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第六十話 自信

 その後もクリスとフリーデは仲直りをしないままだった。

 険悪、とまでは行かないまでも、口もきかず、目も合わせず、それでもわざと側にいるのは無言の抵抗なのか。

 最近、友達作り作戦、放りっぱなしだったからな。

 何とかしないと。


「クリス。クリスはもっと自分に自信を持っていいと思うよ」

「リーンハルトに何が分かる!僕は君みたいに何でも出来る訳じゃないんだ!どうせ姉さんと同じで僕を馬鹿にしてるんだろう!」

「僕は変わった事は出来るけど、何でも出来る訳じゃないよ。何でも出来る奴が、毎日学校に来てウンウン唸りながら勉強する?」

「君はその歳でこの学園に来て、国王からも信用されて、軍にいた時も英雄と呼ばれるような功績を残してるじゃないか。そんな君に僕の気持ちが分かるとは思えないよ」


 ううっ。そう言われるとそうなんだけど。

 逆効果だったかな。

 姉の方を何とかした方がいいか。

 フリーデを探して回る。

 教室にはいなかったから、廊下をぶらぶら歩きまわってみる。


 あ、いた。

 隣の教室で誰かと話をしている。

 あれは、、、、ゼルマ・ウルブルさん、、、かな?

 多分そうだと思うけど、図書館塔で一回見ただけだからよく分からないや。


 でも、ゼルマさんだとすると、フリーデはこの人が女神候補なのは知ってて話してるんだろうか。

 それとも、知らずに仲良くなっているのか?

 話の内容が気になる。


 2人は隣の教室、その入り口の廊下辺りで話し込んでいるから、こっそりその教室に入り、引き戸の裏から聞き耳を立てる。

 このクラスの人達に何だ何だ?と見られるのはこの際気にしない。

 しまった、その前に認識阻害スキルを使っておけば良かった。


(ああ、そのせいで、クリストフォルス君が怒ったのですね)

(ええ。何故あそこまで怒っているのか分からないのです。いつもお姉ちゃんお姉ちゃんと後ろを付いてきてたのに、、、。あの可愛いクリスはもういないのでしょうか)

(そんな事はありません。あの子はいつまでもエルフリーデの事を慕っていますよ)

(そうでしょうか)


 クリスの事を相談していたのか。

 扉越しだから声が小さい。


(ああ、すみません、わたくしの愚痴を聞いてもらってしまいました。例の件ですが、やはり何処にもありませんでした。ウルブル様のご意向に沿えず申し訳ありません)

(いえ、いいのですよ。真実の書は必ずこの学園にある筈。この先、授業で見ることにはなるのでしょうが、今の内にじっくりと読み進めておきたいものです。ですが、無理はしなくていいのですよ?エルフリーデ)

(ありがたきお言葉。神の御言葉のままに。では、また参ります)


 フリーデは自分の教室に戻っていった。

 この感じはゼルマさんが女神候補というのは確実そうだし、フリーデもその事は知っているという様子だったな。

 でも、女神じゃなくて、ただの女神候補でしょ?

 あんなに王女が下手に出る程でもないと思うけどな。


(ちっ、使えないな。王女のくせに本一冊見つけられないのか。従う者もいなくて何が次期国王よ)


 うえっ!?怖っ。独り言怖っ。

 この人、本当に女神候補?

 ゼルマさんは見た目も真面目そうだ。

 丸メガネに髪は長いおさげ、制服もきっちり着ていて、スカートも膝下にしている。

 最初は女神候補だからしっかりとした身なりにしているのかと思ったけど、今の独り言を聞いたら一気に違う印象になった。


 これは、つまり、カムフラージュなんだ。

 何かを隠す為にこうやって真面目な風を演じているんだ。

 女神候補を隠すなら、もっと普通にしていれば良いのに。

 それ以外にも何か隠したいものがあるのだろうか。


 ここは見つかる訳にはいかない。

 コソコソと反対の扉から逃げ出した。

 無論このクラスの人達の視線は全力で無かったことにする。



 午後はマナ実技の授業だ。

 体操着に着替えてトレーニング室に集まる。

 ここには色々なトレーニング用の機械があって、休み時間には体を鍛えに通っている人もいる。


「今日はマナを込めてトレーニングをしてみます。鍛える場所にマナを込めながら運動をすると、効率よく鍛えられるのです」


 へぇ、そんな効果があるんだ。

 それなら、普段からマナを足腰に込めて歩いていれば、そこが鍛えられるというのか。

 今度やってみようかな。


 みんな思い思いの機械を使って、自分の鍛えたい場所にマナを込めながら鍛えてみている。

 そんなに急に鍛えられる訳では無いけど、それでも、何となくマナを込めた部分の疲労感が多いような気もする。

 気のせいかもしれないけど。


(それは僕が使おうとしていたんだ。姉さんは他に行ってくれ)

「わたくしが先にここに来て使っています。近くに似たような物があるでしょう?」

(僕はこれがやりたいんだ。姉さんは今更鍛えなくても十分だろう?何でもできるんだから)

「鍛えるのに十分などという事はありません。まったくクリスはわがままなのですね」


 またやってるよ。

 いつもは仲が良い筈なんだけどな。


「クリス。こっちに面白そうな機械があるよ。ほら、これ一緒にやってみようよ」

「リーンハルト、、、。う、うん。仕方ないな。どれだよ」


 今は2人がぶつからないようにした方が良さそうだ。

 同じ機械でクリスと運動をする。

 すると、何故か周りの女子だけがこっちをチラチラ見ながらコソコソと話し始める。

 何だ?僕達、変な事してるか?


