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第五話 お見舞い

 ティルとルナのお見舞いにきている。

 雄黄ネズミの毒のせいで動けなくて暇だから来いと言われたので、仕方なくきている。

 ここはティルの家のティルの部屋だ。

 ルナの部屋でもある。

 彼女には血の繋がった家族はいない。

 ルナの家族が生きているのかも、誰が親なのかも僕は知らない。

 ルナが小さい頃に、モーリッツさんがいきなり村に連れてきた。うちのじいちゃん絡みらしいけど、詳しくは知らされていない。今はティルの家に住んでいて、ティルとは姉妹のように仲がいい。

 どちらも自分が姉であると言い張っているが、僕からすればどっちも妹だ、というと二人にいつも怒られる。何でだ。


「もう。何でお見舞いに来ないのよー」

「今来たじゃないか」

「言わないと来ないじゃないの」


 大きめのベッドに二人とも一緒に寝ている。

 何か、僕はここにいてもいいのだろうか、という思いがしてくる。

 早めに切り上げるとしよう。


「じゃあ長居しても悪いから僕はこれで…」

「だ、だめです!もう少しいて、その、ティルちゃんの看病をしてください」

「なんで私だけなのよ…。あ、そうだ、リンくん背中の汗拭いてよ、体が動かせないから自分で拭けないのよ。ね、ルナも拭いてもらったらどうかな」


 さすがにそれはまずいだろう。

 ん?ティルのやつ、これはからかって面白がっているって顔をしているぞ。これは僕だけでなく、ルナのこともからかっているようだな。


「えっと…。私の背中なんか、拭きたくないですよね…」


 意外とルナは乗り気だった…。モジモジしている。

 ああそうか。やっぱり汗をかくのは気持ち悪いもんな。だからか。

 これは僕が恥ずかしいのを我慢してでも拭いてあげた方がいいかな。


「そんなことはないよ。ルナの背中なら拭きたいよ」


 あれ?焦ってなんか変な言い方になっちゃったぞ。

 これじゃ変態だ!


「あぅっ。そんな…こと…言われたら…」


 あぁぁっ、やっぱり気持ち悪がられた…。顔を真っ赤にして、向こうを向いてしまった。


「あ、ご、ごめん。変な意味じゃなくて。ルナは可愛いから誰でも拭きたくなるだろうし、だから僕も同じだよって、そういう意味だから!」


 だめだ。言えば言うほど、変態になっていく。


「リンくんに、可愛いって言われた…」


 ん?反応するところが違うような…。

 あまり嫌がられてない?

