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第四十九話 訪問者

 教会図書館に来ていた。

 僕とベルシュで。

 ベルシュの真の名はベルンシュタイン=グリンマー=クップファーと言うらしい。

 なるほど、エルツの名だ。


 ここで、カルに合わせると言うか、神託を賜りたいと言って聞かないので、仕方なく来た。

 まあ、これがエルツ族の為になるのなら別に良いけどね。


「えっと、カル?遊びに来たよ?居る?」

「女神様にそんな軽い口調で話せるのですか?!凄まじいお方ですね」


 あまりクロもカルも神様って感じはしないんだよな。

 きっと他の神様は演技スキルを持ってるんだ。


「こ、こ、こ」

「こ?」


 前の方から教会の女性がやって来て、唐突に鶏の真似をし始めた。


「こん!にちは!リンくん!」

「あ、カルだったんだ。こんにちは。さっきの鶏の真似、上手だね」

「あ、ありがと!え?鶏?真似?」

「もしかして、カルサイト様?ご神託!す、凄い!こんなあっさりと」


 良かった。すんなりカルに会えた。

 あ、でもお金掛かるんだっけ。

 早めに用を済ませないとだ。


「カル。今日はお願いがあって来たんだ。カルにしか頼めないんだ。いいかな?」

「ふは!お願い!?わ、分かりました。何処に神罰を落とせば良いのですか?ノルドですか?」

「ちょっと待った。そんな歴史が変わるような事はやめておこうかな?あれ?カルって揉め事を嫌う希望の神様じゃなかったっけ」


 これ、僕のせいかな。

 そんな気がするから、責任を持って更生させないと。


「カル?お願いはね。この人はエルツ族なんだけど、この人の為にご神託を出してくれないかな。どうすればエルツ族が復興出来るかとか、迫害されないで済むかとか」

「その人は、、、確かにエルツの血を引くお方ですね。神託ですか。構いませんけど、私は大した事は言えませんよ?硬度が低い神は効果の高い奇跡を起こしにくいんです。そのかわりこうやって普段から人々とお話ししたり、簡単な奇跡を多く起こす事が出来るんです。高硬度の神ですと、国を一気に滅ぼす事も可能ですけど、滅多なことでは奇跡は発動出来ないんです」


 硬度にそんな秘密が!?

 硬度2のクロが何も出来なさそうと感じたのは合ってたんだ。


「それで、全然いいよ。カルが何か助言をくれればエルツの手助けになると思うから。あ、でも、これもお金掛かるの?」

「そうですね。曲がりなりにも奇跡ですので、多少は」

「ごめん。クロと会話させてくれた時もそうだけど、必ずカルには何かで返すから。カルの為なら僕が何でもするよ?」

「も、もうそれだけでごちそうさまでした。こうなったら奇跡バンバン起こしちゃいます!貯金おろして来ます!」

「待って!ちょっとでいいからね!」


 暴走しそうで怖い。

 責任を持つって大変なんだなぁ。

 間違って悪い道に進む前に何とかしないと。


「え、そうですか?分かりました、神託ですね。えっと、これでいいはずです!奇跡、神託行きます!発動!あ、間違えた、何で神罰と隣なの?危なかったあ、キャンセル効いた」


 硬度って頭の緩さにも関係してたりするの?

 クロと似た者同士なんですけど。


「もう一度行きます。えいっ。えっと出ました!おほん。神託を授けます。えー。神託番号、S52543の2。案件名、鉱物目鉱石科、通称エルツの社会的地位の復旧方法について」

「あの、それ読まなくていい部分じゃ」

「え?そうなのですか?いつも、神託をする時はこうやってたのですけど。ええっ!みんな何も言わないから読むものとばかり思ってました」


 これはカルが間違っているのをみんな微笑ましく見てたんだろうな。

 二つ名の心のオアシスってこういう事なのかもしれない。


「うううっ、本文、エルツの民よ、ヒトの英雄と共に悪しき精霊を打ち果たせ。さすればヒトの民に認められよう」


 まだ余計な所を読んでるし。


「カル。それってそういう風に書いてあるの?」

「あ、はい。そのまま読めば神託風になるような文章が自動で作られるんです。こんな文章、私は作れませんよ。うふふ」


 うふふって。

 クロといい、軟弱硬度女神は文章を作るのも苦手だ、と。


「つまり、人族の英雄を助けて、精霊?とやらの悪い奴らを倒せばいいんだね。英雄って誰だ?」

「あ、ヒトの英雄の所に※1って付いてます。※1、ヒトの英雄とは、人族アバターの一つ。ベニトアイト神の証を持つ者、と書いてあります」


 僕の事じゃん!そう言えば、低硬度の英雄とは僕の事でした。

 ベニトアイトの勲章がこんな所で出てくるのかよ。


「精霊って妖精とかそう言うのだよね」

「ちょっと違います。神としての役職の一つ下に天使というのがあるのですが、その更に下が精霊になります。精霊はほぼ実動部隊ですね。アバターを使ってこちらの世界で様々な事をします。天使はその精霊を監督するエリアマネージャーですね。妖精は精霊の下に付く部隊員みたいなものです」

