という感じはしなかったけど、カルは背も小さくてもっとずっと若い印象だ。

 薄く青みがかったフワフワした髪。

 同じような薄青の丸い瞳。

 着ている服もヒラヒラがたくさん付いていて、何処かのお嬢様といった感じだ。


「そ、そんなに見つめられると、恥ずかしいです」

「あ、ごめん」


 あ、何。このクロとの違いは。

 こっちはもっと見つめて困らせたくなりそう。


「あ、そうだ。もしかして、クロに用事?っていうか、この部屋ってクロの家?」

「はい。ここはクロちゃんの家です。でも用事があったのは、クロちゃんじゃなくて、リンくんにです」


 僕に?そう言えば扉を開けて、いきなり僕がいる事を知ってたみたいだしね。


「それじゃあ、まあ、どうぞ入って。って僕の家じゃないけど」

「はい。クロちゃん。お邪魔しま〜す!」

「ぅぇ〜」


 奥の扉の向こうから、気の抜けた声が聞こえてくる。


 さっきの部屋にカルと一緒に入ると、クロが居ない。

 というか、ベッドが膨らんでいる。


「クロ。カルが来てくれたんだから、ちゃんとここに座りなよ」

「ぃゃ〜」

「まったく、、、」

「あ、良いんですよ。私は今日はリンくんに用があって来たんですから」


 そう言えばそう言ってたな。

 お茶でも出そうかとも思ったけど、勝手がわからないし諦めた。

 本当はクロがやらないといけないのに、クロはまだ毛布の中で丸まっている。


「それで、僕に用って何かな?」

「それです。リンくん、あちらの世界で死んでしまいましたよね。女神の加護も効かず、蘇生も出来ないままになっているかと思います」


 ベッドの中でビクっとしたのが分かる。

 クロの奴、気にしてるな〜。

 もういいのに。


「その状況を私、こちらから見ていたんです。嫌な予感がして、リンくんの事が気になって気になって、、、」


 その予感が当たったって訳か。


「まさか命を落としてしまう事態になるとは思っていなかったのですけど、でも、見ていても蘇生も行われず、回収もされなかったので、このままだと本当に死んでしまうと思って、、、、その、、、差し出がましいとは思ったのですが、、、リンくんのアバターを私の方で回収させてもらいました」

「あ、そうなんだ。その、ありがとう?」


 クロがモゾモゾとしている。

 何かを耐えているのか、苦しんでいるのか。

 そんな動きに見える。


「それと、リンくんを刺したあのアバターですが、あれも回収しました。あの時の『滅殺』スキルが最終的に効いて、中の人はこちらに返されていました」


 良かった。あの子のレベルだと、あそこで暴れられたら皆んなは全滅していただろうから。


「あ、学園の方達は皆さん無事です。リンくんのアバターが消えた事で多少パニックにはなっていましたけど、それがかえって、希望に繋がったみたいで、リーカさんが『チャット』スキルでラナさん達と会話して、私達女神が何かしたのだろう、という事で落ち着いたみたいです」


 なるほど、死んだままよりは不思議な力で回収された方が、何か奇跡的な事が起きるんじゃないかって思えるか。

 戦場で一度死んじゃって、その後生き返っている事は誰にも言ってないから、あのメンバーは皆んな知らない事なんだけど、流石ラナ達は僕の事を分かってくれてる。


 でも、今回はそうはいかないんだよな。

 変に期待させちゃうのも後の悲しみが大きくなるから、何とかしてもう蘇生できない事を伝えたいな。


「ん?でも、何でその2体?2人?のアバターを回収したの?お金掛かるんでしょ?」

「お金はいいんです!リンくんの為なら、いくら掛かっても平気です!」


 あ、その、クロの塊が震えているから、勘弁してあげて。

 あとで、クロによしよししてあげよう。


「アバターの修理には時間とお金が掛かります。お金は良いんですが、今回、刺されたナイフが曲者でして、アバターのマナを伝える循環器系をズタズタにしてしまう魔法が付与されたナイフだったんです」