 いや、女子の考えは男には読みきれないものなのだよって、父さんが母さんに怒られた後に呟いていたからな。

 いいほうには捉えないでいた方が良さそうだ。


「私のことも拭きたいよね? ね! 拭きたくなる理由もあるわよね! 言ってみて! 今! すぐ! なんで私のこと拭きたいの? ね!」


 ティルは誘導が下手だなー。

 そんなに自分のことを可愛いって言って欲しいのか…。

 言わないとうるさそうだなー。


「も、もちろん、ティルも可愛いから、ふ、拭きたいなー」


 僕も人のことは言えないな。

 しかし、一連のセリフだけ見ると僕は病人の女子二人になんてことを言っているんだ。

 体拭きたい宣言!とか我ながら嫌すぎる。


 ティルは今の棒読みセリフでも嬉しいらしく、両手を頬に当てて体を捻って喜んでいる。

 麻痺毒であまり動けないだろうに。


 これ以上いると、更に変態発言をしそうなので、背中は拭かずにティルの家を後にした。




 今度はモーリッツさんのお見舞いに来た。

 ティルの父親だが今は治療院に入院している。

 雄黄ネズミに気付いた時に追い払おうと近づいてしまったらしく、治療院での療養が必要だそうだ。

 モーリッツさんには聴きたいことがあった。

 決して背中を拭きに来たわけではない。


「覚えています…よね」

「ああ。本当は色々聴きたいが……。スキルなんだろうから、詳しくは話してくれる訳ではないよな」

「すみません。できれば他の人にも秘密でお願いしたいんですけど」

「安心しな。誰にも言っていない。他の奴らは気絶してたみたいだし、俺が黙ってれば、村までみんなを運んだ方法は誰もわからないさ」


 これなら大丈夫そうかな。

 マジックボックスでさえ、一部の大商会とか、宮廷魔導師でないと使えないような高位スキルだ。生き物をそのまま収納できるストレージは超高位スキルになるだろう。そんなのを持っているとは流石に世間にはばれたくない。


「ありがとうございます。それで、あの時ってどこまで覚えていますか?運んでいる時ってどんな感じだったんですか?」

「ほとんど覚えていないよ。リンに触れられたと思ったら、真っ白な部屋にいたな。その後すぐに村のそばに出てきたぞ」


 時間の止まるストレージの中の記憶はないけど、インベントリは覚えていると。

 白い部屋というのがインベントリの中のことだろう。

 ストレージには移動したことすら認識できていないんじゃないだろうか。


「リン。その特殊なスキルといい、アカガネ狼を倒した時の異常な強さといい、お前のその能力は、他の奴らとは桁が違う。まだ隠している能力があるんだろう?」


 やっぱりそう考えるよな。

 緊張で喉が鳴る。


「一人の人族がこれだけの力を持ったことは今までなかったはずだ。いやどの種族でもいないかもな。お前はもっと自分を知るべきだ。その能力に潰されないように自分自身をよく知り、何があっても切り抜ける知識を身につけろ。

 お前の爺さんはかつての宮廷魔導師だったのは知っているな。あの爺さんは若い頃、いろんなことを調べてその知識をうまく使い、宮廷魔導師のトップにまでなった人だ。

 爺さんに色々聴いてみるといい」


 モーリッツさんは僕のことを心配してくれているようだ。

 異常な力を持っていることで、気持ち悪がられたり、恐れられなくて良かった。



 治療院を出て、今度はじいちゃんに会いに行こう。

 じいちゃんは村の中にはいない。

 村全体をぐるっと囲む外壁を出て、5分ほど東に進むと森を抜け、大きな岩がそこら中に飛び出ている荒地にでる。

 その岩の間に小屋があり、そこにじいちゃんは住んでいる。

 この岩場には強い魔物が出るはずだけど、なぜかこのじいちゃんの小屋から西へは魔物が入り込んで来ない。

 じいちゃんが何かしているんだと思うけど、なかなか教えてくれないな。


「じいちゃーん。来たよー」

「おお、リンか。今朝アルメルウサギとクロメルウサギを捕まえてな。ほれ、丁度煮えた頃じゃろ。こっち座って食べなさい」


 アルメルウサギとクロメルウサギは似たようなウサギだけど、この二種類を一緒に煮込むとパチパチと弾けるような味のするスープが出来上がる。部屋を暗くするとスープがキラキラ光って綺麗なので、誕生日やお祝いごとのときに出されることが多い。

 都会ではデートのときに、ムードのいいお店で男が奮発して注文するそうだ。

 今はじいちゃんとだからムードも何もないけどね。


 うん。おいしい!

 口の中がちょっとピリピリするけど、それもまた癖になる。


 食事をして落ち着いたところで、じいちゃんに話を聞く。


 少し変わったスキルをもらったこと。

 魔物が増えてきたこと。

 細かなところはぼかしながら、何となく世の中がおかしな感じがするということや、もっと知識を増やして何かが起きた時に対処できるようにしておきたい、ということを伝える。

