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第四十六話 教会図書館

 レベルが一つ上がったので、同じようにしていたらサクサクと腕毛を斬ってしまった。

 危なかった、また腕を斬るところだった。

 硬い毛がゴトンゴトンと落ちるのを見て、この辺でやめておこうとお互い目で語り合う。

 クマと目で会話するなんて日が来るとは思わなかった。


 家に戻ると僕達の稽古はもう誰も見ていなかった。

 リビングでは女性陣が会話の花を咲かせていた。

 奥の、多分子供部屋なんだと思うけど、そこではクマの子ミルヤとマルモ、ブロンがおままごと遊びをしていた。


「ただいま。あなた帰ってきたわよ。え?なにその女は誰なの?」

「えっとマルモかな」

「何なのワタシというものがありながら、こんな田舎臭い女がいいって言うの」

「私、田舎臭く見えるんだ……」

「マルモはお姉ちゃんだよ」

「そう、そういう男よねあなたは。あなたに姉なんていないじゃない。そんなごまかしは通用しないのよ」

「私、とうとう姉でも無くなった」


 斬新なおままごとだな。

 おままごとじゃなくて、実は舞台の稽古だと言ってもおかしくない迫真の演技だ。

 クマ女優ミルヤ、将来が楽しみだ。


「リーンハルト。この光景を見ると、外の世界でヒトと、ヒトが魔物と呼ぶワタシ達とが争っているのが嘘のようだ。ワタシ達はキミらと同じく、平和に暮らしたがっているのがほとんどだ。一部の過激な者が積極的に争っているに過ぎない」

「この光景はちょっと過激ですけどね。おままごとの範疇を超えている」

「それは、、、致し方ない。最近この手の本にハマってしまったらしくてな」


 もう僕達は、クエストは完全にできないな。

 それに例え魔物と対峙しても戦えるか自信が無い。


「ヒトとヒトが国や宗教の違いだけで争うのと同じだ。ヒトと魔物だから争うのではない、思想や価値観が違えばどの種族とも争うし、それが合えば仲間になれる。ワタシ達と同じだ」

「…………」

「ん?ち、違ったか?ワタシとリーンハルトは仲間になれたと思ったんだが」

「ああ、それはええ、仲間というか、友達ですね。まずはお友達から、という事で」

「おお、そうか友達か!良いなその間柄は!」


 魔物とヒトとの価値観は大きく違うだろう。

 でも分かり合える部分が多ければ、それはヒト同士よりも仲良くなれる事もあるはずだ。

 だから僕とリュリュさんは今日から友達だ!


 ノルドとフォルクヴァルツ、国が違うだけで戦争が起きる。

 人族とエルツ族、種族が違うだけで迫害される。

 貴族と平民、同じ人族なのに階級が違うだけでいがみ合う。

 ヒトと魔物の関係も少しの違いなのに、今や争いしかない関係になってしまっている。


 どの間柄も少しだけでいいから、距離が縮まらないかな。

 そういう世界にならないかな。

 勇者になればそう出来るかな。

 やっぱ無し、僕には勇者は向いてない。

 賢者様のポジションに居て、そして、そこから、様々なものの距離が近い世界にしていく手伝いが出来ればいい、と思う。

 今は少しだけ、お隣さんが遠い。

 なので、少しだけ寂しい。


「キミは面白い。キミの側に居れば世の中が変わる瞬間を見届ける事が出来そうに思えてならない」

「買い被り過ぎですよ。それに世界を変える瞬間が来るとしても、それを成し遂げるのは僕である必要は無くて、誰がやったかなんて関係無いんです。だってそうでしょう。みんなが笑顔になったんならそれでいいんです。僕は誰にも知られなくても良いので、裏で『実はこれ僕のお陰なんだぜ』って一人で喜ぶのが夢なんです」

「………途中までは感動しそうだったのだが………。この気持ちどうしてくれる」


 ええ?全部感動してくれないの?

 おかしいな。


「一つ、我が友に忠告をしておこう。ワタシ達、石の獣の中にも様々な思想の者がいる。ワタシのようにヒトと関わる事に抵抗がない者。逆にヒトを敵としか見ず、駆逐しようと画策している者。などなどだ」


 え?魔物がヒトを駆逐!?

 魔物をじゃなくて。

 クエストでは魔物は倒して当然の存在だったけど、その逆が起こりうる、という事だ。


「その中でも魔王派は近いうちに復活する魔王を旗頭にしてヒトを殲滅すると息巻いている。そして、ほぼ同時に資格を得ると言われている勇者を、その才覚を発揮する前に倒してしまえ、とも言っている」


 それって僕の事じゃん!