「う、うん。そっちも結構大変なんだね」

「その精霊達が最近、こちらの世界で悪い事をしているというのが度々報じられていて、話題になっていたんです。昨日もトレンド上位に上がっていました。精霊と言っても私たち神とたいして変わらず、神の力を使う権限を持つかどうかとか、知識の奔流、アカシックレコードデータセンターへのアクセス権があるかとか、その辺の違いになるんです」


 とにかく、その精霊達がこの世界で悪さをしているから、僕がエルツと一緒に懲らしめる、という訳だな。


「あ、あと、この神託がキッカケで何かエルツの民にとってプラスになれば、それが査定されて私に手当て金が出ますので、この神託に掛かったお金は気にしないでくださいね?エルツの人達がこの神託を聞いたら希望を持てた!とかで、もうペイできるので。この辺が低硬度神のいい所です。薄利多売ですね」


 それなら良かったけど、クロはなんでこれで貧乏なんだよ。

 神の奇跡の使い方が下手過ぎなんじゃないの?



 あまりずっと話していると通信料とかいうのが掛かってしまうので、ある程度話を聞いたところで、カルの所を引き上げてきた。

 本当はアバターし放題というプランがあるけど、基本料金が高いのだそうだ。


「女神様もご苦労されているんですね」

「まだあの女神は楽な方かな。僕の専属女神は信者が少ないみたいでさ。多分そのせいで貧乏暮しなんだと思う」

「はあ、上には上がいらっしゃるんですね」

「下には下、だね」


 街の中を二人で歩いていると、ふと気になる事があった。

 人の視線を気にして歩く必要がない、と。

 エルツ族の人と一緒なのに、バレてないか、とか、目立ってないかとか今まで全然気にしていなかった。

 フィアとかのように家族じゃないから?とも思ったけど、違った。


 髪と瞳の色がエルツ特有のものでは無かったからだ。

 蒼い髪と銀色の瞳。

 それがエルツの特徴であり、見た目ではそこでしか識別できない。

 だけど、ベルシュは黒髪に黒い瞳だった。


「ベルシュのその髪と瞳はどうしたの?染めてるの?キレイな蒼い髪と銀の瞳な筈なのに」

「ほえええ!?そんな事もご存知なんですか?フェルゼンさんと知り合いなのもやっぱり本当なんですね」


 今まで信じてなかったのかよ。


「これ、私のスキルなんです。認識阻害って言うんです。それで、私のエルツって言う情報だけを周りの人の認識から外しているんです。そうすると、エルツを判別できる人にとっては髪と瞳が別の色に見えてしまうんです」


 ほう、いい事を聞いた。



「にんしきそがい」


 [にんしきそがい]検索結果 1件


  認識阻害SLv1


  [戻る]