 今までもよくこうやって一人でここに訪れては、じいちゃんに将来の夢や憧れの人の話をしている。


「リンは賢者様が好きだからのう。あの物語の賢者様は不器用な方として面白おかしいように書かれておるのに、リンは何故そこまで気にいっているのかの?」


 小さい頃から読んでいる、ラダマイア冒険記という勇者の物語が大好きだった。

 主人公の勇者には興味はなく、その仲間の、ちょっとおっちょこちょいで、不器用な賢者様が僕のお気に入りだ。


 この賢者様は、若い頃は見習い魔法士として大した成果をあげられずにいた。猛勉強をして、とうとう長い呪文を唱える必要のある上級魔法の爆裂魔法を覚えてしまった。だが、見習い魔法士では上級魔法など発動できるわけがない。

 そこがおっちょこちょいだと、みんなが笑うところみたいだ。

 だけど、僕はその努力と上級魔法を体得したという結果をだした、この賢者様を尊敬する。


 その後、賢者様は回復魔法も覚えようとするけど、どうせならと全体を全回復してしまう魔法から覚えてしまう。

 一人を回復しようとすると他のメンバーも全回復してしまう、というところも笑いどころらしいけど、僕には仲間を少しでも危険に晒さないために考えた上でのことなんだと思う。

 いつもそのせいでマナ不足になるのは、仕方ないことだと思う。うん、いや、そこはだめかな。

 とにかく、その賢者様のこともあって、僕はいつもじいちゃんには、爆裂魔法と全体回復魔法が使える賢者を目指すんだ、と話してきていた。


「いつか賢者様のようになるんだ。その為には、今はいろんなことを知りたい。スキルもそうだけど、じいちゃんは若い頃にたくさんのことを調べたんでしょ?何か役に立つことを教えてよ」

「今のうちから知識を得ることはいいことじゃよ。じゃがな、リンよ、知識だけではだめじゃ。その知識から学び取り、よく考えて行動に結びつける力を養うのじゃ」

「力…。そういうのも力っていうの?」

「そうじゃ。力じゃ。腕っぷしだけが力ではないぞ。自分の考えを正しいと思う方向に導いてそれを行動に移すのも力じゃよ」


 そうか。スキルを得て能力が強くなるだけが自分の力じゃないんだな。そういう、目に見えない力も鍛えないとな。


「ほっほ。いい顔をするようになったの。どれ、じいちゃんがリンに面白い話をしてあげようか」



 じいちゃんは物語とも神話とも付かない話を始めた。


 かつて、神々は住んでいた神界から、この下界に降りてきて、人族や他の種族と共に平和に暮らしていた。

 ところが、ある時、人族に騙されて、「真実の書」という神々の知識が書かれた本を奪われてしまう。

 この本には、人族の文明を一気に進めるだけの高度な知識や技術、強力な魔法なども書かれていたため、人族はそれを盗んで利用しようとした。

 そして、その書に書かれた魔法で「ヴェラルドの鍵」というものを作り出す。

 その「ヴェラルドの鍵」を使い「真実の書」を神々の目の届かないところに隠してしまったのだ。


 どうやっても「真実の書」が見つからないと知った神々は、「ヴェラルドの鍵」を破壊して「真実の書」を取り戻そうとしたが、人族の長は「ヴェラルドの鍵」を人族の巫女の魂に封印してから「真実の書」に書かれていた転生術を使い転生させてしまった。