 あ、でも今はその資格、じゃなくて、運命か、それが剥奪されてるから、討伐対象からは外れたのかな。


「まあ、そういう訳だから、魔物も一枚岩では無いという事だ。ヒトと寄り添おうと思う者もいれば、その逆も居るという事を心の何処かにでも書き留めて置いてくれないか」

「ええ。しっかりと書いておきました」


 情報操作スキルで忘れないように書いておきました。

 というよりさっきのリュリュさんの声も含めて、会話全てを音声入力で文字に書き起こしてあります。


「そうだ、さっきワタシの体毛をあの剣で斬っていただろう?」

「ああ、すみません!そこだけ毛が薄くなっちゃって」

「それはいい、すぐ生え変わる。この斬った毛を全部拾っておいたのだが、これをリーンハルト、キミにあげよう」


 えっと、クマの毛かぁ、いらないかなぁ。


「これを上手く加工すれば、キミの持つギベオンの剣よりも硬度のある素晴らしい剣が作れるだろう。我が誇り高き銀の毛はその若者の毛など比べ物にならない硬度だぞ」


 おお!欲しい!貰います!

 有り難く頂戴します!


 帰り道はリュリュさんに教えてもらった通りに歩いたら直ぐに上の階に行くハシゴに着いた。

 紛らわしい脇道が多いだけで、曲がるのは数ヶ所で良かった。

 地上一階に戻って入り口の方に進むと、また魔物役をしてくれてる魔物達に出くわす。

 なんちゃって剣でポカポカ叩くとまた倒れたフリをしてくれた。


「ありがとね!楽しかったよ」


 一緒に遊んでくれたのが嬉しくなって、つい声を掛けてしまった。

 あ、あのクロモリウサギ、倒れたフリをしてるはずなのにこっち見て驚いてるよ。

 楽しかったし、リュリュさん達にも逢いたいから、また来たいな、ここ。


「ふぃ〜!結構遊んだわね。意外な知り合いも出来たし」

「私もうダメかと思ったわよ。あの時」


 冒険者村を出るともう夕方になっていた。


「結構あの中に居たんだな」

「半分はクマさんの所でくつろいでたんだけどね」


 さっきクマの毛を貰ったからどうにか加工できないか調べてみたいな。


「みんな先に帰っててくれないかな。僕はさっき来るときに見つけた教会図書館に寄ってから帰るよ」

「それなら私達も付いて行ってもいいのよ?」

「いいのいいの。ちょっと見たいだけだし。マルモとブロンもだいぶ疲れた様子だから、家に帰って、くてってしててよ」

「そう?正直クタクタな感はあるのよね。じゃ、お言葉に甘えて帰ってるわね」


 みんなと別れて一人、教会へ向かう。

 この教会には図書館が併設されて居るらしく、文字通り教会図書館と呼ばれている。

 この教会もどちらかと言えば教会学校と呼ばれていて、休みの日に子供達に勉強を教えているようだ。


 教会の中を覗くと、マルモ達くらいの子供が夢中になって勉強をしているのが見えた。

 マルモとブロンも休みの日にここで習えないかな。

 でも、エルツ族は無理か。

 ああ、もう!遊ぶ場所とかお店くらいなら平気なんだけどな。


 隣にある建物が教会図書館のようだ。

 中はヒンヤリとした空気で涼しい。

 人もボランティアでやってる司書さんとあとは数人の利用者くらいしかいない。

 お邪魔しますよ。


 さて、剣作りの本はあるかな、っと。

 ああ、当たり前と言えばそうなんだけど、宗教関係の本ばっかりだ。

 ここはカルサイト神という神様を信仰している教会のようだ。

 蔵書もカルサイト神が書かれた物ばかりある。


 女神、カルサイト。

 繁栄や成功に導き、人々に希望を与える神。

 揉め事を嫌い、神話では種族間の戦争や神同士の争いを幾度も仲裁している。


 反面、この神自身が脆く心が割れやすいという話が多い。心が壊れる、じゃなくて、心が割れる、なんだなこの知識。誤植か?

 基調色は白で、硬度は結構低くて3だ。低硬度派の中では『希望の輝き、心のオアシス』と呼ばれているとかなんとか。

 なんだよ低硬度派って。

 クロの神様仲間で良いのか?


 確か僕も低硬度の英雄とか二つ名を無理矢理付けられてたっけ。

 出でよ!母さんから引き継いだ真実の書の知識!

 えっと、何々。硬度派は硬度至上主義で、硬度こそが神の価値である、と考える一派か。

 そして、低硬度派というのは脆く崩れやすいからこそ、人々の心を理解してくれる、人々に近しい神が一番!と考える派閥ね。


 クロって真の名はなんだったっけ。

 えーっと、クロルリルアかな?クロって僕が名付けたんだから、クロが名前に入ってる筈だよ。

 クロリン、クリルロラリア、クルルーカ。

 ま、いいか。


「良くないっ!クリノクロア!んもー、ちょおっと間を開けたら、すぅぐ忘れちゃうんだからぁ!」


 この馬鹿そうな話し方はもしかしなくてもクロか?


「ヘイヘイヘイ!誰が馬鹿そうなのよ!この天才美少女クロ様を捕まえて、馬鹿そーとは何よっ!」


 馬鹿そうな雰囲気が声に染み出してるよ。

 あ、声?誰が話してるんだ?