「あ、クリス、そっち持ってよ」

「ああ、ごめんよ。ほら、僕が支えて上げるから、やってみなよ」


(きゃあああ)


 何だ何だ?小さい声で悲鳴とか大変そうだ。

 なんで、女子達は顔を赤らめて僕達の周りを遠巻きに見てるんだ。





 午後の二つ目の授業は魔導研究だ。

 なんだ?魔導研究って。


 第一魔導研究室


 こう書かれた部屋にみんなで入っていく。

 中は黒い天板のテーブルがいくつかあり、椅子は木でできた小さな箱のような椅子が並んでいる。

 そこに4人1組で自由に座っていく。

 クリスが何故かフリーデの前に座ろうとしていたので、慌てて声をかける。


「ね、ねぇクリス。あっちに行って一緒に座らないか?ロルフとかリーカもあのテーブルだよ」

「む?むぅ。そうか、リーンハルトが僕と一緒がいいと言うなら仕方ないな」


 よしよし、これで、問題は起きないだろう。

 女子達がまた小声でコソコソと話し始める。

 これはもう、気にしない方が良さそうだ。


「僕は。リーンハルトに誘われてしまったよ。姉さんは一人だろうけどね」

「な!何を言っているのですか。そんな子供染みた事で勝ち誇らないでくださいまし」


 もう、、、。早くなんとかしないと周りがもたない。


 皆んなが席に座り落ち着いた頃、準備室から先生が入ってくる。

 今回この魔導研究は、はじめての授業だから、この先生にも初めて会う事になる。


「ああ、、、。魔導研究の授業を始める。このクラスは、、、えー、はじめまして、だったかな?んふふ。私はニコラ・フラメルだ。魔導を研究して、今年で、、、32年になる。んふ。まあ、いい。授業を始める」


 俯き加減でぶつぶつと話す先生だ。

 見た目はヒョロッとしているけど、メガネ越しの目はヌルヌルと動いていてちょっと怖い。

 ま、まあ、見た目で判断は良くない。

 きっと、とても優しい先生だったりする筈だ。


「魔導の研究というのは、古くから行われている、、、。過去の偉人達も魔導を知り、調べる事で新たな可能性を見出していた。んふんふ。かくいう私もね。んふ。魔導の奥深さに驚いているのだ。それが」

「あのー先生!魔導ってなんなんですか?」


 おおう、あの生徒は度胸あるな。話をぶった切って質問したよ。

 そりゃ、僕だって魔導って何だよ!って聞きたかったけど、流石にあの流れでは聞けないよ。

 聞いていたのはティアナだった。ティアナ・トイフェル、学校用シャッハで一緒だった子だな。


「それが、今の研究では更に魔導の極致に至る所まで来ている!あと少しでその理論が明らかになるのだ!」


 うええ。ティアナの話を完全スルーしちゃったよ。

 それでも、話を遮ってきたのは無視できないみたいで、ティアナの事を怒りの表情で睨みつけている。


「まあ、いい。この授業では、私の研究の成果を見てもらおう。この研究を見る事で諸君にとっても良い勉強になる事だろう」


 そういって、フラメル先生はカバンの中から一冊の本を取り出した。

 かなり分厚い本にはジャラジャラと鎖が付いていた。

 ええええ、チェインドライブラリーの本を持ってきちゃってるのかよ。

 ちゃんと許可得てるんだろうか。


「この写本に書かれている事を解読して、私はある理論に巡り会えた」


 何!写本だと!

 あれか!ラーシュ写本か!

 聞いても答えてくれそうにない。

 それならこっちで勝手に調べさせてもらうぞ。


(かいせき)


 [解析結果] 1件

  真実の書の写本の写本 真偽判定42.6%

  王立学園図書館塔所蔵の品。

  別名ラーシュ写本。



 やっぱり、図書館塔のをこの先生が持ち出していたんだ。

 くぅー。ない筈だよ。

 この先生ずっと持ってたのかよ。

 まあ、そのお陰でリーカも見つけられずにいたから勇者になるクエストが進められなくて済んだんだけどさ。


「この写本のこの部分を見てみるといい。これだ。奥の者もこっちに来て見なさい」


 写本を開いて皆んなに見せている。

 僕も立ち上がって見ようとするけど、一人だけ背が低いから良く見えない。

 ぐっ、見たいな。

 行儀が悪いけど、黒いテーブルの上によじ登って頭と頭の間から見る。


 お、見えた。

 ほほう。ちょっと遠くて見づらいけど、ここに書かれているのはアバターの変換時における、変換効率に関しての事らしい。

 変換か。

 コンバートのことだろうか。


「ここにはな、種族替えの儀式で起きる呪いについて書かれているのだ。この学園にはこれが読める奴が殆ど居なくて苦労したものだ。ぬふ。それでも、ようやくこのページに書かれている全てを解析して、ある仮説にたどり着いた!」