 何その、嫌な特性の付いたナイフは。

 ねちっこい、人の嫌がる事をピンポイントで狙ってくるやり方だな。


「あ、もしかして、あのアバターってスファレライト?」

「はい。あのアバターに入っていたのは彼本人ではないですが、その持ち駒の1人ですね。実はあのアバターは勇者候補の1人だったんです」


 まだ他にも居たのか。勇者候補。

 リーカの事で諦めたんじゃ無くて、他の人でまた勇者を作ろうとしていたのか。

 でも、リーカが勇者になっちゃったから、もう無駄なんじゃないかな。


「彼女はレベルを上げ過ぎて、簡単な勇者クエストが逆に出来なくなってしまっていたんです。それまでは勇者候補の筆頭だったのですが、その後はリーカさんが最有力候補になって、しばらくはスファレライトからもお払い箱扱いだったんです」


 おう、なんだかあの子もかわいそうだな。

 元凶はやっぱりスファレライトじゃないか。


「あ、でも、彼女自身も相当性格が悪かったらしくて、スファレライトも手に負えなくなって、リーカさんに鞍替えしたと私は睨んでいるんです」


 そ、そう。

 勇者候補の話だよね。

 なんとなく恋愛話にも聞こえるんだけど。


「あ、すみません、長々と。私、こういった人間関係のもつれとかの話が好きなんですよ。ふふふ」


 ふふふって。

 意外とカルは人の噂好き?


「それで、本題なのですが。リンくん。あなたのアバターは私が修理に出します。時間は凄く掛かると思いますし、もしかしたら今まで通りの生活は出来ないかもしれませんが、それでも、再びあちらの世界で生きる事が出来るようになります!」

「え?本当に?それは嬉しい!もうダメかと思っていたけど、あっちにやり残してきた事はたくさんあるから、それが出来るなら是非お願いしたいよ。あ、でも、修理って絶対高いよね」

「そうですね。かなり複雑な修理になるみたいなので、新しく買うより高く付くと思います」

「そ、そんなに、、、でも、それなら新しいアバターを買った方がいいんじゃないの?」


 お金を出して貰う立場からしたら、贅沢は言えない。

 少しでもカルの負担が減らせるならそうしたい。


「それが、、、リンくんのアバターはちょっと特殊みたいでして。仮のアバターに入ったり、誰かのアバターを間借りするなら平気なのですが、本登録を別のアバターに変えようとすると、リンくんの本体、つまりここに居るリンくんですね。その本体に傷を付けてしまうみたいなのです」

「傷って、それくらいなら魔法で治せばいいんじゃないの?」

「傷と言っても、目に見える傷とは違いまして、遺伝子情報、、、えっと、その人がその人たらしめている情報が壊れてしまうんです。そうすると、新しいアバターに入ってもすぐに病気になって死んでしまうんです」


 そんな、、、今のあのアバターが僕と離れるのを嫌がっているみたいな、、、、。


「でも、それなら、あのアバターを治してしまえばいいので、お金だって気にしないでください。私、結構お金の蓄え有るんですよ?これは私のわがままなんです。本来、神や女神は1人の人にこんな事までしないです。だから、これはわがままでしている事なんです」

「うん。ありがとう、カル」


 うがあああ


 あ、とうとうクロが我慢できなくなって、毛布から出てきた。


「カルちゃんの意地悪」

「え、そんなあ。クロちゃん。そんな事言わないで」

「そうだよ。カルは僕の為に色々してくれてるんだから」


 うわわわん


 え?このタイミングで泣くのか。


「今のはリンくんが悪いです」

「そ、そうなの?クロ、ごめん。クロが今まで僕の為に苦労してくれていたのは知ってるよ?全部じゃないかもだけどさ。クロの気持ちは知ってるよ!お金だけじゃなくて、僕の知らない所で助けてくれてるって分かるよ」


 くすん


「うん。知ってる」


 泣かせてしまったお詫びに頭を撫でてあげる。

 しばらく撫でていると、だいぶ機嫌も良くなったし、カルに本当に怒ってる訳でもないみたいだ。

 横でカルが羨ましそうに見ているけど、ここは我慢して欲しい。


「それで、リンくん。その間ここに居続けると、あちらの世界では本当に死んでしまった事になってしまいます。少なくともあちらでの活動は出来なくなりますし」

「まあ、そうだね。いつか帰れるなら、皆んなにも伝えたいし、出来れば何かあっちの世界にしてやれる事があるならしたいよ」

「そこで、あのアバターです」

「「どのアバター?」」


 お、クロとハモった。


「む、ちょっと羨ましい。こほん。あれです。あのアバターです。リンくんを殺したあの女の子です!あの子に乗り移って、あちらで生活を再開しましょう!」


 ええええ、、、、。

 いろいろ嫌だなぁ。


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