 後ろから聞こえる声に振り向く。

 そこにはこの教会の人とおぼしき女性が、かわいそうな事に馬鹿そうな表情をさせられて立っていた。


「だから、私、頭いいんだって!神の中でも結構トップクラスなのよ?頭の硬い高硬度の奴らとは柔軟さが違うわよ」


 ねぇ、久しぶりなのは良いんだけど、クロが話せるのは僕に好意を持ってる人だけって言ってなかった?

 この人初対面だよ?


「ん!それはね、ここのカルちゃんは私のお友達なのさ。それで、彼女の信徒のこのアバター、、、あ、この人にお願いをして体を貸してもらってるって訳よ。託宣とか神託とかいつもやってるからね」


 カルちゃん、、、ああ、女神カルサイトの事ね。

 なるほど、敬虔な信徒なら神懸かりみたいな感じで相手が誰でもできるんだな。


「あ、ちょっと待ってね。…………あ、うん、今会えたよ。カルちゃんも来なよ。いいから。早く来ないとリンにカルちゃんの有る事無い事、ペラペラ話しちゃうよ?お泊まり会やった時にカルちゃんがねぇ。分かった分かった言わないから、早く来てね。……………ふう。リン、待たせてごめんねぇ、ちょっと用事があってね」


 ここは敢えて何も考えないでおこう。

 カルちゃん来るの?


「うえっ?ななな何のことかぬぁ?あ、そうそう!それで私の名前よ!クリノクロアは忘れちゃダメなんだよ。リンの加護に影響出るんだから。クリノクロアを忘れずに」


 加護に、名前で?

 そうか、じゃあ、メモしておこう。

 情報操作スキルを起動して。


「くりのくろあ。くろのしんのな」


 情報表示スキルで見てみると。


 クリノクロア。クロの真の名。


 よし、これで覚えたぞ。


「それはね、覚えたとは言わないのよ?書いただけよ?書いた事を忘れちゃうのよ?」


 ま、まあ、今度はちゃんと覚えたよ。

 クラノクリア。


「クリノクロア!セイ!」

「ク、クリノクロア」

「よろしい」


 も、もう平気な筈。


「ふふふ、クロちゃんはいつも楽しそうね」


 誰だ!見られた!?

 この馬鹿っぽい会話を!


「………平気よ。さっき言ってたカルちゃんよ。他のアバターでこっちに来てもらったの」


 あ、さっきのやりとりか。


「はじめまして。カルサイトと言います。クロちゃんと一緒で女神をやってます。よろしくね」


 あ、よろしく。


「カルちゃんにはリンの心の声は聞こえないわよ?これは真の友情があるから通じるリンと私だけの会話なのよ」

「加護を授けているとその人の心の声が聞こえるんです」

「あ、そうなんだ。リンです。よろしく」


 じゃあこうやって考えない方がいいんだな。


「そうね、そうしないと私がいきなり話し始めるという、おかしな人みたいになっちゃうからね」

「ふふふふ。今も充分面白いわよ。クロちゃん」

「あれ?クロって今まで友達とかいなかったんじゃないの?クロって呼んでくれる人もいなかったって」


 僕がクロって呼んだのが嬉しそうだったのを覚えてる。


「あの後お友達になったのよ。前から知り合いだったんだけどね。リンとの会話をオブザーバーモードで見てたらしくって、その時にリンの事がす「うわあああああ!クロちゃん!クロちゃん!おかしいよね、今その話をここでするのは変よね?ね?ね?」

「あ、そうか。知られたくないか。まだ全部言ってないからセーフセーフ」


 き、気になる。

 リンの事が、す!

 この後っていったら、もうあれだよね!

 こんなキレイな人に、す!だよ?

 あ、この人はカルサイトさんじゃないのか。


「リン。さっきの私の発言は無かったことにしてね?じゃないと、私、最終手段を使わないといけなくなるのよ」

「怖いよ。分かったよ、さっきは何も聞いてない。これでいい?」

「うむ」

「それで?急に割り込んで話しかけて来たのには意味があるんでしょ?流石に名前を忘れただけではお金を掛けて話して来ないよね?」


 貧乏女神だからね。


「それよ!名前なんかどうでもいい、、、くはないけど。それよりも!勇者候補の捜索はどうしたのよ!もう入学したんだから図書館塔に行って誰か来てないか調べなさいよ!」

「あ……………ごめん、すっかり忘れてた」


 しまった。

 シャッハだとか、王都村?とか色々楽しかっ、、、忙しかったから、すっぽり抜けていた。


「んもう、ちゃんとしてよね!生活が掛かってるんだからね!カルちゃんも言ってやってよ!」

「え?え?あ、あのリリリリリリンくん」

「ああもう、ひと昔の電話じゃないんだから!ほら、せっかく話せるんだから、勇気を出して!」

「あううぅ。リ、リンくん!私!あ、あなたのことが!あ、違うぅ!何言おうとしてるの!私!そうじゃなくて!頑張ってね!いつも見てるからね!あ、違うの、いつもってそんなにずっとじゃないからね!」

「落ち着いてカルちゃん。若干リンが引いてるから」


 だ、大丈夫。このレベルなら何度か経験済みだから。


「そ、そう、ね。頑張ってね、ホントに」


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