 この先生も読めないのかよ。

 周りの皆んなからも、読めねーとかの声があがっている。


「種族替えをする際にある呪いが発生する。それは、今までの種族の能力が半分に減ってしまうのだ!例えば、獣人族から人族に変わった場合には、それまで持っていた強靭な肉体や豊富な生命力がなくなってしまう。新たな種族の能力が貰えるのだから、致し方無しとは思えるが、種族を変えるリスクとしては大きい!これでは平凡な能力を持つために強力な種族の力を半分にしてまで変える意味など無いではないかっっ!」


 ものすんごく唾が飛んできた。

 先生の目の前にいたベルシュに思いっきり掛かっている。

 かわいそうに。


 要はコンバート時に今までの種族の能力が半分になるから、コンバートするメリットがあまり無いって言いたいんだな。

 それでも、別の種族になりたいって人には十分メリットになると思うけどな。

 単純な損得だけじゃないと思うんだ。


「だが!しかし!」


 あ、まだ続くんだ。

 皆んなが飽きだしてきているよ。


「私はこの呪いに穴がある事に気が付いたのだ!ぬふ。そう。ぬふふ。半分になった能力は更に別の種族に変わっても引き継がれるのだ!人族からそれ以外の種族に替える時は今持っている能力はそのままだ。つまり、様々な種族へと種族替えをどんどんすれば、その全ての種族の能力を備え持つスーパー種族の誕生だ!」


 まあ、凄そうだけど。

 そんなに興奮するような事じゃないと思うけどな。


「まあ、やってみるのが一番いいのだよ。ほれそこの学生。これを持ってみたまえ」

「は、はいい?」


 ベルシュに透明のガラス玉のような物を渡す。

 その玉って、アレなんじゃないのか?

 なんて事を生徒にしようとしてるんだよ。

 止めたほうがいいのか?


「強制実行、獣化の宝珠、こんばあと」


 発音おかしいぞ。

 ガラス玉から黒いモヤが出て来てベルシュを包み込み始める。


「わ、わ、なんですかこれ!へ、平気なんですか?!」

「心配ない、湯に浸かっているように気分が良くなる。私も何度も体験しているから問題ない」


 いや、しかし、いいのか?生徒で実験してるんだぞ?


 パシュー


 ん?黒いモヤが風に吹かれたように掻き消されてしまった。

 ベルシュ自体は先程と変わりないように見える。

 全身毛だらけとはなっていないようだし、とても獣人になったようには見えない。


 ああ!!

 ベルシュはああ見えてエルツ族だ!

 人族以外からは人族にしかコンバートできない!

 エルツ族から獣人族に直接は変換できないんだ!


 これ先生は知ってるのかな。

 そうだとすると、ベルシュが人族では無いってバレてしまうぞ。


「む?失敗か?稀にあるのだ。この宝珠が効かない者が。相性なのか、能力の低さからなのか。まあ、生徒が失敗する事が多いから能力なのだろうな。ぬふん。私は何度も成功しているから、能力の高さを証明しているようなものだな」


 良かった。そのルールまでは知られていないみたいだ。

 さっきのラーシュ写本を読んだ時にも、あのページにはその事は書いていなかった。

 多分隣のページあたりに書いてあるんだろう。


「まあ、今日の所はこの辺にしておこう。次の授業の時には別の種族を使って実験をしてみることにする。明日にでも奴隷を買って来なければな。ぬぅふふふ」


 うえぇ、嫌な授業だ。

 そんな実験、学生なんかに見せるなよな。


 皆んな自分の席に戻っていく。


「んん?ここにあった写本はどうした?」


 何だ?無くなったのか?


(あ、、、僕が読んでて、、、、すみません、、、)


「何?聞こえん?何だお前が持ってるのか。お前、、、王子だったか?人様のものを勝手に持っていくなと親に教わらなかったか?」


 あの国王だとそんな教育はしなさそう。

 まあ、逆に勝手にいろんな物を与えて回りそうだけど。


(す、すみません、読み始めたら面白かったから)


「ああ?聞きづらいな、、、。何だお前その本が読めるのか!そらならそうと早く言ってくれよ!ここには読める奴があまりいないんだ。お前にそれを預けるから、読めるところだけでも読んで報告してくれないか!」

「え?僕が?」

「ああ、お前にしか頼めない!やってくれるか?」

「僕にしか、、、。はい!やります!やってみせます!姉さんにもできない事、、、ぼくが、、、」


 あ、良かった。

 クリス、嬉しそうだ。

 何だよ変な先生だと思ってたけど、クリスの為になるなんて、意外といい人なんじゃないか。


「くひゅひゅひゅ。こ、こ、これで、我が野望に一歩近づく、、、。私が神への一歩を踏み出すのだああはっはっグホッゴホッ、、、、、ぬふふる」


 いい人とキモい人っていうのは両立するんだな。


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