 怒った神々は下界に破壊の雨と呪いの霧を撒き散らしながら神界に帰ってしまった。そのせいで人族の文明は一歩後戻りをしてしまうほどだった。

 辛うじて呪い受けずに済んだ人族が集まり「真実の書」を使う事で、人族が存続できるように耐えた。

 最後には以前よりも高度な文明にまですることができた。

 これが、約500年前に実際に起きた事だとじいちゃんは言う。


「ヴェラルドの鍵」と「真実の書」はどちらも現存しない。

「ヴェラルドの鍵」は巫女に封印されて転生してしまったので、いつこの世に生まれ出てくるかわかっていない。

「真実の書」は200年程前に焼失してしまっている。

 だが、「真実の書」には写本が存在する。

 マグヌス写本と呼ばれるその写本は、原本が焼かれてしまう数年前に、賢者マグヌスにより全文が書き写された。

 マグヌス写本は一冊だけだったが、この焼失事件を教訓にして、写本の写本がいくつも作られた。


 ところが写本には原本と違うところがあった。

 書き写しているときは、正しく写せているとマグヌスも確認しながら進めていたが、原本の焼失後、写本を見てみると、一部の文章が意味のわからない言葉に変わっていた。

 単語ひとつひとつを見ると意味がわかるのだが、文章として読むと途端に理解できなくなる。

 そして写本を更に写した、写本の写本も意味がわからない部分が増えた。

 一文字ずつ写本と見比べると、正しく書き写されているのだが、写本の写本だけを読むと意味がわからなくなる部分が出てくる。

 全てを写すと分からなくなる部分が増えたため二種類の写本の写本が作られた。

 部分的だが正確に写されたラーシュ写本。

 読めなくなる部分が多くなるが全体を写したマテウス=ヤルマル写本だ。


 マグヌス写本は大聖堂に厳重に保管されていて、枢機卿や一部の者にしか見ることができないが、写本の写本は大きめの都市の図書館や教会においてあり、頼めば、監視付きだが閲覧は可能だ。

 王立の学校ならラーシュ写本を持っていて授業で使う事もあるらしい。


 この写本の写本でも、スキルや世の中のことで、役に立つ事が書いてあるかもしれない。

 じいちゃんも写本の写本から得た知識で、助かったことが多いそうだ。


「リン。いつか写本の写本を見に行ってみるといいじゃろ。読めば必ずリンの役に立つ。そして賢者様に一歩でも近づくのじゃ」

「うん。これは絶対に見てみたいよ!どうやったらそれがある場所に今すぐ行けるか考えてみるよ!」

「あぁ、いや、今はまだ早いかのー。もうちっと大人になってからにしといたほうがいいんじゃなかろうか。ほれ、見れる図書館、遠いしの」


 僕はもう、じいちゃんの声は聞いていなかった。

 世の中の知らないことがたくさん書いてある真実の書。

 写本のまた写本だけど、それが読める、知ることができる、と思うとワクワクが止まらない。

 僕が得た、スキルを作成するスキルと真実の書を合わせれば、賢者様のようになれるんじゃないかと期待してしまう。


「じいちゃんありがと。早速帰って作戦を練ってみるよ!」


 じいちゃんが何か言っていたけど、もう気にしてられない。

 じいちゃんの家を出て、走って家のある村に戻った。

 途中で体力が無くなって余計に遅くなってしまったけど…。


 家に帰ると、早速、写本の写本を読みに行くために必要なことを考える。

 まず、写本の写本がある一番近い場所は、都市メールスの図書館と教会に一冊ずつある。

 図書館にラーシュ写本が、教会にマテウス=ヤルマル写本が置いてある。

 部分的でも読めるところが多いラーシュ写本の方がいいかな。

 図書館の方が閲覧許可が出やすそうだし。


 メールスまではこの村からは、徒歩でとなり町まで半日で行き、そこからは馬車で5日程だ。

 往復するだけで11日、ラーシュ写本を読むのに2日かけたとして13日かかる。半月近くの旅になる。

 両親がそんな旅を許してくれるだろうか。

 お金もかかる。

 13日分の食事、往復の馬車代、となり町からメールスまでの間に町が一つあって、そこで泊まる往復の宿代とメールスでの滞在費だ。

 子ども一人で行かせてくれるはずはないので、引率の大人の費用も出さないといけない。

 その人の13日分の稼ぎが無くなるのだから、その分の不足分も補う必要がある。

 途方も無い金額になりそうだけど、ラーシュ写本を読むためには、何としてもお金を作り、両親を説得するんだ。

 それだけのお金を稼げる、と見せられれば説得は出来そうな気がする。

 引率してくれる大人も探さないとだけど、それは後で考えよう。



 それなら、まずはメールスに行くのに必要なお金を稼ぐ。

 それを最初の目標にしよう。





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