 おお!あったぞ。

 これ作っとこ。


「あの?急に変な喋り方になってどうしました?お腹痛いですか?」

「そこはあまり気にしないで」


 これで家族シェア+を利用してこのスキルを使えればフィアも学校に通えるかも。


「明日からもよろしくね。キミがエルツ族って言うのは当然誰にも言わないし、学校では今まで通りに接するね」

「はい!エルツを救ってくださる英雄様!今後ともよろしくお願いします!」

「あ、いや、今まで通りで。英雄様とかダメ」

「そうでした!リン様!」

「それも、、、それは今まで通りなのか、、、まあそれはいいか。いいのか?」



 翌日からも授業の合間にはちょくちょく図書館塔に赴き、ラーシュ写本とスキル一覧の本を探しつつ、ここに来る人達がいないか見張っていた。


 図書館塔の上層に来る1年生というのは思っていたより多かった。

 まずはロルフ・バルマー。

 シャッハで同じチームのロルフだ。

 認識阻害スキルでこっそり後ろから何の本を見てるか確認してみたら、『続 年上彼女の作り方』という本をブツブツ言いながら読んでいた。

 この本がチェインドライブラリーにある意味が分からない。

 まあ、ロルフは勇者候補には関係ないだろう。


 それに、ウルリーカ・クルル。リーカも来ていた。

 古い書物に興味があるみたいで、チェインドライブラリーの書物を満遍なく順番に見ていた。

 分野が違う書籍でも構わず読みふけっていて、書いてある内容と言うよりは古い言い回しとか、装丁の古さに夢中になっていた。

 んー。あまり中身見てないよね。

 インクの匂いとか嗅いでたりするし。


 次に来たのはゼルマ・ウルブルという女子だ。

 あとで調べたら隣のクラスの子で『ドリーオハトの書』という本を見ていた。

 最初にこの本のタイトルを見た時は何の本だか分からなかったけど、とうやら魔法書らしい。

 このゼルマという子は魔法が不得手のようで、たまにここで勉強しているようだ。

 この子も写本には関係なさそうだ。


 少し気になったのがミスティルテイン=ハップ=エンギルという家名が二つあるこの女性だ。

 だけど、名前の特徴としてはエルツらしさがない。

 もちろん髪も瞳もエルツの色では無かった。

 読んでいたのは『精霊の秘密の詩』。

 詩集だと思っていたけど違うようだ。


 古フォルク語という古い言葉で書かれていて、僕は母さんがこの手の本をいっぱい持っていたから、たまに教えてもらっていて多少は読めた。

 本の中身としては、精霊が様々な所で聞き集めた神や天使の悪事を詩の形式にして綴ったものだった。


 こんな本を読もうとしている事や古フォルク語が読める事、名前が特徴的な事。

 ラーシュ写本とは関係なさそうだけど、どうにも気になるなぁ。


 何か他にこの人の事が分かる手掛かりは無いものだろうか。

 認識阻害でそろりそろり後ろから近づいて観察してみる。

 見た感じでは普通の中等部1年生だ。

 でも何か違和感があるんだよな。

 んー。

 はっ!マナだ。マナは普段見ようと意識しなければ、気にならなくなるけど、見えていない訳ではない。

 そのマナの色が緑がかっている。

 人族のマナは白だ。

 エルツ族は銀色にキラキラしている。

 どれもそんなにはっきりとした違いがある訳じゃない。

 でも、この人のマナはわずかに緑のイメージがあった。


 やっぱり別の種族なんだ。


「女性の事を間近で見続けるのはマナー違反」


 へ?あ、あれ?バレてる?

 物凄い無表情でこっちを見ているのが怖い。


「そこに居るのは既に把握。諦めて出て来た方が得策」


 やっぱり。何故だ?認識阻害はちゃんと発動しているはずだ。

 仕方ない姿を現わすか。


「…………と言って見たけど、誰もいない………。恥ずかしい。とても恥ずかしい。独り言を長々と言って気を紛らわす程に恥ずかしい」


 よし!まだはっきりとはバレて無かった!

 危なかったぁ。

 思いっきり恥ずかしがってるけど、お人形のような顔は無表情のままだな。

 全然赤くもなっていない。

 どっちなんだ?

 演技か下手なだけ?

 それとも、表情筋が無い人なの?


「と、思わせて、そこ!」


 うわあ。びっくりしたぁ。

 ビシッと指差してるけど、そこには誰も来ませんよ。

 僕は後ろです。


「ああ。恥ずかしくて、思わず実はいたんだというフリで現実逃避。じゃなくて、こっち」


 指差したまま急にグルンと回転してこちらを向く。

 指が僕のほっぺにめり込む。


「ぐふぇ」


 変な声が出た。


「何かに突き刺さった感触。恐怖。グリグリ」


 指がほっぺをグリグリする。


「いひゃい。もうバレてるんですね。分かりましたよ。姿を現します」


 そう言って認識阻害スキルを切って、姿を現す。


「びっくり仰天。何故か急に人が出没」


 ええ?まだバレて無かったの?

 いやまあ、声が出ちゃってたしバレたのと同じようなものか。


「あの、同じクラスのミスティルティンさんですよね?」

「否」

「え?」

「ミスティルティンではなく、ミスティルテイン。ティではななく、テイ」

「ああああ、すみません、すみません。ミスティルテインさん。あのコッソリ見てたのは謝ります。でも何で僕がいたのに気付いたんですか?」

「我の目は漆黒の邪眼。なんでも見通す優れもの。ずっと後ろを付けていたのは感知。気づかないフリは大変」


 どうしよう。話の大部分が闇の中だ。

 この人の瞳の色はエメラルドグリーンだし。後ろに来たのはついさっきだし。

 いや、まだだ。諦めちゃダメだ。もう少し頑張ってみよう。


「今読んでた本は何なのですか?古フォルク語で書かれてますよね?」

「この書は悪魔の書。我マナに刻み、天の遣いに嫌がらせをする予定。我らアールブの民が長年にわたって受けた苦しみは3倍にして返さないと気が済まない」


 ああ、つまり、この本を読んで覚えたら、それを使って天使とかに仕返しをしたいんだね。

 何かに成りきってるんだろうけど、微妙に演じきれてない感があるな、この人。


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